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コンクリート用化学混和剤(以下化学混和剤)はコンクリートの流動性や耐久性を改善するために用いられ,様々な種類の製品が開発されています。月刊コンクリート技術では,2015年12月号(混和剤について),2020年6月号(高性能AE減水剤)で化学混和剤が紹介されています。近年,鉄筋コンクリート造建築物の早期劣化が社会的問題として注目され,種々の劣化現象を促進する要因となるひび割れに対しての関心が非常に高まっています。ここでは,コンクリートの乾燥収縮を抑制させるコンクリート用収縮低減剤(以下収縮低減剤)や化学混和剤などを紹介します。
コンクリートのひび割れの原因は多岐にわたりますが,その要因は,ひび割れパターンや形態からある程度推測・制御できます。ここでは,コンクリートの収縮ひび割れ制御のために設定された目標収縮率を満足させる他,硬化コンクリートへ塗布しコンクリートの乾燥収縮低減に寄与する収縮低減剤・化学混和剤などを紹介します。土木学会ではコンクリート標準示方書2007年版設計編において,コンクリートの収縮ひずみの最終値の限度を1200×10-6とされました。その後,性能照査型設計へ移行され収縮の特性値は実際に使用するコンクリートの試験値や実績を基に定めることが原則とされました。また試験によらない場合は,算定式により特性値を設定してよいこととなりました。
日本建築学会 建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 2009年版では,国土交通省が推進していた長期優良住宅に対応し,計画供用期間の級に超長期が加わり,その標準仕様として,特記のない場合にコンクリートの乾燥収縮率は800×10-6以下とする規定が設けられました。計画供用期間の級の超長期は,大規模な修繕が必要とされない期間が100年を超えることを想定したもので,非常に品質の高い鉄筋コンクリート造とされています。同2022年版では27節「低収縮コンクリート」が新設され,コンクリートの乾燥収縮の大きさに対応して3水準の等級が明記されています(表-1)。目標とする乾燥収縮率を満足させるための方法として,JIS A 6211(コンクリート用収縮低減剤),JIS A 6204(コンクリート用化学混和剤)収縮低減タイプ,JIS A 6202(コンクリート用膨張材),石灰石骨材を単独もしくは併用し目標とする乾燥収縮率を満足させる使用材料の組み合わせが示されています(表-2)。
水準 | 目標とする乾燥収縮率 |
低収縮等級1 | 650×10-6以下 |
低収縮等級2 | 500×10-6以下 |
低収縮等級3 | 400×10-6以下 |
収縮低減の対象となるコンクリートの乾燥収縮率(×10‐6) | 目標とするコンクリートの乾燥収縮率(×10-6) | ||
650以下(低収縮等級1) | 500以下(低収縮等級2) | 400以下(低収縮等級3) | |
800〜1000 | (1)+(2),(1)+(3),(2)+(3)または(2)+(4) | (1)+(2)+(3) | 困難 |
650〜800 | (1),(2),(3)または(4) | (1)+(2),(1)+(3),(2)+(3)または(2)+(4) | (1)+(2)+(3) |
500〜650 | — | (2),(3)または(4) | (2)+(3)または(2)+(4) |
400〜500 | — | — | (2),(3)または(4) |
(1)石灰石骨材の使用 (2)膨張材の使用 (3)収縮低減剤の使用 (4)化学混和剤(収縮低減タイプ)の使用
収縮低減剤は,コンクリートの乾燥収縮を低減するためにコンクリートに練り混ぜて用いるもので,日本国内では1980年代初頭より実用化された有機系の化学混和剤です。収縮低減剤の使用量の増減により任意の収縮低減率が得られ,大幅な乾燥収縮低減効果が期待できます(図-1)。使用方法は,レディーミクストコンクリート製造時にプラントで投入する工場添加方式と,荷卸し前にアジテータ車へ投入する現場添加方式があります3)。現場添加方式の場合,予め添加する収縮低減剤量を単位水量から差し引いてベースコンクリートを製造するケースもあります。ベースコンクリートの配(調)合に外割りで使用すると,添加量に応じて圧縮強度が低下します。従来から市販されている収縮低減剤は,収縮低減効果が期待できる一方で,コンクリートの凍結融解抵抗性に影響を及ぼす場合があると指摘されていますが,凍結融解作用に対する抵抗性を有する鉱物油系や保水系の収縮低減剤も市販されています4)5)。
2020年10月には日本産業規格としてJIS A 6211コンクリート用収縮低減剤が制定されました(表-3)。添加量により大幅な収縮低減効果がありJIS規格品として制定されたことで,コンクリート用膨張材(JIS A 6202)と同様に乾燥収縮ひび割れを抑制できる材料として幅広く用いられることを期待しています。
図-1 収縮低減剤(鉱物油系)の添加量と乾燥収縮率の一例2) ※原図を元に再構成 |
項目 | 性能 | |
フロー値比(%) | 85以上 | |
凝結時間の差(分) | 始発 | 120以下 |
終結 | 180以下 | |
圧縮強さの比(%) | 材齢7日 | 80以上 |
材齢28日 | 85以上 | |
長さ変化の比(%) | 乾燥期間7日 | 70以下 |
乾燥期間28日 | 75以下 | |
乾燥期間とは,JIS A 6211の保存期間である。 |
化学混和剤収縮低減タイプは,AE減水剤または高性能AE減水剤に収縮低減剤を付与し一液化させたものです。JIS A 6204コンクリート用化学混和剤に適合し,実績のある通常の化学混和剤の配(調)合から,収縮低減タイプの化学混和剤へ変更することでコンクリートの乾燥収縮率を5〜15%程度低減させます。使用量は,通常の化学混和剤に収縮低減成分を一液化した場合に,1.5倍程度とすることが一般的です。
なお,こちらについては,月刊コンクリート技術2020年6月号「コンクリートの機能を向上させる化学混和剤-高性能AE減水剤-」でも紹介されていますので,ご参照いただけると幸いです。
塗布型収縮低減剤は,コンクリートに塗布することで内部に浸透し,毛細管張力を減少させコンクリートの収縮を抑制させます。拘束条件などが厳しく,乾燥収縮ひび割れが発生しやすい部位・部材にピンポイントに塗布できることや,生コンクリートの製造に特段の考慮が必要ないことが取り扱いやすい材料といえます。塗布型収縮低減剤による養生効果により,乾燥収縮や中性化の進行を抑制し,乾燥条件下でも強度発現を促すことができます。適用構造物の例として建築構造物では,内外壁,スラブ,バルコニーなどがあります。土木構造物ではトンネル覆工コンクリート,コンクリート製品などがあります。
塗布型収縮低減剤の一般的な使用量は80〜150g/m2程度で,収縮低減率は5〜15%となります7)8)。コンクリートの収縮ひび割れ抑制に用いるため,できるだけ脱型直後に塗布することが望ましいといえます。塗布作業には,一般的にローラーや噴霧器を用い,特別な養生を設ける必要がなく,人が入れるスペースがあれば作業が可能なため,作業の手軽さもメリットといえます(図-2)。
他方,取扱い方法について,該当する日本産業規格や指針などに品質規格がなく,各メーカーの推奨方法で施工を行います。使用方法が簡便なため使用実績も積み重ねていますが,信頼できる資料や技術データを基に有効に活用されれば,コンクリートの乾燥収縮ひび割れの抑制の一助となる材料です。
図-2 塗布型収縮低減剤の施工例8) |
コンクリートの乾燥収縮は,セメント水和物の化学的な性質変化ではなく,硬化コンクリート内部の空隙水が逸散することによって生じる収縮応力が要因とされています。その代表的なものとして,毛細管張力説(図-3),分離圧説,表面張力説,層間水移動説などが提案されています。相対湿度40%以上の中・高湿度領域では毛細管張力説や分離圧説が有力で,相対湿度40%以下の低湿度領域では表面張力説や層間水移動説が有力とされています9)。近年では,丸山ら10)が収縮低減剤を混和したセメント硬化体の比表面積の減少,相互間力への影響といった新しい作用機構に関する検討を試みています。
図-3 乾燥時に発生する毛細管張力の模式図11) ※原図を元に再構成 |
収縮低減剤の主な特長は,非吸着性のため液相中に残存し,空隙水の逸散や水和による水分消費により,収縮低減剤の濃度が高まり,水の表面張力を低下させる働きを有することです。硬化コンクリート内部の毛細管張力の低下は,収縮低減剤の作用機構の一要因と考えられます(図-4)。その効能により,コンクリートに生じる収縮応力が緩和され,乾燥収縮が低減すると説明される既往の報告が多くあります9)11)12)13)(図-4)。また,濃度が高まることで表面張力の低下が助長されることも報告されています13)。一方で,水和物表面に働く相互間力の変化,比表面積の減少および体積含水率と収縮駆動力を整理した近年の収縮低減剤の作用モデル10)は,分離圧モデルの吸着水膜厚を体積含水率に変化させた精度の高い作用機構モデルといえます。
図-4 モルタルの表面張力と乾燥収縮の関係12) |
上記で紹介した,コンクリートの収縮を低減させる目的で用いられる収縮低減剤・化学混和剤などの種類と収縮低減率の参考例を以下にまとめました。
種類 | 概要 | 規格 | 使用量(率) | 収縮低減率 |
収縮低減剤 | 工場添加方式または現場添加方式 |
JIS A 6211 | 2〜8㎏/m3 | ≒10〜40% |
AE減水剤/高性能AE減水剤・収縮低減剤タイプ | 工場添加方式 | JIS A 6204 | C×0.5〜4.0% | ≒5〜15% |
塗布型収縮低減剤 | 硬化コンクリートへ塗布 | 非該当 | 80〜150g/m2 | ≒5〜15% |
表-4を参考に目標とする収縮低減率を定め,適切な収縮低減剤や化学混和剤などを選定することができます。コンクリートの配(調)合とコンクリートの収縮ひび割れの関連については明らかになっていない点もあります。日本建築学会・建築工事標準仕様書・同解説JASS5鉄筋コンクリート工事では,計画供用期間の級が長期および超長期を対象に,特記のない場合には乾燥収縮率を800×10-6以下にすることで,有害なひび割れを抑制できるとされています。
今回,コンクリートの乾燥収縮を抑制する,収縮低減剤・化学混和剤などについて紹介しました。これに限らず,石灰石骨材やコンクリート用膨張材の材料を組み合わせ,目標とする乾燥収縮低減率を満足させ耐久性の高いコンクリートの製造を実現させることが可能です。今後,生産性向上・環境負荷低減・酷暑期の流動性確保など様々なニーズに対応する製品がコンクリート用化学混和剤には求められています。少子高齢化による生産性低下への対応など業界を取り巻く環境の厳しさは日々現実味を帯びてきています。新たな技術提案のために,今後ますますの研究開発が期待されています。