日本コンクリート工学会

ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2017年7月号

2017年7月号

混和材の使用による低炭素化への最近の取組みについて

地球温暖化問題は世界共通の環境問題としてその対策が急がれるところです。日本としても2016年に行われたCOP21およびその後の閣議決定を経て,炭酸ガスの削減目標を定めており,JCIにおいても2012年にコンクリートサステナビリティ宣言を出すなど,環境問題には積極的に取り組んでいます。

JCIサステナビリティ宣言: http://www.jci-net.or.jp/j/jci/proposal/proposal24_05.pdf

コンクリートに関連する環境問題は,低炭素化だけでなく安全や耐久性向上など多岐にわたります。また,低炭素化においても,使用する材料の製造時に排出される炭酸ガスの発生抑制だけでなく,断熱効果や蓄熱性など多岐にわたる性能が影響します。一方,コンクリート工事の環境への負荷を考えると,コンクリートに使用する材料の製造時に排出される炭酸ガスによる影響は大きく,建設工事全体において環境に与える影響も大きくなります。この材料製造時の炭酸ガスの排出量を減らすことを目的として,高炉スラグ微粉末フライアッシュといった混和材を利用する取組みが各方面で行われています。
ここでは,これら混和材,特に高炉スラグ微粉末を使用するコンクリートについて,国等による検討の他,JCIをはじめとした学協会などの活動について最近5年間程度に行われた活動成果の概要などについて紹介します。
これらの取組みについては,その目的から,(1)実験による技術開発,(2)指針類の改定,(3)普及促進,の3つに大別して,表-1に整理してみました。

執筆者:情報コミュニケ—ション委員会 委員
檀康弘 (日鉄住金高炉セメント(株))

表-1 紹介事例の整理
No. 名称 主管 技術開発 指針類の
改定
普及促進
1 セメント産業における省エネ製造プロセスの普及拡大方策に関する調査会 経済産業省    
2 基準整備促進事業「混合セメント等を使用したコンクリートの耐久性に関する検討」 国土交通省    
3 基準整備促進事業「混合セメント等を使用したコンクリートの水セメント比の評価方法に関する検討」 国土交通省    
4 低炭素型セメント結合材の利用技術に関する共同研究 土木研究所    
5 Jクレジット方法論EN-S-040「ポルトランドセメントの少ないコンクリートの打設」 経済産業省・環境省・農林水産省    
6 サステイナビリティ委員会 JCI  
7 混和材積極利用によるコンクリート性能への影響評価と施工に関する研究委員会 JCI    
8 混和材を大量使用したコンクリートのアジア地域における有効利用に関する研究委員会 JCI  
9 産業副産物のコンクリートへの利用に関する研究協議会 日本建築学会    
10 高炉スラグ微粉末・高炉セメントを使用するコンクリート研究小委員会 日本建築学会
11 高炉スラグ微粉末を用いたコンクリートの指針改定委員会 土木学会
12 混和材を大量に使用したコンクリート構造物の設計・施工研究小委員会 土木学会  
13 混和材料を使用したコンクリートの物性評価技術と性能規定型材料設計に関する研究小委員会 土木学会    
14 「低炭素型コンクリートの普及促進に向けて」パンフレット作成 日本建設業連合会    

注:高炉スラグ
高炉スラグとは,製鉄所の高炉で銑鉄を生産する際に副生するもので,銑鉄1tに対しおよそ300kg発生します。1400℃程度の溶融状態で高炉から排出された高炉スラグを水で急冷したものを高炉水砕スラグといい,さらにこの高炉水砕スラグを粉砕したものを高炉スラグ微粉末(せっこうを含むものもある)といいます。(注図-1 製造フロー,注図-2 溶融状態の高炉スラグ,注図-3 高炉水砕スラグ)

注図-1 高炉水砕スラグの製造フローの例 img
注図-1 高炉水砕スラグの製造フローの例
注図-2 溶融状態の高炉スラグ img
注図-2 溶融状態の高炉スラグ
注図-3 高炉水砕スラグ img
注図-3 高炉水砕スラグ

注:フライアッシュ
フライアッシュとは,石炭火力発電において,石炭(微粉炭)を燃焼させ,排ガスを電気集塵器を通した際に捕集された粉体を指します。規格として,JIS R 6201コンクリート用フライアッシュがあります。


国等による取組み

(1) 経済産業省
国では地球温暖化防止対策のうち非エネルギー部門において「混合セメントの利用促進」を挙げており,これを推進することを目的として調査会を開催し,以下の報告書をとりまとめています。ここでは,国内において混合セメントを普及させるための課題と対策について整理されており,官民一体となった対応を求めています。

セメント産業における省エネ製造プロセスの普及拡大方策に関する調査会 混合セメントの普及拡大方策に関する検討 報告書(平成28年3月) (図-1 表紙)
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/jyutaku/

図-1 報告書表紙 img
図-1 報告書表紙

(2) 国土交通省
混合セメントを使用するための基準を整備することを一つの目的として,以下の2つの基準整備促進事業を実施しており,前者は主として中性化について,実構造物の調査および模擬試験体による調査を行い,従来の促進中性化試験の結果と比較して,中性化は抑制されていることを確認しています。また後者は,中性化の評価を水セメント比により行う場合に,混合材量をセメント量に換算する係数について,従来の一律に算定するのではなく,混合セメントA,B,C種の別に算定できることを示しています。
平成26年度 
M1「混合セメント等を使用したコンクリートの耐久性に関する検討」
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000064.html
平成27年度
M1「混合セメント等を使用したコンクリートの水セメント比の評価方法に関する検討」
http://www.mlit.go.jp/common/001129584.pdf

(3) 土木研究所
民間共同研究のテーマとして「低炭素型セメント結合材の利用技術に関する共同研究」を実施し,これら混合材を多量に含む結合材利用のガイドラインを作成するとともに,各技術毎にこのガイドライン(図-2 表紙)に沿って利用マニュアルを整備しています。
http://www.pwri.go.jp/team/imarrc/activity/tech-info.html

図-2 ガイドライン表紙 img
図-2 ガイドライン表紙

(4) 経済産業省・環境省・農林水産省
炭酸ガスなどの温室効果ガスの削減量をクレジットとして認証する制度としてJクレジット制度を定めています。J−クレジット制度とは,ある基準となる製品あるいは工法に対して,各方法論に従って算出した場合の炭酸ガスの削減量をクレジットとして認証するものです。その方法論の一つにEN-S-040「ポルトランドセメントの少ないコンクリートの打設」があり,混合材の使用により炭酸ガスの削減量を計算する方法が示されています。
https://japancredit.go.jp/about/methodology/


学協会による取組み

(1) JCI
1) サステイナビリティ委員会(2011~活動中)
JCIでは前述のように2012年4月24日にサステナビリティ宣言を出したのち,2014年にはコンクリートサステイナビリティフォーラム報告書(図-3 表紙)を発刊し説明会を実施しました。その後も低炭素化だけでなく長寿命や安全性向上などコンクリートと環境問題について,評価手法や指標など幅広く議論し,特に教育問題に関して「コンクリートの環境テキスト(案)」(図-4 表紙)を発行して,講演会やパネルディスカッションなどの場を設けるなど,その成果を積極的に公開しています。

図-3 報告書表紙 img
図-3 報告書表紙
図-4 テキスト表紙 img
図-4 テキスト表紙

2) 混和材積極利用によるコンクリート性能への影響評価と施工に関する研究委員会(2011~2012)
混和材利用の課題について性能だけではなく,インフラ整備や仕様の在り方など幅広い課題を整理するとともに,考えられる対応策について示しています。
3) 混和材を大量使用したコンクリートのアジア地域における有効利用に関する研究委員会(2013~2014)
混合セメントC種を上回る置換率における課題について,技術だけでなく規格・基準の面から整理するとともに,アジア諸国の材料について調査しています。

※「混和材を大量使用したコンクリートのアジア地域における有効利用に関する研究委員会」の活動については,「月刊コンクリート技術2015年9月号」ならびに,「増刊コンクリート技術2015年9月号」(会員限定)に,一部結果を含むより詳細な内容が掲載されています。そちらもご覧ください。
会員専用ページのログインページはこちら https://www.jci-net.or.jp/j/member/only/auth.php

(2)日本建築学会
1) 日本建築学会大会での研究協議会
2013年度の大会において,産業副産物のコンクリートへの利用に関する研究協議会を実施し,課題などについて広く意見を聞く機会を設けました。
2) 学会指針の改定(2016~活動中)
高炉セメントおよび高炉スラグ微粉末を使用したコンクリートの調合設計・施工指針・同解説について,最近の関連仕様書の改定などを踏まえて全面的に改訂を行っています。

(3) 土木学会
1) 高炉スラグ微粉末を用いたコンクリートの指針改定委員会(2016~活動中)
2) 混和材を大量に使用したコンクリート構造物の設計・施工研究小委員会(2016~活動中)

上記2つの委員会のうち,前者は従来ある高炉スラグ微粉末の設計施工指針を改定すること,後者は混合セメント中の混合材の置換率が70%を超える領域のものについてその指針を定めることを目的として設置された委員会です。現在,積極的な議論を進めています。
3) 混和材料を使用したコンクリートの物性評価技術と性能規定型材料設計に関する研究小委員会(353委員会:2016~活動中)
これは2005年から6年間活動した混和材料を使用したコンクリートの物性変化と性能評価研究小委員会(333委員会)のその後の研究成果を整理し,利用方法の確立を目的として設置された委員会で,現在鋭意活動中です。


建設会社による取組み

(1) 日本建設業連合会
普及用資料「低炭素型コンクリートの普及促進に向けて」を作成し,広く普及を図っています。(図-5表紙)ここでは,日本建設業連合会の目標として,「施工時の炭酸ガス発生を25%削減」を掲げ,混和材の利用拡大を図るとしています。
http://www.nikkenren.com/publication/detail.html?ci=237

図-5 パンフレット表紙 img
図-5 パンフレット表紙

(2) 各社技術
各社の個別の取組みについてはここでは詳細を示しませんが,例えば前記の土木研究所の報告書,上記JCI委員会の成果報告書などにも関連する記載があるので,ご参照ください。また,これ以外にも,学会発表や新聞発表などによると,主としてゼネコン各社で混和材を積極的に利用した製品,工法の開発を行っています。


まとめ

ここではコンクリートの低炭素化に向けて,特に混和材を利用する技術の動向について紹介しました。これら技術の中には環境賞や学会賞などを授与されたものもあり,注目を浴びているとともに将来を期待されています。もちろん混和材の使用だけが地球温暖化抑制対策の答えではなく,また性能が確保できることが前提であることはいうまでもありません。地球温暖化抑制対策として,混和材の使用を考える際には,上記報告書や指針類などを参考にし,正しい方法によってご利用ください。

Copyright © Japan Concrete Institute All Rights Reserved.

トップに戻る