日本コンクリート工学会

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2023年2月号

各種温度ひび割れ抑制対策の効果の比較
—温度応力解析による検討—

一般に,部材厚の大きいコンクリート(マスコンクリート)はひび割れの発生が懸念されます。このひび割れは温度ひび割れと呼ばれ,コンクリートが硬化する際に発生する水和熱による温度変化や温度分布性状によって生じるひび割れです。メカニズムを図-1および図-2に示します。

[外部拘束による温度ひび割れ]

図-1 外部拘束による温度ひび割れイメージ図 img
打込み後,コンクリートの温度が下がる過程で収縮するとき,
既設コンクリートによって拘束されて生じるひび割れ(貫通ひび割れの原因)

図-1 外部拘束による温度ひび割れイメージ図

[内部拘束による温度ひび割れ]

図-2 内部拘束による温度ひび割れイメージ図 img
部材表面と内部の温度差により初期の材齢で表面に発生するひび割れ
図-2 内部拘束による温度ひび割れイメージ図

この温度ひび割れを抑制する方法はいくつかあります。各対策の効果を温度応力解析により検証した結果についてご紹介します。

執筆者:情報コミュニケ—ション委員会 委員
林 かほり(株式会社 大林組)


温度応力解析の必要性

一般に,コンクリートは材料の特性上,温度ひび割れが発生しやすいという特徴を持っています。
水和熱に起因するひび割れの制御・防止の基本方針として,「マスコンクリートのひび割れ制御指針2016」1)には以下の記載があります。

“マスコンクリート構造物の温度ひび割れ制御の目的は,構造物の要求性能を満足させることにある。温度ひび割れは構造物の性能に影響を及ぼすので,その影響を考慮して温度ひび割れ制御の目標を設定し,その目的が確実に達成されるようにしなければならない”

また,温度ひび割れによって低下するコンクリートの品質には,以下のようなものがあります。

○水密性,気密性
--ひび割れから漏水等が起こり要求性能を満足することができなくなります。
○耐久性
--ひび割れを通して内部鋼材の劣化を促進する因子である二酸化炭素,水,塩化物イオン等がコンクリート内部に侵入することになります。
○美観
--利用者や発注者,周辺住民に不安感を与える場合があります。

設計段階で温度ひび割れリスクの照査を行うことが望ましいですが,温度ひび割れの発生に直接関係するコンクリートの最高温度は打込み時期,配合,養生条件およびリフト割りなどに影響されるため,施工前にも打込み時の条件で温度応力解析を行うことが一般的です。

以上より,対象となる構造物の要求性能を考慮したひび割れ制御目標を設定し,その目標を達成できるように,温度応力解析を用いた温度ひび割れの検討および対策を行う必要があります。


検討概要

「マスコンクリートのひび割れ制御指針2016」1)では,温度ひび割れの制御方法を以下の3つに分類しています。

a)体積変化を抑制する方法−温度上昇を抑制する方法
--温度上昇を抑制することによりコンクリートの温度応力を抑えることができる。
例)低発熱型セメントの使用,混和材の使用,セメント量の低減,材料温度の低減等
b)体積変化を抑制する方法−収縮ひずみを低減する方法
--収縮ひずみを低減させることで拘束による発生応力を減らすことができる。
例)膨張材の使用,熱膨張係数の小さい石灰石骨材の使用等
c)拘束度を低減する方法
--外部拘束を抑制することによりコンクリートにかかる発生応力を減らすことができる。
例)ひび割れ誘発目地の使用,打込み間隔の変更(間隔を短くする)等

上記のひび割れ制御対策を行ったとき,それぞれどの程度効果があるのか3次元FEM温度応力解析を行い,比較検討を行いました。


解析条件

今回はU型擁壁を想定し,検討を行いました。

1)解析ケース
解析ケースは表-1の通りです。

表-1 解析ケース
分類 ケース 内容
標準ケース BASE 普通ポルトランドセメント
a)体積変化を抑制する方法
−温度上昇を抑制する方法
a-1 中庸熱ポルトランドセメント
a-2 低熱ポルトランドセメント
b)体積変化を抑制する方法
−収縮ひずみを低減する方法
b-1 膨張材使用
b-2 石灰石骨材使用
c)拘束度を低減する方法
c-1 ひび割れ誘発目地(@5.0m)
c-2 打込み間隔変更(14日→7日)

2)解析モデル・打込み日設定
解析モデルは底版+側壁の2リフトの構造物としました。延長15.0m,底版および側壁の部材厚を
それぞれ1.0mとし,ひび割れ誘発目地を設置するモデルでは5.0m間隔で側壁部にのみ設置しました。構造物の対称性を考慮し,延長方向に1/2モデルとして図-3のように作成しました。

図-3 解析モデル図 img
図-3 解析モデル図

打込み場所は東京,打込み時期は年間で外気温が最も高くなる7月末〜8月初旬を想定しました。

3)その他
本解析で使用したコンクリート配合は,いずれのケースも水セメント比55%,単位量はC:320㎏/m3,W:176㎏/m3とし,使用するセメントは普通セメント,中庸熱セメント,低熱セメントとしました。

その他,断熱温度上昇特性,力学的特性等は「マスコンクリートのひび割れ制御指針2016」1)に準拠して設定を行いました。
なお,解析結果は本検討で仮定した一条件下における例となります。


解析結果

図-4 温度ひび割れ発生確率曲線 img
図-4 温度ひび割れ発生確率曲線

一般に,コンクリートのひび割れはひび割れ指数Icr(=[引張強度F(t)]/[引張応力度σ(t)])という値によって評価を行います。
この指数が小さいほどひび割れ発生確率は高くなります(図-4)。なお,ひび割れ指数が1.0のとき,ひび割れ発生確率は50%程度となります。

今回の検討では外部拘束型温度ひび割れを対象とし,ひび割れ指数の抽出点は,貫通ひび割れの原因となる部材中心部としました。ひび割れ指数は経時変化するため,通常は最小値で評価します。それぞれのケースの最小ひび割れ指数およびコンター図を表-2に示します。

表-2 最小ひび割れ指数およびコンター図
凡例 BASE(普通セメント)
凡例 a)体積変化を抑制する方法-温度上昇を抑制する方法
a-1(中庸熱セメント) a-2(低熱セメント)
凡例 b)体積変化を抑制する方法-収縮ひずみを低減する方法
b-1(膨張材添加) b-2(石灰石骨材使用)
凡例 c)拘束度を低減する方法
c-1ひび割れ誘発目地(@5.0m) c-2打込み間隔変更(14日→7日)

BASEの普通セメントのケースと比較したとき,最もひび割れ改善の効果が高かったのは,低熱セメントを使用したケースでした。BASE(普通セメント)でのケースを基準としたとき,最小ひび割れ指数の改善率は側壁で96%となりました。これは低熱セメントを使用することによりコンクリート内部の温度上昇が抑えられたためです。次いで効果が高かったのは中庸熱セメント>石灰石骨材>膨張材>誘発目地≒打込み間隔変更でした。今回の検討結果では,温度ひび割れに関して効果が高い対策は温度上昇を抑制する方法であり,その中でも温度上昇量が少ないセメントを使用することが最も改善率が高いという結果でした。


おわりに

実際の施工では,コストや工程等総合的に検討を行い,要求性能を満足するよう,その時々に合う適切な対策を選定することが肝要となります。また,実際の検討ではひび割れ指数だけでなく,指数と鉄筋比から推定されるひび割れ幅の照査を行うこともあります。今回は,単純にひび割れ指数のみで比較した事例を紹介しましたが,品質の良いコンクリート構造物の施工を目指す際に,今回の対策案の比較の結果を参考にされてみてはいかがでしょうか。

[参考文献]
1)日本コンクリート工学会:マスコンクリートのひび割れ制御指針2016,2016.11

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