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一般に,部材厚の大きいコンクリート(マスコンクリート)はひび割れの発生が懸念されます。このひび割れは温度ひび割れと呼ばれ,コンクリートが硬化する際に発生する水和熱による温度変化や温度分布性状によって生じるひび割れです。メカニズムを図-1および図-2に示します。
[外部拘束による温度ひび割れ]
打込み後,コンクリートの温度が下がる過程で収縮するとき, 既設コンクリートによって拘束されて生じるひび割れ(貫通ひび割れの原因) 図-1 外部拘束による温度ひび割れイメージ図 |
[内部拘束による温度ひび割れ]
部材表面と内部の温度差により初期の材齢で表面に発生するひび割れ 図-2 内部拘束による温度ひび割れイメージ図 |
この温度ひび割れを抑制する方法はいくつかあります。各対策の効果を温度応力解析により検証した結果についてご紹介します。
一般に,コンクリートは材料の特性上,温度ひび割れが発生しやすいという特徴を持っています。
水和熱に起因するひび割れの制御・防止の基本方針として,「マスコンクリートのひび割れ制御指針2016」1)には以下の記載があります。
“マスコンクリート構造物の温度ひび割れ制御の目的は,構造物の要求性能を満足させることにある。温度ひび割れは構造物の性能に影響を及ぼすので,その影響を考慮して温度ひび割れ制御の目標を設定し,その目的が確実に達成されるようにしなければならない”
また,温度ひび割れによって低下するコンクリートの品質には,以下のようなものがあります。
設計段階で温度ひび割れリスクの照査を行うことが望ましいですが,温度ひび割れの発生に直接関係するコンクリートの最高温度は打込み時期,配合,養生条件およびリフト割りなどに影響されるため,施工前にも打込み時の条件で温度応力解析を行うことが一般的です。
以上より,対象となる構造物の要求性能を考慮したひび割れ制御目標を設定し,その目標を達成できるように,温度応力解析を用いた温度ひび割れの検討および対策を行う必要があります。
「マスコンクリートのひび割れ制御指針2016」1)では,温度ひび割れの制御方法を以下の3つに分類しています。
上記のひび割れ制御対策を行ったとき,それぞれどの程度効果があるのか3次元FEM温度応力解析を行い,比較検討を行いました。
今回はU型擁壁を想定し,検討を行いました。
1)解析ケース
解析ケースは表-1の通りです。
分類 | ケース | 内容 |
標準ケース | BASE | 普通ポルトランドセメント |
a)体積変化を抑制する方法 −温度上昇を抑制する方法 |
a-1 | 中庸熱ポルトランドセメント |
a-2 | 低熱ポルトランドセメント | |
b)体積変化を抑制する方法 −収縮ひずみを低減する方法 |
b-1 | 膨張材使用 |
b-2 | 石灰石骨材使用 | |
c)拘束度を低減する方法 |
c-1 | ひび割れ誘発目地(@5.0m) |
c-2 | 打込み間隔変更(14日→7日) |
2)解析モデル・打込み日設定
解析モデルは底版+側壁の2リフトの構造物としました。延長15.0m,底版および側壁の部材厚を
それぞれ1.0mとし,ひび割れ誘発目地を設置するモデルでは5.0m間隔で側壁部にのみ設置しました。構造物の対称性を考慮し,延長方向に1/2モデルとして図-3のように作成しました。
図-3 解析モデル図 |
打込み場所は東京,打込み時期は年間で外気温が最も高くなる7月末〜8月初旬を想定しました。
3)その他
本解析で使用したコンクリート配合は,いずれのケースも水セメント比55%,単位量はC:320㎏/m3,W:176㎏/m3とし,使用するセメントは普通セメント,中庸熱セメント,低熱セメントとしました。
その他,断熱温度上昇特性,力学的特性等は「マスコンクリートのひび割れ制御指針2016」1)に準拠して設定を行いました。
なお,解析結果は本検討で仮定した一条件下における例となります。
図-4 温度ひび割れ発生確率曲線 |
一般に,コンクリートのひび割れはひび割れ指数Icr(=[引張強度F(t)]/[引張応力度σ(t)])という値によって評価を行います。
この指数が小さいほどひび割れ発生確率は高くなります(図-4)。なお,ひび割れ指数が1.0のとき,ひび割れ発生確率は50%程度となります。
今回の検討では外部拘束型温度ひび割れを対象とし,ひび割れ指数の抽出点は,貫通ひび割れの原因となる部材中心部としました。ひび割れ指数は経時変化するため,通常は最小値で評価します。それぞれのケースの最小ひび割れ指数およびコンター図を表-2に示します。
凡例 | BASE(普通セメント) | |
凡例 | a)体積変化を抑制する方法-温度上昇を抑制する方法 | |
a-1(中庸熱セメント) | a-2(低熱セメント) | |
凡例 | b)体積変化を抑制する方法-収縮ひずみを低減する方法 | |
b-1(膨張材添加) | b-2(石灰石骨材使用) | |
凡例 | c)拘束度を低減する方法 | |
c-1ひび割れ誘発目地(@5.0m) | c-2打込み間隔変更(14日→7日) | |
BASEの普通セメントのケースと比較したとき,最もひび割れ改善の効果が高かったのは,低熱セメントを使用したケースでした。BASE(普通セメント)でのケースを基準としたとき,最小ひび割れ指数の改善率は側壁で96%となりました。これは低熱セメントを使用することによりコンクリート内部の温度上昇が抑えられたためです。次いで効果が高かったのは中庸熱セメント>石灰石骨材>膨張材>誘発目地≒打込み間隔変更でした。今回の検討結果では,温度ひび割れに関して効果が高い対策は温度上昇を抑制する方法であり,その中でも温度上昇量が少ないセメントを使用することが最も改善率が高いという結果でした。
実際の施工では,コストや工程等総合的に検討を行い,要求性能を満足するよう,その時々に合う適切な対策を選定することが肝要となります。また,実際の検討ではひび割れ指数だけでなく,指数と鉄筋比から推定されるひび割れ幅の照査を行うこともあります。今回は,単純にひび割れ指数のみで比較した事例を紹介しましたが,品質の良いコンクリート構造物の施工を目指す際に,今回の対策案の比較の結果を参考にされてみてはいかがでしょうか。