日本コンクリート工学会

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2024年7月号

セメント・コンクリートの環境影響評価に関する研究委員会(JCI-TC221A)活動概要

SDGsやパリ協定などを背景に,持続可能な社会を目指す取組みが推進されるなかで,セメント・コンクリート産業においても,SDGsを意識した取組みが数多く行われており,その一環として,様々な環境負荷低減に関する活動が実施されています。セメント・コンクリートの環境負荷を評価する手法に関しては,JIS Q 13315等により原則・指針は規定化されてきているものの,具体的な評価手法やインベントリデータに関しては整備されておらず,評価者ごとに異なった評価手法やインベントリデータが用いられていたり,一部の評価範囲や項目に対してのみ評価されているのが現状です。
このことを鑑み,本学会では2021年に「セメント・コンクリートの環境負荷評価に関するFS委員会(JCI-TC212F)」(委員長:河合研至・広島大学),2022年に「セメント・コンクリートの環境影響評価に関する研究委員会(JCI-TC221A)」(委員長:河合研至・広島大学)を設置し,本来であれば,SDGsのゴールやターゲットに向けて,環境,経済,社会の多角的な視点から,セメント・コンクリートのサステナビリティを総合的に評価すべきではありますが,環境負荷評価の側面のみにおいても今なお多くの課題を抱えているのが実情であることを踏まえ,多様な環境側面を網羅的に評価する理想的な姿に近づけるため,現実的で妥当性のある環境影響評価の枠組みを検討することによって,セメント・コンクリートに関連する多面的な環境影響を適切に評価する手法を提示することを目的として,活動を行いました。
本稿では,FS委員会からの3年間にわたる委員会活動の概要を紹介するとともに,本年9月に開催する委員会成果報告会についてご案内いたします。

委員会活動概要
評価手法WG
インベントリデータWG
セメントWG
土木構造物WG
建築物WG
委員会成果報告会

委員会活動概要

本委員会の目的を達成するため,委員会の1年目には,FS委員会において実施したセメント・コンクリートに関連する環境影響評価の実態把握に基づき,評価手法WGとインベントリデータWGを設置して活動を進めました。評価手法WGでは,環境影響評価を行う基本となる機能単位,システム境界,影響領域,リサイクルの取扱い,影響評価手法のそれぞれについて,従来手法と先進的な手法の妥当性を検証して,セメント・コンクリート分野における評価手法として推奨する手法の提案を行いました。インベントリデータWGでは,既往のデータをベースとして,文献調査や聞き取り調査を実施し,コンクリート構成材料の製造,コンクリート製造,施工,解体等のコンクリートのライフサイクルの各段階における最新のインベントリデータの整備を行いました。さらに,委員会の2年目には,上記の活動成果を踏まえて,環境影響評価のモデルケースを構築するため,WG編成をセメントWG,土木構造物WG,建築物WGに再編して活動を行いました。セメントWGでは,生コンクリートやコンクリート製品における典型的な活動量(配(調)合,材料使用量,重機稼働時間,輸送距離等),供用時・解体時のCO2吸収量算定方法について調査するとともに,モデルケースの環境影響算出ツール(Excelシート)の作成を行いました。土木構造物WGでは,構造物・部材として,PC橋梁,ボックスカルバート,防波堤,トンネル覆工等を対象とし,使用材料を変化させた場合,プレキャストと現場打ちの場合などの比較検討を行いました。建築物WGでは,日本建築学会「建物のLCA指針」に掲載されているモデル建物の物量データを利用し,コンクリートに特化して,杭や地上躯体への環境配慮コンクリートの適用,計画供用期間の級の変更,建替え時の再生骨材の使用などが評価結果に及ぼす影響について検討を行いました。これらの活動成果は,委員会成果報告会で報告される予定です。以下では,各WGの活動概要を簡単に紹介します。

■評価手法WG
評価手法WGでは,セメント・コンクリートの環境影響評価手法について,適切な評価手法を提示することを目的として,規格・基準類ならびに学術文献で扱われている次の事項について調査・整理を行いました。

(1)調査対象(評価対象に関する調査,環境影響領域に関する調査),(2)機能単位,(3)システム境界,(4)廃棄物・副産物の取扱い,(5)インベントリ分析,(6)影響評価手法

規格・基準類に関しては,国内外の36件を対象として,学術論文に関しては,対象を国内文献に絞り,主要な学会および学術雑誌から発行されている134件について詳細な調査を実施しました。調査を行った規格・基準類の概要および学術論文の概要を表-1および表-2に示します。

表-1 調査を行った規格・基準類の概要
分類 発行元/規格作成委員会の事務局
土木 土木学会 3
建築 日本建築学会,建築環境・省エネルギー機構,US Green Building Council,Building Research Establishment 6
コンクリート 日本コンクリートエ学会,全国生コンクリート工業組合連合会 4
セメント Global Cement and Concrete Association 5
LCA 産業環境管理協会,サステナブル経営推進機構,日本環境協会 9
その他 国土交通省,経済産業省,環境省,住宅性能評価・表示協会,日本サステナブル建築協会,ISO/TC59/SC17 9
合計 36
表-2 調査を行った学術文献の概要
出版元 雑誌名
土木学会 土木学会年次学術講演会講演概要集,土木学会論文集,土木学会誌,環境システム研究論文発表会講演集,環境システム研究 16
日本建築学会 日本建築学会学術講演梗概集,日本建築学会計画系論文集,日本建築学会環境系論文集,日本建築学会技術報告集 26
日本コンクリート工学会 コンクリート工学年次論文集,コンクリート工学論文集,コンクリート工学 23
セメント協会 セメント技術大会講演要旨,セメント・コンクリート論文集,セメント・コンクリート 29
日本LCA学会 日本LCA学会誌 5
廃棄物資源循環学会 廃棄物資源循環学会研究発表会講演集,廃棄物資源循環学会論文誌 8
その他 27
合計 134

調査結果の概要を表-3に示します。セメント・コンクリート分野の現状の評価事例では,簡易的な評価手法が採用される場合が多いものの,今後は詳細な評価手法を採用していくことによって,環境影響の着実な低減に繋がっていくことが期待されます。ただし,詳細な評価手法を実施する場合には,必要となるインベントリデータ数の肥大化や評価者間誤差の拡大等のリスクも考えられます。また,セメント・コンクリート分野のインベントリ分析において,特に留意すべきと考えられる事項を表-4に示します。これらの事項を参考に,評価において影響の大きい部分が十分に考慮されているかを確認することが望ましいと言えます。さらに,先進的な手法として,環境側面のみならず,経済コストや社会コストを考慮した評価手法が開発されています。一方,これらの手法は,現状では汎用的な使用は難しいため,評価者が各手法の長短を十分に理解した上で適切な手法を選定する必要があります。

表-3 環境影響評価手法とその位置付け
項目 簡易な評価手法 詳細な評価手法
影響領域 地球温暖化への影響(CO2排出量)のみを評価する 複数の影響領域を評価する
機能単位 個数,重量,体積のいずれかを基準とする ・圧縮強度が一定となるように配(調)合修正を行った結果を基準とする
・使用条件及び使用環境を考慮した要求性能が全て目標値以上となるよう設定する
システム境界 製造段階のみを評価する ライフサイクル全体を評価する
廃棄物・副産物の取扱い 品目ごとの分類を行わず,一律にカットオフを行う ・廃棄物と副産物(あるいは共製品)に分類し,廃棄物をシステム拡張,副産物をカットオフする
・品目ごとに分類し,それぞれのシナリオを適切に設定する
影響評価手法 実施しない(インベントリ分析のみ) 日本国内を評価対象とする場合,LIMEを併用する
表-4 インベントリ分析における留意すべき事項
項目 留意すべき事項
評価範囲(システム境界) 製造段階のみの評価結果とライフサイクル全体の評価結果が異なる場合がある(供用時や処理・処分時の環境負荷が大きい場合が存在する)
インベントリデータベース 積み上げ法と産業連関法の二種類の方法があり,それぞれの長短を理解して使用する必要がある
セメント製造 セメント製造時における廃棄物・副産物使用量は,セメント品種・製造国・年代によって大きく異なるため,適切なデータを用いて影響を考慮する必要がある
耐用年数 耐用年数(耐久性)が異なる場合に,年単位の環境負荷に換算すると,評価結果が逆転する場合がある
解体コンクリート リサイクル方法は,国や年代によって大きく異なるため,適切なデータを用いて影響を考慮する必要がある
大気中からのCO2吸収を考慮する必要がある

■インベントリデータWG
インベントリデータWGでは,セメント・コンクリートに関わる環境負荷分析を行うために必要なインベントリデータを整備することを活動の目的としました。セメントやコンクリート,建築物,土木構造物の評価を想定した場合,それらの資材・エネルギー消費量は評価者が自ら収集し,投入される資材・エネルギーの製造等に伴う環境負荷の評価・分析時に本バックグラウンドデータ(原単位)を用いることを想定しています。さらに,WGの成果を踏まえて,コンクリート構成材料,コンクリート,コンクリート構造物等の環境影響評価のモデルケースを構築し,一般に広く提供することを目指すものです。
今回のインベントリデータ調査は,セメント・コンクリート分野に特化したものとしました。WGでは,調査方法の整理および考え方を示し,共通となるエネルギー・輸送をはじめ,構成材料(セメント,骨材,混和材料等)の製造,コンクリート製造,施工,解体,廃棄・リサイクル等のコンクリートのライフサイクルの各段階における各種投入量や排出量の原単位について,最新のインベントリデータの整備を実施しました。
(1)インベントリデータの調査方法
インベントリデータの整備における入出力データの収集方法には,既往研究論文や便覧などの文献から抽出する方法や統計データをもとに加工する方法などがあります。本検討では,データの収集方法を特定せず,様々な情報源を用いてデータ収集を行うこととしました。
報告の冒頭においては,インベントリデータを収集する目的や定義を示したほか,そのバックグラウンドデータベースの動向について説明し,インベントリ分析にあたって必要となる分析の目的,評価対象とする範囲,機能単位の考え方,対象とする基本フローの設定,データ収集方法,カットオフの考え方,評価の限界などに関するデータ整備の基本的考え方について整理しました。調査したインベントリデータの概要を表-5に示します。
(2)エネルギー・輸送
材料製造,コンクリート製造,施工,解体,廃棄・リサイクル等のコンクリートのライフサイクル各段階のインベントリデータをとりまとめる上で共通として必要となるエネルギーのインベントリデータについて整理しました。
輸送においては,トラック,アジテータトラック,貨車,船舶を対象としました。
(3)セメント製造
セメント協会におけるデータを活用し,ポルトランドセメントに留まらず,高炉セメントB種,フライアッシュセメントB種を対象とし,セメント1トン製造するためのインベントリデータを算出しました。また,一次輸送のデータについても独自の調査や検討を行い,その値を示しました。
(4)骨材製造
砕石・砕砂およびスラグ骨材・再生骨材・都市ごみ溶融スラグ骨材について,それぞれの調査結果に基づき導き出されたインベントリデータを示しました。
(5)水・混和材料
水においては,上水道水,工業用水,地下水,上澄水の種別ごとについて,混和材料については,フライアッシュ,高炉スラグ,石灰石微粉末,シリカフュームのほか,化学混和剤について,製造するためのエネルギー投入量の調査から,それぞれのインベントリデータを算出しました。
(6)鉄筋・PC鋼材
鉄筋コンクリート用の鉄筋においては一般的に電炉鋼が用いられ,PC鋼材は一般的に高炉鋼が用いられます。鉄筋やPC鋼といった鋼材には統一されたインベントリデータは無く,様々な機関が異なる方法で算出し公表されていることから,鋼材のインベントリデータの算出方法について紹介するとともに,エネルギー統計を用いて算出した各鋼材のインベントリデータを示しました。
(7)コンクリート製造
主に電力機器を使用するコンクリート製造ならびに重油等を使用する養生について,インベントリデータを示しました。
(8)施工
施工においては,コンクリート工事に用いる各種建設機械ごとのインベントリデータをとりまとめました。なお,使用する建設機械の稼働時間を算出する際に,実績等による稼働率が分からない場合は,「建設機械等損料表1)」を使用して建設機械1日あたりの標準運転時間を算出することができるものとし,参考として稼働率として示しました。
(9)解体
バックホウなどの建設機械を用いて行われる解体工事にともなう環境負荷について,主に建設機械の運転に必要な燃料などに起因するものを取り上げました。鉄筋コンクリート造の解体方法は,「改訂 新・解体工法と積算2)」を参照し,解体における歩掛および燃料消費量からインベントリデータを算出しました。
(10)廃棄・リサイクル
解体工事で発生する建設副産物の処分・処理に起因するものを対象とし,廃棄については埋立処分,リサイクルについては再生骨材(路盤材,再生粗・細骨材)を対象として,インベントリデータをとりまとめました。

表-5 調査したインベントリデータの概要
大分類 小分類 インベントリデータの概要
エネルギー 石炭(輸入一般炭),燃料用LPG,ガソリン,灯油,軽油,A重油,C重油,石油コークス,天然ガス(国産),LNG(輸入天然ガス),都市ガス,購入電力,アセチレン ・各種燃料の調達段階における採掘,国内への輸送,精製,最終需要地までの輸送に関する各種投入量および排出量の原単位
・燃料を消費した際の各種排出量原単位
輸送 トラック,アジテータトラック,貨車,船舶 燃料消費に伴う各種投入量および排出量の原単位
セメント製造 ポルトランドセメント,高炉セメントB種,フライアッシュセメントB種 セメント1トン製造するためのエネルギーおよび原料(天然,副産物および廃棄物),添加材の投入量および排出量の原単位
骨材製造 砕石,砕砂,スラグ骨材,再生骨材,都市ごみ溶融スラグ骨材 砕砂・砕石:岩石の採掘,運搬,骨材の製造時の破砕などにおける重機の燃料や電力の消費に伴う各種投入量および排出量の原単位
スラグ骨材・再生骨材・都市ごみ溶融スラグ骨材:副産物の有効利用の活用量,骨材製造のためのエネルギー消費に伴う各種投入量および排出量の原単位
水・混和剤 ・水:上水道水,工業用水,地下水,上澄水
・混和材料:フライアッシュ,高炉スラグ,石灰石微粉末,シリカフューム
・化学混和剤
製造するためのエネルギー投入に伴う各種投入量および排出量の原単位
鉄筋・PC鋼材 鉄筋(丸鋼,異形棒鋼等):電炉鋼
PC鋼材:高炉鋼
各鋼材製造時のエネルギー投入量に基づき算出した各種投入量および排出量の原単位
コンクリート製造 コンクリート製造:電力使用
養生:蒸気養生や加温養生時の重油
電力や重油使用に伴う各種投入量および排出量の原単位
施工 コンクリート工事に用いる各種建設機械
(コンクリートミキサ,アジテータトラック,ポンプ車,バイブレータ,クレーン,バックホウなど)
建設機械稼働時の燃料使用に伴う各種投入量および排出量の原単位
解体 鉄筋コンクリート造,鉄骨鉄筋コンクリート造,無筋コンクリート,コンクリート舗装 解体時の燃料使用に伴う各種投入量および排出量の原単位
廃棄・リサイクル 廃棄:埋立処分
リサイクル:再生骨材(路盤材,再生粗・細骨材)
廃棄・リサイクルに関するエネルギー投入量に起因する各種投入量および排出量の原単位

■セメントWG
セメントWGでは,セメントのライフサイクルを通じた環境影響を評価することを目的とし,モデルケースの構築ならびに試算を行いました。一般的なセメントの用途例として,生コンクリートおよびコンクリート製品を想定しました。
生コンクリートを想定したモデルケースでは,構成材料の製造からコンクリート製造,施工,解体,廃棄・リサイクルまでをシステム境界とし,環境影響を算出するケーススタディーを行いました(図−1)。コンクリート配合,材料使用量,重機稼働時間,輸送距離等の活動量は,日本国内の事例を調査し,典型的と考えられるデータを用いて試算を行いました。その結果,環境影響として,構成材料製造時のCO2排出および化石資源消費に加え,鉄筋製造時に排出される廃棄物や解体コンクリートの埋立等が重要であることが判明しました。また,セメント製造時の廃棄物活用による環境貢献による影響も大きく,環境負荷のみならず環境貢献を考慮する必要があると考えられました。

図-1 生コンクリートのモデルケースにおける評価範囲 img
図-1 生コンクリートのモデルケースにおける評価範囲

コンクリート製品のモデルケースにおいても,構成材料の製造からコンクリート製造,施工,解体,廃棄・リサイクルまでをシステム境界とし,環境影響を算出するケーススタディーを行いました。本モデルケースでは,生コンクリートのモデルケースと比較して,水セメント比を低く設定したほか,蒸気養生や工事現場での重機による据付の環境影響を評価しました。その結果,上述した生コンクリートのモデルケースにて抽出された環境影響に加えて,蒸気養生および据付時のCO2排出および化石資源消費の影響を考慮する必要があることが判明しました。
これらの試算により,セメント・コンクリートの多様な環境影響をライフサイクルにわたって網羅的に評価する必要性が改めて示されたことに加え,その具体的な評価例を示すことができたと考えます。

■土木構造物WG
土木構造物WGでは,土木構造物を主体とする鉄筋コンクリート構造物をいくつか取り上げ,実際の施工などを考慮した環境影響評価の試算を行いました。検討の事例として以下の表-6に示す5つのモデルケースを取り上げ,インベントリデータWGおよび評価手法WGの成果物を用いて,材料・施工などを含めた環境影響評価を行いました。

表-6 取り上げたモデルケース
Case 具体的な例 対象としたこと
(1) 現場打ちとプレキャストの比較  
  (a) ボックスカルバート 同一内径空間
  (b) 橋梁上部工 同一性能
(2) トンネル覆工コンクリート セメント種,骨材運搬距離
(3) 海洋環境の構造物—エポキシ樹脂塗装鉄筋— 同一耐用年数設計
(4) 設計寿命の長期化 セメント種類とかぶり
(5) コンクリート舗装 損傷部のみの打ち換え

(1)現場打ちとプレキャスト部材を適用した検討
(a)ボックスカルバート
同一内空を所有するボックスカルバートを設定し,現場での施工およびブロックでの製造での比較を行いました。ブロックを用いることで,配合上のセメント量は増加しますが,コンクリート総量が減少できることからCO2排出量および環境影響は小さくなりました。
(b)橋梁上部工
橋梁上部工へのプレキャスト部材の適用を検討しました。プレキャストにすることでコンクリート強度が増加する一方で,フルプレキャスト構造となることで桁高が若干大きく見積もられ,コンクリート総量も増加し,CO2排出量は大きくなりました。
(2)トンネル覆工コンクリート
覆工コンクリートに対しセメントの種類(OPC,BB)ならびに骨材輸送距離を変化させた環境影響評価を行いました。セメント種類をBBおよび近距離からの骨材輸送とすることでCO2排出量は小さくなりました。
(3)海洋環境に施工する構造物〜エポキシ樹脂塗装鉄筋の使用〜
海洋環境に船舶を用いて施工する構造物を事例として,腐食が開始するまでを耐用年数と設定し普通鉄筋およびエポキシ樹脂塗装鉄筋を用いた場合の比較を行いました。普通鉄筋を用いた場合はかぶりおよびコンクリートのW/Cを小さく見積もる必要があることから,コンクリート総量ならびにセメント使用量が大きくなり,CO2排出量は大きくなりました。
(4)設計寿命の長期化
塩害環境で設計寿命を長期化した場合の,セメント種類およびかぶりを変更したケースの試算を実施しました。単位耐用年数当たりのCO2排出量や環境影響評価を整理することが可能となりました。
(5)コンクリート舗装
コンクリート舗装のライフサイクルの設定は,経験的設計法3)により耐用年数20年で全てのコンクリート版を打ち換える手法が用いられてきました4)。ここでは,破壊確率に基づく疲労ひび割れに着目し,損傷とみなす疲労ひび割れが発生したコンクリート版のみを打ち換えるライフサイクルを考案し比較を行いました。損傷部分のみを補修することでCO2排出量や環境影響が著しく小さくなりました。

様々なモデルケースを設定し,CO2排出量のみならず環境影響評価を実施しました。今回の事例においては,施工等のインパクトよりも材料による環境影響が大きいことが分かりましたが,そうでないケースも存在すると考えられます。CO2排出量を考えると,システム境界の影響により,インベントリが小さいものが有利であることが分かりました。ただし,排出と貢献の総和による環境影響を考えると,OPCを用いることで廃棄物使用量が増加することから有利に働くことも明確となりました。しかし,副産物利用まで考慮すると,副産物を利用した材料を用いることによる効果が大きいことがわかりました。

■建築物WG
建築物WGでは,鉄筋コンクリート(RC)造建築物に関するモデルケースの構築を目的として,過去の取組み例を参考に,環境影響評価の試算を行いました。具体的には,標準的な建築物を選定し,インベントリデータWGの成果をもとに環境影響評価を行い,主として用いるコンクリートの種類を変更した場合の影響を比較しました。
検討で対象とした建築物は,表-5に示すRC造の中低層集合住宅です。この事例は,「建物のLCA指針(2006年版)の第8章」に掲載されているモデル集合住宅の基準案です5)。ただし,現場打ちのコンクリート杭(新設杭100%)を想定し,コンクリートおよびコンクリート工事関連のみで環境影響を評価しました。

表-5 対象建築物の概要
項目 諸元
建物用途 集合住宅
構造 鉄筋コンクリート造
階数 地上9階
住戸数 88戸
延床面積 7280.85m2

建築物に関する環境影響の算定は,「(1)資材量変換シート」における情報入力および入力値に基づくプロセスへの換算結果の確認,「(2)計算シート」におけるプロセス換算結果の環境影響への変換,「(3)インベントリシート」における環境影響の集計,「(4)影響評価結果シート」におけるLIME3を用いた環境影響の統合・評価により行いました。
比較検討項目として,コンクリートについて,混合セメントや再生骨材などの環境配慮材料を用いた場合および長寿命化(計画供用期間の級を変更)した場合のケーススタディーを実施しました。
なお,建築用コンクリートの標準的な調合や,コンクリート工事に関わる標準歩掛などを調査し,可能な限り現実的な評価となるよう検討しましたが,一方でインベントリデータが不足する型枠などは評価対象外としました。
成果として,日本建築学会が発行する指針類,コンクリート工場の標準配合ならびに建築工事標準歩掛などを調査し,RC造建築物の環境影響評価が可能なシステムの構築を行うことができました。
また,作成した評価システムによって試算を行い,RC造建築物に混合セメント,混和材および再生骨材を用いた場合の環境影響ならびに長寿命化による効果を示しました。


委員会成果報告会

本研究委員会の,FS委員会を含め3年間にわたる調査研究の総括として,以下の日時において成果報告会を開催いたします。本稿でご紹介した活動内容のより詳細な内容を,各WGから報告いたします。ふるってご参加くださいますよう,よろしくお願いいたします。

■セメント・コンクリートの環境影響評価に関する研究委員会報告会

開催日時:2024年9月19日(木)13:00〜17:00
開催方式:ハイブリッド形式(対面+ライブ配信)
開催場所:明治大学駿河台キャンパス グローバルフロント 1階グローバルホール(東京都千代田区神田駿河台2-1)
※開催翌営業日から1週間の録画見逃し配信(オンデマンド)も用意します。

プログラム(予定):
13:00-13:05 開会の挨拶
13:05-13:25 環境影響の概要(報告書第2章)
13:25-14:15 環境影響評価方法(報告書第3章)
14:15-14:55 インベントリデータ(報告書第4章)
14:55-15:05 <休憩>
15:05-16:55 モデルケース(報告書第5章)
モデルケースの環境影響算出ツール(Excelファイル)
生コンクリート・コンクリート製品のモデルケース
土木構造物のモデルケース
建築構造物のモデルケース
16:55-17:00 閉会の挨拶

(内容および時間は,都合により変更することがありますので,あらかじめご了承ください。)

※プログラム・申込方法などの詳細はこちらをご覧ください。
https://www.jci-net.or.jp/j/events/symposium/index.html

[参考文献]
1)日本建設機械施工協会:令和4年度版 建設機械等損料表,2022
2)経済調査会:改訂 新・解体工法と積算,2017
3)日本道路協会:舗装設計施工指針,2006
4)新見龍男・吉本徹:大型車の燃料消費量を考慮したコンクリート舗装とアスファルト舗装のLCCO2,土木学会論文集E1(舗装工学),Vol.76,No.2,pp.I_69-I_76,2020
5)日本建築学会:建物のLCA指針〜温暖化・資源消費・廃棄物対策のための評価ツール〜,日本建築学会, 2006.11

執筆者:河合 研至(広島大学)※1
伊代田 岳史(芝浦工業大学)※2
内田 俊一郎(太平洋セメント)※2
加藤 弘義(トクヤマ)※2
小山 明男(明治大学)※2
桐野 裕介(太平洋セメント)※3
新見 龍男(トクヤマ)※3

※1 セメント・コンクリートの環境影響評価に関する研究委員会 委員長
※2 同上 幹事
※3 同上 委員

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