日本コンクリート工学会

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JCI創立60周年を迎えるにあたって

前川宏一

 2024年元日,能登地方で大規模な地震が発生し,その後も過去に例を見ない豪雨に襲われました。この未曾有の災害により命を落とされた方々の御霊に深く哀悼の意を表し,避難生活を余儀なくされている多くの皆様に心よりお見舞い申し上げます。建設とコンクリート工学に関わる我々が果たすべき使命を改めて自覚させられた思いです。

 今年は当学会の創立60周年にあたり,7月に記念式典が予定されています。50周年では復興と成長を基軸に発展した半世紀を祝いました。人間でいえば還暦にあたる60年では継続的な新陳代謝と成長を目指し,社会と自然と共生する時代を見据える年になりましょう。人材確保と育成,環境とエネルギー,生産性向上,情報化などの喫緊の課題は待っていても解決しません。昨年,次世代構想を議論する場を立ち上げました。2030年を見据えて当学会の短中期課題を明確化してまいります。

 上記の課題はコンクリートと建設産業に関わる多種多様な経済社会活動に共通するものとなりました。共通課題を得たことは,複数のセクターの連携と自立共生を可能とするものでもあり,従前から困難な課題も総合化で解決し前進できれば幸いです。当学会は建築,土木,材料に関する組織と活動をコンクリートを基軸にして相互に繋ぐ場として発足しました。様々に変化する時代においても,なお変わらない当学会の基本と認識しています。

 二酸化炭素排出減は素材産業,生コン,設計計画,建設施工,管理更新に関わる活動に共通の主要課題です。当学会では二酸化炭素の収支を正確に定量化し,試験方法を規準化していく努力が続けられています。これらは科学的な実証に基づく検討に留まらず,企業行動,人材育成と国際化,設計計画と施工の合理化と生産性向上にも関与します。これに関連して次世代構想の議論の中で,公益目的事業に関する短中期課題の弾力的な運営体制について,議論を頂いているところです。

 資格制度は当学会の収益事業の柱であり,技術の社会実装と品質保証の要と位置付けられます。運営に従事頂いている会員各位には改めて御礼申し上げます。公益法人の財務基準に「公益目的事業費は法人全体の50%以上でなければならない,儲けてはならない,基準額以上の余剰金を貯め込んではならない」という制約がある中で,当学会は収益事業を展開しなければなりません。資金ストックは先行投資を可能としますが厳しい制限があるため,リスク管理が不可欠です。「守りか攻めか」の選択は近未来に必ず来ることを前提に,本年の会務を理事の皆様と共に進める所存です。いずれにおいても,コンクリート技士,主任技士,診断士の資格を一層有効に活用してもらうべく,発注者,施主への働きかけを進めることは必須と任じ,努力を継続いたします。

 発想や直感,創造性は膨大な記憶の連結から生成されることが,近年の脳科学研究から実証されつつあります。文字や記号に基づく記憶(勉学,叙述)と身体から得る記憶(体験,気概)の二者は脳の中で常に連結が繰り返されているのだそうです。古から心技体と言われてきたものであり,コンクリート工学に関わる会員各位の得意とするところだと思います。IT化とDXも当学会の抱える課題と考えます。

 課題や悩み多くとも皆様のご多幸を祈念して,年頭のご挨拶に代えさせてい頂きます。

公益社団法人日本コンクリート工学会
第31代会長
まえかわ・こういち
(横浜国立大学客員教授、東京大学名誉教授)

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