日本コンクリート工学会

ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2024年7月号

2024年7月号

コンクリート中の鉄筋腐食の統一的な取扱いに関する研究委員会(JCI-TC222A)活動概要

本来,コンクリートは適切に材料を選定し,配(調)合設計を行い,施工を行えば高い耐久性が期待できる材料です。しかし,建設当時には劣化に対する知識が十分ではなかった場合や,工期や予算の制約から適切な施工がなされなかった場合には,耐久性上の問題があることも多く,鉄筋腐食やアルカリシリカ反応,化学的侵食など様々な劣化事例が報告されています。そのような構造物には高度経済成長期に建設されたものも多く,社会インフラの老朽化や維持管理の重要性が社会的な問題となっています。1960年代〜70年代にかけて建設された多くの構造物が維持管理を必要とする時期を迎えている今,膨大な量の構造物を限られた予算の中で効率的に維持管理することが求められており,そのためには劣化のメカニズムを正しく理解する必要があります。特に,四方を海に囲まれ,凍結防止剤を散布する山間部も多い我が国においては,鉄筋の腐食はコンクリート構造物の抱える深刻な課題のひとつであり,そのメカニズムについての理解を深めることは重要であると考えられます。
鉄筋腐食に関しては,これまで塩化物イオンや中性化について多く議論されており,塩化物イオン量が多いほど,中性化深さが大きいほど腐食の進行が速いと考えられてきました。しかし最近になって,塩化物イオンの浸入や中性化によるpHの低下は腐食の起点にはなりますが,その後の腐食の進行は水と酸素の作用の仕方で決まる可能性が高いことが分かってきています。
このような背景のもと,日本コンクリート工学会では,2022年に「コンクリート中の鉄筋腐食の統一的な取扱いに関する研究委員会」を設置しました。本研究委員会では,腐食に影響を与える水の形態と供給経路,その他の影響因子について整理し,腐食のメカニズムに基づいて鉄筋腐食を統一的に取扱うためのシナリオを作成することを目的として活動を行ってきました。本稿では,2年間にわたる委員会活動の概要を紹介するとともに,2024年9月に開催する委員会報告会についてご案内いたします。


委員会活動概要

本委員会では,コンクリートに作用する水の形態や,水が鉄筋腐食に与える影響を整理し,鉄筋腐食を統一的に取扱うためのシナリオを作成するために,以下の3つのWG(文献調査WG,構造物調査WG,腐食の取扱い体系化WG)を設けて活動を行ってきました。文献調査WG(WG1)では,文献調査および基礎実験を行い,特に腐食の進行過程において重大な影響を与える水の影響を酸素の存在とともに整理しました。その結果,湿潤から乾燥に至る速度が遅いことや,その移動速度に塩化物イオンが関与することなどが明らかになっています。またコンクリート中の酸素拡散限界電流密度についての検討を行い,乾湿繰返し以外では基本的に酸素拡散律速である可能性が高いことを示しています。構造物調査WG(WG2)では,鉄筋腐食を生じている実物大試験体や,実構造物において各種測定を実施し,コンクリートの状態や腐食の程度,水の供給経路などを調査しました。その結果,塩化物イオンの存在下や中性化によりコンクリートのpHが低下した環境であっても,水の移動が起こらない,つまり乾燥環境や湿潤環境に保たれている場合には,鉄筋がほとんど腐食していないことが確認されました。上記2つのWG成果を基に,腐食の取扱い体系化WG(WG3)では,鉄筋腐食を統一的に取扱うためのシナリオについて議論を行い,水と酸素の供給状況により腐食のリスクを評価する手法を提案しています。各WG活動の成果の一部1)-8)は,2024年のコンクリート工学年次論文集に掲載されています。

■文献調査WG(WG1)
文献調査WG(WG1)では,3つのサブワーキンググループ(SWG)に分かれて活動する一方,各SWGが融合することでそれぞれの活動を高めあいました。以下,各SWGの活動概要を紹介します。

腐食原理調査SWG(SWG1-1)
腐食原理調査SWG(SWG1-1)では,コンクリート環境を意識しながら,しかしコンクリート環境に限定をせずに腐食原理について文献調査や実験を行ってきました。ここで言う腐食原理には,不動態皮膜の破壊や,腐食における水の役割,コンクリート中のカソード反応などが含まれています。成果として,通常であれば不動態皮膜を形成しない黒皮において,その欠陥部で不動態皮膜が形成され,この不動態皮膜が破壊されることですきま腐食が生じて鋼材表面のpHが低下することがあることや,腐食の進行過程ではアノード反応の対となるカソード反応が重要であること,鉄表面に腐食電池が形成することなどを整理しました。腐食電池の形成には液状水が必要であるが,コンクリートが湿潤な状態では酸素が少なく1),第二鉄イオンの還元反応が重要となること,すなわち乾湿繰返し環境が重要であるということをカソード反応の観点から整理しています。

コンクリートへの腐食原理適用SWG(SWG1-2)
コンクリートへの腐食原理適用SWG(SWG1-2)では,コンクリートが曝される外部環境とコンクリート中に埋設された鉄筋の腐食環境とをつなぐ観点から文献調査や実験を行っています。成果として,かぶり(厚さ)が十分に確保されていれば,乾燥過程における水の移動速度は遅く(図-1),水の移動は生じにくいこと,塩化物イオン存在下では浸透圧による水の移動が生じること,内在塩分濃度が高いと濃度勾配が生じにくくなるため,浸透圧による水の移動は小さくなることを明らかにしています。また,湿潤状態にあるコンクリートにおいては,内在塩分が存在しても酸素欠乏により鉄筋腐食が起きにくくなることも確認されています。さらに,コンクリートの外部環境を5つに分類し,鉄筋の液状水と酸素の存在という観点から,鉄筋の腐食進行リスクを整理しています。

コンクリート中の水の挙動調査SWG(SWG1-3)
コンクリート中の水の挙動調査SWG(SWG1-3)では,乾燥状態にあるコンクリートが水分を吸収する過程について理論式(液状水浸入を想定したLucas-Washburn式と水蒸気浸入を想定したFickの拡散方程式)に基づいて検討を行っています。一方,湿潤状態にあるコンクリートの乾燥については理論式がないため,既往の実験データに基づいた整理を行っています。成果として,塩化物イオンの有無に関わらずコンクリートの乾燥が遅いことが確認され(図-1),塩分などの潮解性塩が存在したときのコンクリート内部の水の挙動についても既往研究について整理しています。さらに,コンクリート内部の湿度が吸着等温線に従うように,温度が上昇するとコンクリート内部の相対湿度が上昇することが確認されています。

図-1 乾湿繰返しによるコンクリート内部湿度の変化 img
図-1 乾湿繰返しによるコンクリート内部湿度の変化2)
(上図:Cl-なし 下図:Cl-3kg/m3 凡例の数字:かぶり(厚さ))

■構造物調査WG(WG2)
構造物調査WG(WG2)では,実大規模試験体や実構造物において調査を行い(図-2,図-3),腐食が進行した原因について環境条件も含めて考察を行っています3-8)。その結果,塩化物イオンの存在下や中性化によりコンクリートのpHが低下した環境であっても,水の移動が起こらない,つまり乾燥環境や湿潤環境に保たれている場合には,鉄筋がほとんど腐食していないことが確認されました。また,乾湿繰返しの過程や頻度が腐食の進行に大きな影響を与えることや,ブリーディングによるすきまを通じて水や塩化物イオンが移動すること(図-4),中性化していなくてもすきま腐食により鉄筋表面のpHが酸性になる可能性があること(図-5)などが明らかになりました。

図-2 水掛かり状況の違いに着目した調査 img
図-2 水掛かり状況の違いに着目した調査
図-3 非破壊調査の例 img
図-3 非破壊調査の例
図-4 鉄筋下面と接触していたコンクリート面における塩化物イオン分布 img
*鉄筋下面等に沿って塩水散布範囲でない箇所まで塩化物イオンが浸透
図-4 鉄筋下面と接触していたコンクリート面における塩化物イオン分布4)
図-4 鉄筋下面と接触していたコンクリート面における塩化物イオン分布 img
図-5 鉄筋下面側のpH確認の例(鉄筋表面のpHが酸性を呈している)4)

■腐食の取扱い体系化WG(WG3)
腐食の取扱い体系化WGではWG1,WG2の成果を基に鉄筋腐食を統一的に取り扱うためのシナリオを作成することを目的としています。
WG1,WG2の成果として,塩化物イオンの浸入や中性化によるpHの低下は腐食の起点にはなるが,その後の腐食速度は水と酸素がどう作用するかによって決まると考えることができることが明らかになっています。塩化物イオン存在下であっても,コンクリート内部が湿潤状態または乾燥状態に保たれている場合には腐食速度は遅いと言えます。しかし,乾湿繰返しは乾燥状態から湿潤状態に変わる際に,カソード反応として第二鉄イオンの還元が生じるため,腐食速度が大きくなると考えられます。一方で,一度湿潤状態となったコンクリート内部は乾燥しにくいため,かぶり(厚さ)が十分に確保されている場合には鉄筋表面での乾湿繰返しは生じにくいと考えられます。ただし,コンクリート表面から内部にかけて塩化物イオン濃度の勾配がある時には,浸透圧により水が表面に移動しやすくなり,コンクリート内部の乾燥が速くなることも確認されています。また,ひび割れがあると水や酸素が移動しやすくなるため,ひび割れ先行型の乾湿繰返しも実際には多いと推察されます。そのため,外部の腐食環境に加えて,かぶり(厚さ),ひび割れの有無,塩化物イオンの有無などの情報を基に鉄筋の腐食リスクを評価しました。塩化物イオンが存在する場合でも中性化によるpHの低下がある場合でも,腐食速度は水と酸素の作用によって決まることを示すことができ,塩害や中性化といった枠組みではなく,将来に向けて鉄筋腐食を統一的に取扱うためのシナリオを示すことができたと考えています。


委員会成果報告会

本研究委員会の2年間にわたる調査研究の総括として,以下の日時において報告会を開催することとなりました。ふるってご参加ください。

■コンクリート中の鉄筋腐食の統一的な取扱いに関する研究委員会報告会
開催日時:(大阪会場)2024年9月2日(月) 10:00−16:30
(東京会場)2024年9月12日(木) 10:00−16:30
開催方法:対面形式
開催場所:(大阪会場)大阪市中央公会堂 小集会室(大阪市北区中之島1-1-27)
(東京会場)品川区立総合区民会館 きゅりあん 小ホール(東京都品川区東大井5-18-1)
※9月20日(金)から1週間の録画の見逃し配信(オンデマンド)も用意します。

プログラム(予定):
10:00−10:10 開会挨拶・趣旨説明
10:10−11:45 委員会報告:「腐食反応の基礎」(WG1)
11:45−12:45 <休憩>
12:45−13:40 委員会報告:「コンクリートにおける鉄筋腐食の特徴」(WG1)
13:40−13:50 <休憩>
13:50−15:50 委員会報告:「実構造物における鉄筋腐食の要因」(WG2)
15:50−16:00 <休憩>
16:00−16:25 委員会報告:「鉄筋腐食の統一的な取扱いに関するシナリオ」(WG3)
16:30 閉会挨拶

(内容および時間は,都合により変更することがありますので,あらかじめご了承ください。)

※プログラム・申込方法などの詳細はこちらをご覧ください。
https://www.jci-net.or.jp/j/events/symposium/index.html

[参考文献]
1)左藤眞市・土井康太郎・高谷哲:コンクリート中の酸素還元反応の特徴,コンクリート工学年次論文集,Vol.46, No.1, pp.781-786, 2024
2)齊藤亮介・崎原康平・松沢晃一・高谷哲:乾湿繰返しを受けるモルタル内部の乾湿挙動と内部鋼材の腐食速度,コンクリート工学年次論文集,Vol.46, No.1, pp.805-810, 2024
3)渡邉晋也・金光俊徳・福山智子・上田洋:塩害範囲を限定した実大規模試験体の鋼材腐食および鋼材とコンクリートとの界面が水の移動に及ぼす影響,コンクリート工学年次論文集,Vol.46, No.1, pp.793-798, 2024
4)染谷望・渡邉晋也・左藤眞市・上田洋:塩害範囲を限定した実大模擬試験体における電気化学計測と解体調査に基づく鋼材腐食の評価,コンクリート工学年次論文集,Vol.46, No.1, pp799-804, 2024
5)村中誠・染谷望・金光俊徳・渡邉晋也:水掛かりを受けるRC構造物の腐食調査に基づくコンクリート中の鉄筋腐食に及ぼす乾湿繰返しの影響に関する考察,コンクリート工学年次論文集,Vol.46, No.1, pp.817-822, 2024
6)黒川浩嗣・上田洋・渡邉晋也・左藤眞市:乾燥環境におけるコンクリート中の鋼材腐食に関する現地調査,コンクリート工学年次論文集,Vol.46, No.1, pp.811-816, 2024
7)高谷哲・金光俊徳・左藤眞市:海上に敷設された高架橋の調査に基づく腐食進行メカニズムの考察,コンクリート工学年次論文集,Vol.46, No.1, pp.823-828, 2024
8)金光俊徳・染谷望・渡邉晋也・左藤眞市:種々の現場測定から見出された非破壊分極抵抗法の注意点と課題,コンクリート工学年次論文集,Vol.46, No.1, pp.787-792, 2024

執筆者:高谷哲(京都大学大学院)※1
左藤眞市(大阪産業技術研究所)※2
上田洋(鉄道総合技術研究所)※3

※1 コンクリート中の鉄筋腐食の統一的な取扱いに関する研究委員会 委員長
※2 同上 幹事
※3 同上 幹事(2024年6月退任)

Copyright © Japan Concrete Institute All Rights Reserved.

トップに戻る