ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2018年4月号
コンクリートの打込みにおいては,工場で生コンを製造,トラックアジテータに生コンを積込み・出荷,打込み現場まで運搬し,現場で受入れ・コンクリートポンプ車等により打込み,空になったトラックアジテータは生コン工場へ戻るといったサイクルを,複数のトラックアジテータを用いて繰り返しています。また,打込み箇所では,ある平面区画で1層分(高さ約40~50cm程度)コンクリートを打ち込み,次の平面区画で1層分打ち込むことを繰り返し,全ての平面区画を1層分打ち終えると,その上の層を打ち込む(打重ねる)といった作業を繰り返しています。
このようにして打ち込まれたコンクリートの初期欠陥(充填不良・コールドジョイント等)を防止するためには,練混ぜから打終わりまでの時間管理と打重ね時間間隔の管理が必要です。そのためには,トラックアジテータ全車の運行管理と,打込み箇所での打重ね管理をしなくてはいけませんが,複数のコンクリートポンプ車を使用した大量打込みや広範囲に及ぶ打込みの場合,管理が煩雑となりチェック忘れや誤解が生じやすいという問題があります。
本記事では,これらの問題の解決の一助となり,初期欠陥の防止に寄与する技術である,高度な管理と施工管理の省力化とを兼ね備えた「コンクリート施工管理システム」について紹介します。
図-1 大量打込みの様子 |
(1)練混ぜから打終わりまでの時間管理
フレッシュコンクリートの品質は,練上りからの時間経過とともに変化します。従って,例えばスランプの低下に伴う充填不良などが発生しないよう,なるべく早期に打ち終わることが求められます。練混ぜから打終わりまでの許容時間は,建築・土木ともに基準が設けられており,例えば土木学会によると表-1の通りです。
外気温 | 許容時間 |
25℃以下 | 2.0時間 |
25℃を超える | 1.5時間 |
練混ぜから打終わりまでの時間管理では,「トラックアジテータ全車の運行管理」を要します。一般的には,トラックアジテータの現場到着時に運転手から生コン伝票を受領し出荷時刻の確認,現場到着までの時間の把握,現場待機トラックアジテータの数から許容時間内に打ち終えることができるかの判断,といった管理を全車に亘って行っています。
(2)打重ね時間間隔管理
コンクリートを2層以上に分けて打ち込む場合,上層と下層が一体となるように施工する必要があり,コールドジョイントが発生しないよう,なるべく早期に打ち重ねる必要があります。許容打重ね時間間隔は,建築・土木ともに基準が設けられており,例えば土木学会によると表-2の通りです。なお,許容打重ね時間間隔とは,下層のコンクリートを打ち込んでから,下層のコンクリートが固まり始める前に上層のコンクリートを打ち重ねることで,下層と上層の一体性を保つことができる時間間隔を指します。
外気温 | 許容打重ね時間間隔 |
25℃以下 | 2.5時間 |
25℃を超える | 2.0時間 |
一般に,打重ね時間間隔管理では,層毎および打込み区画毎に,コンクリートを打ち込んだ時間を野帳等に手書きで記録し,上層にコンクリートを打ち重ねるまで,絶えず時間を確認するといった管理を全層・全打込み区画に亘って行っています。
これら2つの時間管理について,コンクリート施工管理システムは,ICT(Information and Communication Technology,情報通信技術)を活用することで,初期欠陥を防止可能な高度な管理と,施工管理の省力化を実現しています。なお,コンクリート施工管理システムは,近年のタブレットやスマートフォンの普及に伴い汎用的なシステムが複数開発されており,各々有する機能が異なります。主な機能を以下に紹介しますので,システム選定の際の参考にしてください。
(1)運行管理機能(充填不良防止)
コンクリートの出荷時刻から荷卸し完了までの時間をICタグやタブレット端末・PC,GPS等を用いて記録する機能です。ICタグを利用する場合は,まず,トラックアジテータ1台ごとに車番や配合等の情報を入力したICタグを予め付与し,生コン工場および現場にはICタグ読取り機を設置します。トラックアジテータの運転手は,出荷時,現場到着時,打込み開始・完了時にICタグを読取り機にかざします(図-2)。これで各時刻の登録が完了し,図-3に示すような運行管理画面に一覧表示され,練混ぜから打終わりまでの管理時間が迫っている場合は自動でアラートを発します。
これにより,従来の生コン伝票による管理と比べて省力化されるほか,速やかに出荷間隔の調整等の指示・是正を行うことが可能となります。許容時間を超過したコンクリートの排除により,充填不良などの初期欠陥を防止できます。
図-2 運行管理機能の概要(ICタグを利用した場合) |
図-3 運行管理画面例 |
(2)打重ね時間間隔管理機能(コールドジョイント防止)
ある打込み区画,ある層の打込み時間を記録し,上層コンクリートの打重ね時間間隔を監視する機能です。打重ね時間間隔の管理画面例を図-4に示します。予め,各層(50cm程度毎)・打込み区画(数m毎)に分割したモデルをシステムに登録しておき,各打込み区画のコンクリート打込み開始時,および打込み完了時に,現場担当者がタブレット端末やスマートフォンで打込み区画をタップします。このタップにより時刻登録は完了です。同登録時刻から打重ねが可能な時刻を自動で演算し,許容打重ね時間間隔が迫っている場合にはアラートを発します。
これにより,従来の野帳等による管理と比べて省力化されるほか,次の打込み区画の変更等のコールドジョイント対策を速やかに講じることが可能となり,コールドジョイントの発生を防止できます。
図-4 打重ね管理画面例(円形立坑) |
(3)その他の機能
その他の機能として,帳票出力機能やCIM連携機能があります。CIM とは,Construction Information Modelingの略称で,プロジェクトの調査・設計段階から3次元モデルを導入し,施工,維持管理の各段階での3次元モデルに連携・発展させることにより,一連の建設生産システムの効率化を図るものです2)。
帳票出力機能を有するシステムでは,記録した各種品質管理情報の帳票出力が可能で,コンクリート打込み後の帳票作成業務を大幅に省力化できます。
また,CIM連携機能を有するシステムでは,記録した各種品質管理情報(出荷生コン工場,出荷時刻,トラックアジテータ番号,ポンプ車番号,各トラックアジテータの荷卸し開始・完了時刻,各打込み箇所での打込み開始・完了時刻等)をCIMの3Dモデルに属性情報として自動的にリアルタイムに付加(CIM連携)できます(図-5)。CIMを運用する場合に手作業での入力がなくなり,大幅な省力化が期待できます。また,3Dモデルを使用するため,コンクリート打込み状況の更なる見える化,管理の効率化が図れます。すなわち,従来の2次元モデルでは,例えば複数箇所で同時に制限時間が迫るような場合に,打込み層の画面表示を頻繁に変える必要がありますが,3Dでの見える化により画面操作の必要がなくなり,かつ一目で全体の打ち込み状況を把握できるようになります。
図-5 CIM連携による品質管理情報イメージ |
以上のように,ICTを活用したこれらコンクリート施工管理システムを利用することで,品質管理の信頼性向上,品質確保とともに省力化を期待できます。今後コンクリート施工管理システムの使用がさらに広まることに期待しつつ,本記事がコンクリート工事における生産性向上(品質を落とさずに省力化)の一助となることを願っております。