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2022年11月号

プレキャストコンクリート製品の役割
〜従来製品への付加価値追及 「人のためのコンクリート」へ〜

「コンクリートから人へ」。2009年に,当時の政権が掲げたスローガンは,コンクリートに携わる我々業界に大きなショックを与えました。しかしながら,その後発生した2011年の東日本大震災をはじめ,各地で起きた豪雨による激甚災害等からの復旧には,大小様々なプレキャストコンクリート製品が使われました。普段,何気ない生活の中で気づかないような場所にも多くのプレキャストコンクリート製品が使用され,人々の暮らしの安心・安全を支える重要な役割を果たしています(図-1参照)。
これら製品の多くは公共工事によって使用,整備されてきましたが,近年では特に,防災・減災の観点や建設分野での熟練工,人手不足等の解消など,社会問題を解決するため,メーカー各社が製品に様々な付加価値機能を設けて開発した製品が数多くあります。今回はそんな数多くあるプレキャストコンクリート製品のうち,「人のためのコンクリート」として,(1)交通弱者の安全を守る,(2)人手不足解消と多発する災害から守る,(3)快適な日常生活を守る,の3つの視点において付加価値を追求した製品から,一部の事例となる製品をご紹介します。

図-1 様々な場所で使用されるプレキャストコンクリート製品 img
図-1 様々な場所で使用されるプレキャストコンクリート製品

執筆者:情報コミュニケーション委員会 委員
諫山智宏(館山コンクリート株式会社)


(1)交通弱者の安全を守る。
車両通行帯から安全を最大限に確保,通行者に安心を。

普段,当たり前に使用している乗用車やバス等は,いまや我々の生活に欠かすことのできない移動手段となっています。しかしながら,歩行者や自転車と車両との事故は未だになくなることがありません。一般的に,道路には安全を確保するための車両防護柵が設置されていますが,様々な理由で設置されていない場所があるのも現実です。ここで紹介する『自在R連続基礎ブロック』1)は,従来のプレキャストコンクリート製品が苦手としていた曲線対応を,端面を円弧状にし,ブロック同士を上下に組み合わせ,ボルト1本で連結する構造にすることで可能にした,車両用防護柵用の連続基礎です。

図-2 連結構造(株式会社イビコン 提供) img
図-2 連結構造(株式会社イビコン 提供)

車両用防護柵は車両の逸脱防止,乗員の安全確保,第三者(歩行者等)の安全確保を目的として地中に基礎を(または支柱を直接)埋設し,設置されるものですが,すでに地中に埋設物がある現場など,各現場条件により設置ができないケースが多くあります。
また,道路工事による車線規制など一時的な安全確保をする場合,恒久的な設備の設置は困難であり,路面上に視線誘導を目的とした仮設安全施設を設置していました。この『自在R連続基礎ブロック』は,この特長的な構造を活かし,容易な施工と,路面上に置くだけの設置もできることから,これまで安全の確保が困難であった様々な現場の安全を最大限確保することを可能とした,プレキャストコンクリート製品です。

図-3 置き式基礎としての使用例 img
図-4 曲線施工事例 img
図-3 置き式基礎としての使用例 図-4 曲線施工事例
(株式会社イビコン 提供)

この製品は以下の主な特長を有しています。
1.自在なR対応が可能
製品同士は上下組み合わせ,ボルト1本で連結することで連続する基礎として構築します。
自転車のチェーンのように連なることで自在に曲線を描きます。
2.工期短縮
現場で生コンクリートの打込みを必要とする工程が無く,地中埋設式現場打ちの基礎と比較すると供用開始までの期間を1/3まで短縮することが可能です。
3.安全の確保
防護柵の設置基準および車両用防護柵標準仕様とそれぞれの設計手法に基づき設計された製品で,埋設時,置き式時共に衝突時の安全を確保することが可能です。
4.各現場に応じた製品規格
標準仕様のものから,底版を備えた路肩用,基礎断面を大きくした高規格道路用,製品高を低くし,浅層埋設物が多い市街地に使用する交差点用など,多種多様な現場に合うよう8種類の規格を有しています。これにより,現場の要望に合わせた製品で安全確保を実現することが可能です。

昨今,社会的に問題となっている交差点部の車両誤侵入による歩行者を巻き込む事故においては,横断歩道などの開口部に車止めが設置される措置が取られています。この製品は,安全を確保した車止めの基礎として設置することも可能です。また,記憶に新しい通学路での痛ましい事故等を防ぐための早期安全対策として全国各地で採用,設置されています。

図-5 施工状況(交差点用) img
図-6 交差点部車止めの設置事例 img
図-5 施工状況(交差点用) 図-6 交差点部車止めの設置事例
(株式会社イビコン 提供)

(2)人手不足解消と多発する災害から守る。
熟練工いらず。一体型で倒壊を防ぎ,景観にも寄与。

近年,様々な業界で職人の高齢化や人手不足が課題となっていますが,建設業でも,熟練工の高齢化は急速に進んでいます。一方で若者の入職者は少なく職人は恒常的に不足してきています。
プレキャストコンクリート製品は,このような人手不足の解消や工期短縮に貢献することを目指して開発されています。この人手不足,職人不足は,住宅分野においても同様で,特に手間の多い宅地境界部に設けられるフェンスとその基礎部分でのブロック積みを行う職人作業には大きな影響が出ています。
このようなブロック積み職人がいなくても,フェンスの設置までが可能になるよう,開発されたプレキャストコンクリート製品が,フェンス基礎ブロック兼用化粧付境界ブロック『シキール』2)(図-7)です。
この製品は職人不足を解消するだけでなく,突発的に起こる災害時にも大きな役割を果たします。ここ数年,多発する台風災害や地震により,多くのブロック塀が倒壊する事例が発生しており,なかには痛ましい人身事故に繋がる例も少なくありません。従来のブロック積みからなるブロック塀を,プレキャストコンクリート製品で一体型にすることで,突発的に起こる災害時に倒壊や崩壊を起こすことなく,人々の安全を守る製品としても大きく貢献できる製品となりました。

図-7 フェンス基礎ブロック兼用化粧付き境界ブロック(シキール) img
図-7 フェンス基礎ブロック兼用化粧付き境界ブロック(シキール)
(株式会社武井工業所 提供)

一般的な宅地において,周囲4辺のうち道路に接しない3辺は,多くの場合,ネットフェンスを設置する形式が最近は主流となっています。生コンクリートで基礎を形成してその上に空洞ブロックを3段程度積み,図-8の写真のようにそのブロックにフェンスを設置する形式が多くみられます。

図-8 空洞ブロックを使用した事例 img
図-8 空洞ブロックを使用した事例(株式会社武井工業所 提供)

フェンスを設置するまでの工程について,従来工法の一般的なケースと,新たにこの製品を使用した場合の工程の比較は,概ね図-9に示すとおりです。施工例を図-10に示します。

図-9 フェンスを設置するまでの工程の比較 img
図-9 フェンスを設置するまでの工程の比較
図-10 施工例(シキール) img
図-10 施工例(シキール)
(株式会社武井工業所 提供)

従来工法で最も時間を要するのが,基礎部に打ち込んだ生コンクリートの養生時間とブロックを積む手間にかかる時間ですが,この製品は基礎コンクリートとブロックが元々一体成形されている形状のため,養生時間や積み手間の必要がなくなり,施工の省力化だけでなく,施工期間の大幅な短縮を図ることができます。また,これらのニーズに加え,風圧強度を満足し,目隠しフェンスにも対応した製品として開発された製品が『カクセール』(図-11および図-12参照)です。

図-11 目隠しフェンス(上部)とその対応製品(カクセール(下部)) img
図-12 施工例(カクセール) img
図-11 目隠しフェンス(上部)と
その対応製品(カクセール(下部))
図-12 施工例(カクセール)
(株式会社武井工業所 提供)

この製品は,L型擁壁としても使用可能で,従来,目隠しフェンスを設置する場合は直壁の内側(敷地側)に別途設置されるフェンス用基礎を必要とし,基礎ブロックの大きさにより一定面積の土地が活用できませんでしたが,直壁の上部に目隠しフェンスを直接設置できる構造のため,敷地を最大限活用できるというメリットが生まれました(図-13参照)。

図-13 施工方法の比較 img
図-13 施工方法の比較(株式会社武井工業所 提供)

このように,これらのプレキャストコンクリート製品は,施工の省力化や工期短縮,土地の有効利用に限らず,昨今頻発する地震や台風被害に起因するブロック塀の倒壊やそれに伴う事故を防ぐ面でも大きな役割を果たしています。


(3)快適な日常生活を守る。
雑草の発生・繁茂を抑制。道路の視認性や美観向上も。

ここで紹介する『雑草防止工法』3)は,歩車道境界ブロックや側溝等のプレキャストコンクリート製品と舗装との隙間を無くすことで,雑草を自然に枯らして成長を抑止する「防草機能を有する技術」です。製品に特定の形状の突起部を設けて舗装部と噛合わせることにより隙間を生じさせず,植物の種子の混入を防ぎます。また,突起部により根の成長が阻害されるため,雑草が発生した場合も成長できずに自然に枯れていきます。
前述から紹介するように,道路の周辺には様々なプレキャストコンクリート製品が使用され,人々の生活の安全・安心に貢献しています。またインフラ事業は,毎年継続的に新規,補修を問わず実施されていることは周知のとおりです。しかし,せっかく新しい道路ができても,数年もすればこれらのプレキャストコンクリート製品と舗装の間から雑草が茂っている状況が多く見られます(図-14参照)。
雑草は,一度生え始めると舗装を押しのけて成長し続けます。その状況は年を追うごとに激しくなり,増えることはあっても減ることはありません。

図-14 雑草の繁茂イメージ img
図-14 雑草の繁茂イメージ(日本雑草防止工法研究会 提供)

雑草が道路に繁茂することは,道路環境や視界の悪化を引き起こし,思わぬ事故や観光地等の景観悪化(図-15参照)につながります。また,これらを防ぐために,維持管理として多くの費用と人員の負担が掛かり続けます。これらのことから,近年,雑草を防止する工法の技術が切望され,雑草防止技術が世に出てくることになりました。

図-15 実際の繁茂状況(日本雑草防止工法研究会 提供) img
図-15 実際の繁茂状況(日本雑草防止工法研究会 提供)

従来の製品では,舗装との間に噛み合わせがない(図-16参照)ため,植物の種子が混入しやすく,種子が混入した場合は根や葉の成長を阻害する物がないために成長していました。一方,防草型の製品は,製品が持つ突起と舗装ががっちりと噛み合う構造(図-17参照)となっているため隙間が生じにくく,雑草の根本である種子の混入を防ぎます。仮に製品と舗装の間に種子が混入した場合,突起が根の生育を阻害するため成長できず,舗装の下に種子が混入していた場合でも芽が地上に出る隙間がないため,成長できないようになっています。

図-16 従来の製品 img
図-17 防草型の製品 img
図-16 従来の製品 図-17 防草型の製品
(日本雑草防止工法研究会 提供)

これら防草型の製品は,従来の製品を設置するのと同じ施工手間・費用で施工ができ,なおかつ防草シート等,他の工法と比べ一定期間での再処理など不要で経年劣化に対しても非常に強い製品です。この付加価値製品を使用することで次のようなメリットがあります。
1.環境美化への貢献
繁茂した雑草が無くなることで,景観が良くなり道路環境の改善に繋がります。特に観光地では,「環境美化」の観点から大きなメリットを生みます。
2.視認性の確保
走行車両と歩行者,自転車走行者の双方からの視界が良くなり,視認性が高まるため,交通事故の防止と減少に役立ちます。
3.維持管理費の削減,作業負担の軽減
「草刈り費用ゼロのコスト縮減工法」のため,今まで継続的に掛かっていた維持管理に要する経費や人員の配置が不要となります。

この工法の特長は,全国各地の多くの製品メーカーによって「日本雑草防止工法研究会」4)として組織されているため,様々な地域で供給体制が整っており,多種多様なプレキャストコンクリート製品に応用することができます。ここで例に挙げた歩車道境界ブロックに限らず,側溝や擁壁など地表面に露出し舗装と接する製品部分に,ほぼ対応ができるのです。また,施工後の追跡調査でも,全国各地でその効果は一目瞭然となっています(図-18参照)。

図-18 追跡調査結果(日本雑草防止工法研究会 提供) img
図-18 追跡調査結果(日本雑草防止工法研究会 提供)

終わりに

今回ご紹介したこれらのプレキャストコンクリート製品は,我々製品メーカーが様々な創意工夫を凝らし,人々の生活に関わる安全や安心を守るために造り上げてきたほんの一例です。
インフラ整備には欠かすことのできないコンクリートという材料が,この先の脱炭素化社会の実現に大きな課題を持ちつつも,これからも起こるであろう災害や社会問題に備え,どうしたら「人のため」となって人々の生活を支えていけるのか,業界全体で取り組んでいけたらと考えています。

[参考文献,出典・執筆協力]
1)株式会社イビコン
2)株式会社武井工業所
3)中里産業株式会社
4)日本雑草防止工法研究会

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