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2017年12月号

生コンクリートのJIS(日本工業規格)について

生コンクリート(以下生コンという。)とは,セメント・水・砂(細骨材)・砂利(粗骨材)等を配合して工場で練り混ぜ,工事現場に配達されるまだ固まっていないコンクリートの通称です。正式には「レディーミクストコンクリート」といい,工事現場の荷卸し地点における品質を指定して購入することができるフレッシュコンクリートです。生コンのJISは,他の材料や製品の規格とは異なり,種類や品質基準,検査方法にとどまらず,原材料の貯蔵,製造,運搬の全般にわたり,方法や手順が細かく規定されています。
ここでは,レディーミクストコンクリートのJIS規格について,生コン工場の発祥と併せてご紹介致します。

執筆者:情報コミュニケ—ション委員会 委員
阿佐見雅子 (全国生コンクリート工業組合連合会)

写真-1 生コン工場(東京エスオーシー(株)提供) img
写真-1 生コン工場(東京エスオーシー(株)提供)

生コン工場の発祥

工事現場で使用されるコンクリートは,もともと現場で練り混ぜられていましたが,コスト比較の中で「コンクリート専用工場でコンクリートを練って運搬車で現場に配送する」生コンへと転換しました。工事現場でコンクリートを練り混ぜることは,資材置場の確保や搬入,現場での労務費等のコストが見込まれます。一方,専用工場で製造するコンクリートは,品質が安定し,生産性を高めるとともに,輸送面でのコストダウンにもつながるのです。
生コンの供給形態を世界で最初に採用したのは,1903年ドイツの建設業者と言われています。それを産業として発展させたのはアメリカで,1913年メリーランド州ボルチモアにおいて最初の生コン工場が創業されました。
日本においては,1923年の関東大震災直後,蔵前に設置された仮設工場(アメリカより輸入)から,道路舗装のため生コンが工事現場に運ばれ使用されたのが初めての事例です。産業としての発祥は1948年12月,東京コンクリート工業(株)(1950年1月に社名変更し,磐城コンクリート工業(株))が設立されたのが始まりであり,現在,東京スカイツリーがある東京都墨田区押上の東武鉄道業平橋駅構内に生コン工場が建設されました。この生コン工場は1949年11月15日に試験操業を開始し,出荷の第一号は,建築では銀座の菓子店の土間コンクリート,土木では地下鉄三越前駅の出入り口補修工事に使用されました1)

図-1 第一号生コン工場(磐城コンクリート工業(株)業平橋工場と生産工程図
(東京エスオーシー(株)提供) img
図-1 第一号生コン工場(磐城コンクリート工業(株)業平橋工場と生産工程図
(東京エスオーシー(株)提供)
写真-2 生コン工場発祥の地記念碑(東京都墨田区押上 現東京スカイツリータウン) img
写真-2 生コン工場発祥の地記念碑(東京都墨田区押上 現東京スカイツリータウン)

生コンのJIS規格(JIS A 5308)の制定

生コン普及の大きな力となったのはJISマーク表示制度の採用でした。この制度は,生コン工場が申請して,規格通りに製造していることが確認されれば,出荷する生コンにJISマークを表示することができるというものです。JISマークは,製品の互換性,安全・安心の確保,公共調達等に大きく寄与するものです。
1952年,全国で3工場しかなかった時期に生コンのJIS規格制定の作業が始められ,翌1953年11月にJIS A 5308(レデーミクストコンクリート)が制定されました。当初はアメリカASTM規格の翻訳に近いものでしたが,生コンの信用を高め,その普及に大きな効果がありました。その後,1965年9月13日,JIS表示制度が大臣告示され,翌1966年には182工場が表示許可を得ました2)。2004年には工業標準化法の改正により,JISマーク表示制度は,従来の工場認定から製品認証に移行しました。旧制度は,国または国の指定する機関が製造工場を認定するのに対し,新制度では経済産業省に登録された民間登録認証機関による第三者認証制度で製品そのものを認証しています。最大の特徴は,認証指針,品質管理,製品試験が国際基準に基づいて認証されることになったことです。
生コン工場は,現在全国で約3400工場が稼働しており,そのうち約3000工場はJISマーク表示制度に基づく製品認証を取得した工場です(2017年3月現在)。JIS A 5308は制定以来,技術の発展や生産実態,環境負荷低減等の時代情勢を反映し,直近の2014年3月20日を含めて,現在まで合計13回の改正が行われています。

図-2 生コンクリート工場数の推移 img
図-2 生コンクリート工場数の推移

規格の概要3)

JIS A 5308は,生コン工場内で練り混ぜられたコンクリートが出荷され,荷卸し地点へ配達されるまでについての規格です。そのおおまかな内容についてご紹介します。

図-3 練り混ぜから荷卸しまでの概念図 img
図-3 練り混ぜから荷卸しまでの概念図

☆番外編☆ 生コン運搬車について

◆コンクリートの種類
コンクリートは表1の様に4種に区分されます。JIS A 5308の中では,さらに粗骨材の最大寸法,スランプまたはスランプフロー,呼び強度を組合せたものから選定できるような表が示されています。それ以外に,購入者と協議する項目(セメントの種類,骨材の種類等)もあります。

表-1 レディーミクストコンクリートの種類
普通コンクリート 呼び強度18~45(N/mm2)までのコンクリート
高強度コンクリート 普通コンクリートよりも強度が高いコンクリート
(呼び強度60(N/mm2)まで)
軽量コンクリート 骨材の全部または一部に人工軽量骨材を用いて,普通コンクリートよりも軽量化したコンクリート
舗装コンクリート すりへり抵抗性や疲労抵抗性が高い等,舗装に適したコンクリート

◆品質
品質は以下の4項目が規定されており,JIS A 5308ではこれらが所定の値を満足することを荷卸し地点で確認することを規定しています。

表-2 レディーミクストコンクリートの品質
強度 硬化後,主に圧縮強度で評価される(舗装コンクリートは曲げ強度)。構造物が所要の性能を得るための品質。
スランプまたはスランプフロー フレッシュコンクリートの軟らかさで評価する。スランプコーンを引き上げた直後の頂部からの下がり(スランプ)または広がり(スランプフロー)を測定する。コンクリートを構造物の隅々まで適切に打込むとともに施工性を向上させるための品質。
空気量 フレッシュコンクリート中の空気量で評価する。施工のし易さと凍害を防止するための品質。
塩化物量 フレッシュコンクリート中の塩化物量で評価する。鉄筋の発錆を防止するための品質。
写真-3 圧縮強度試験 img
写真-3 圧縮強度試験
写真-4 スランプ試験 img
写真-4 スランプ試験

◆材料
使用する材料は,セメント,骨材(砂利・砂,砕石・砕砂等),水,混和材料(化学混和剤,高炉スラグ微粉末,フライアッシュ等のコンクリートに特別の性能を与えるために加える材料)です。特殊な場合を除いてJIS規格に適合する材料を使用することとしています。
◆検査
品質が規定されている各々の項目は,試験方法や検査の頻度が規定されています。生コン工場では,所要の品質を得るために工程で管理すべき項目を定め,製品の品質目標の達成にむけて品質管理を行っています。
◆配合
コンクリートの配合は,コンクリートの種類等によって指定された事項および,所定の品質を満足して検査に合格するよう,生産者が定めることが規定されています。
◆工場の設備,製造方法
生コン工場は,材料受入・貯蔵設備,バッチングプラントへの材料供給設備,バッチングプラント(貯蔵ビン,計量器,ミキサ,積込設備)によって製造ラインが構成されています。設備は材料貯蔵設備,バッチングプラント,運搬車等について所要の性能が確保できるように,貯蔵方法,計量誤差,練混ぜ性能,運搬車性能等が規定されています。

図-4 生コン工場の製造設備と原材料の流れ3) img
図-4 生コン工場の製造設備と原材料の流れ3)

◆報告
生コンの出荷に先立って,購入者へ配合計画書を提出し,生コンの納品時には納入書を提出することになっています。


環境負荷低減への取組み

(1)スラッジ水の有効利用
スラッジ水とは,出荷が終わった運搬車等の洗浄にともない発生する水から,粗骨材,細骨材を取り除いて回収した懸濁水です。スラッジ水は適切に濃度測定を行い,スラッジ固形分率が単位セメント量の3%を超えないよう管理することで使用できます。スラッジ水は1989年の改正時に品質が規定されました。
(2)リサイクルされた材料の使用
骨材では,スラグ骨材,再生骨材,回収骨材の使用があります。また,混和材料として高炉スラグ微粉末やフライアッシュ,シリカフュームの使用があり,いずれの材料も産業廃棄物や産業副産物を再利用しています。上記の混和材料は,使用することでコンクリートのアルカリシリカ反応の抑制等,コンクリートの耐久性向上にも寄与しています。使用材料に規定された時期について,スラグ骨材は1985年改正時の高炉スラグ細骨材から順次,再生骨材Hは2009年改正時から,回収骨材は2014年改正時から,高炉スラグ微粉末は1998年改正時から,フライアッシュは1985年改正時から,シリカフュームは2003年改正時からとなっています。
(3)エコセメントの使用
都市ゴミ焼却灰,下水汚泥等をセメントの主原料とする資源リサイクル型のセメントとしてエコセメントが使用できます。エコセメントは2003年改正時に使用材料に規定されました。
(4)環境ラベルの表記
規定されるリサイクル材を用いている場合には,生コン工場の意思で環境ラベル(メビウスループ)を納入書に表示することができるようにし,資源循環型社会への貢献をPRしています。環境ラベルは,2014年改正時から表記できるようになりました。

おわりに

生コンの製品規格であるJIS A 5308は社会の要求をふまえ,制定以後,改正毎に変遷を遂げてきました。コンクリートは社会資本の構築に必要不可欠な材料であり,その供給の一端を担う生コン業界について関心を持っていただければ幸いです。

☆番外編☆ 生コン運搬車について

現在,生コン運搬車の主流となっているのは,トラックアジテータです。工場で練り混ぜられた生コンの均一性を維持しながら運搬し,荷卸し地点で速やかに排出できる性能を備えていることがトラックアジテータの必要条件となっています。
1953年のJIS A 5308制定時は,ミキサはプラントで練り混ぜる固定ミキサまたは運搬車で練り混ぜるトラックミキサとすることが規定されていました。1973年の2回目の改正時には,トラックミキサは全国的な分布も少なく,練混ぜ時間の確認などに不十分な点があることから,固定ミキサのみとなりました。つまり,厳密に言うと,現在街で見かけるトラックアジテータは,ミキサとしてコンクリートを練り混ぜているのではなく,既にプラントで適切に練り混ぜたコンクリートの状態を工事現場まで維持するために練り混ぜながら運搬しているのです。

トラックミキサ:
ミキシング装置を備え,所定計量されたコンクリート用材料をドラムに受け,走行中に練り混ぜながら運搬する車
トラックアジテータ:
工場で練り混ぜた生コンをドラムに受け,走行中に攪拌しながら運搬する車
写真-5 トラックアジテータ(東京エスオーシー(株)提供) img
写真-5 トラックアジテータ(東京エスオーシー(株)提供)

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[参考文献]
1)政村兼一郎:生コンクリート技術史,pp.8-20,1991.9
2)全国生コンクリート工業組合連合会:20年のあゆみ,p.29,1995.6
3)全国生コンクリート工業組合連合会:生コン工場品質管理ガイドブック,pp.1-5,2008.10

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