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コンクリート用スラグ骨材の利用は,産業副産物の有効利用,天然骨材枯渇への対応・自然破壊防止の観点から持続可能な社会の実現に貢献するものと言えます。また,それぞれのスラグ骨材が有する特徴を正しく理解し,適切に使用することによって,コンクリート構造物の品質や性能を向上する効果も期待され,これらメリットの活用を含めて,利用定着・拡大に向けた様々な取り組みが展開されています。ここでは,現在規格化されているコンクリート用スラグ骨材の種類・特徴,利用実態と今後の展望について紹介します。
現在,JISで規格化されているコンクリート用スラグ骨材を表-1に示します。産業由来のスラグ骨材としては,JIS A 5011として1977年に高炉スラグ骨材が制定されて以降,同じ規格群としてフェロニッケルスラグ骨材,銅スラグ骨材,電気炉酸化スラグ骨材が順次制定され,至近では2020年10月に5つ目となる石炭ガス化スラグ骨材が制定されています。また,JIS A 5031として一般廃棄物,下水汚泥又はそれらの焼却灰を溶融固化したコンクリート用溶融スラグ骨材(以下,溶融スラグ骨材)が制定されています。
この他,現時点では規格化されていませんが,フェロクロムスラグなど新しいスラグの骨材利用も研究・検討が進められています。
種類 | 規格番号 | 製造方法 |
(1)高炉スラグ骨材 | JIS A 5011-1:2018 | 溶鉱炉でせん鉄と同時に生成する溶融スラグを徐冷,若しくは水,空気などによって急冷し,粒度調整したもの |
(2)フェロニッケスラグ骨材 | JIS A 5011-2:2016 | フェロニッケル生産時に副生する溶融スラグを冷却し,粉砕・粒度調整・粒形改善したもの,若しくはフェロニッケル生産過程での半溶融物を冷却し,破砕,分離したもの |
(3)銅スラグ骨材 | JIS A 5011-3:2016 | 銅を溶錬する際に副生する溶融スラグを水によって急冷し,粒度調整したもの |
(4)電気炉酸化スラグ骨材 | JIS A 5011-4:2018 | 電気炉で溶鋼と同時に生成する溶融した酸化スラグを徐冷,若しくは水,空気などによって急冷し,鉄分を除去して粒度調整したもの |
(5)石炭ガス化スラグ骨材 | JIS A 5011-5:2020 | ガス化炉で石炭をガス化するときに副生する溶融スラグを水砕し,摩砕などによって粒度調整したもの |
(6)溶融スラグ骨材 | JIS A 5031:2016 | 一般廃棄物及び下水汚泥の溶融固化施設から有効利用を目的に産出される溶融物を冷却固化し,粒度調整したもの |
(1)高炉スラグ骨材
高炉セメントに代表されるように,高炉スラグの建設材料利用の歴史は古く,骨材利用においても徐冷スラグは粗骨材として,水砕スラグは細骨材として長く使用されてきた実績があります。高炉スラグ骨材は,化学的に安定しており,溶解シリカ量が少なく,アルカリシリカ反応を起こす恐れがありません。また,適切な条件で高炉スラグ細骨材を用いたコンクリートは,塩化物イオンの浸透に対する抵抗性や硫酸に対する抵抗性の向上を期待することも可能です。
注意すべき特徴として,夏期高温時は固結する場合があるため,長期保管は控える必要があります。また,強度や耐久性には影響しませんが,コンクリート表面の色調が高炉セメントを用いた場合と同様に青みを帯びることがあります。
この他,(2)以降のスラグ骨材にも共通する特徴として,普通骨材を用いたコンクリートより乾燥収縮は小さくなる傾向があります。共通の留意事項としては,全骨材量に対するスラグ骨材の容積比を過度に増大させるとブリーディングは増える傾向にあり,ワーカビリティや耐凍害性に対する配慮が必要であるとともに,循環資材としてライフサイクルを通じて環境安全性を確保するために,環境安全品質基準を満足する必要があります。
写真-1 高炉スラグ粗骨材(左)・高炉スラグ細骨材(右)1) |
(2)フェロニッケルスラグ骨材
フェロニッケルスラグ骨材には,ロータリーキルン副生スラグを水砕した細骨材,電気炉副生スラグを徐冷又は急冷(水砕)した細骨材,電気炉副生スラグを徐冷した粗骨材があります。いずれも二酸化けい素と酸化マグネシウムを主成分とし,絶乾密度は3.0〜3.1g/cm3程度と大きいことから,コンクリートの単位容積質量が大きいことが望ましい構造物,例えば消波ブロックや重力式擁壁などでの活用が有効とされています。
フェロニッケルスラグ骨材は製造時の冷却条件によってアルカリシリカ反応性を示す場合がありますが,その場合であっても抑制対策を講じることで利用することができます。また,他のスラグ骨材と同様に,乾燥収縮は小さくなりますが,全骨材量に対するスラグ骨材の容積比を過度に増大させた場合には,単位容積質量の増大とともにブリーディングが生じやすくなるため,ワーカビリティや耐凍害性への配慮が必要となります。
写真-2 フェロニッケルスラグ粗骨材(左)2)・フェロニッケルスラグ細骨材(右) |
(3)銅スラグ骨材
銅スラグ細骨材は,絶乾密度が3.2g/cm3以上と大きいことが特徴です。形状は粒状を呈し,特に粒度区分2.5mm以下の銅スラグ細骨材を用いたコンクリートは,単位水量を低減できる場合があります。銅スラグ骨材は,密度が大きいため,コンクリートの単位容積質量が大きいことが望ましい構造物,特に港湾用途の消波ブロックや防波堤などへの活用が有効とされています。ただし,一般環境の用途においては,環境安全性の観点から全細骨材に対する容積比を30%以下とすることが標準となっています。
銅スラグ細骨材も,他のスラグ骨材と同様に,乾燥収縮は小さくなりますが,スラグ骨材の容積比を大きくすると単位容積質量の増大とともにブリーディングが生じやすくなるため,ワーカビリティや耐凍害性への配慮が必要となります。
写真-3 銅スラグ細骨材2) |
(4)電気炉酸化スラグ骨材
電気炉酸化スラグ骨材は,絶乾密度によってN(3.1以上4.0g/cm3未満)とH(4.0以上4.5g/cm3未満)に区分されていますが,区分Nにおいても一般的に絶乾密度は3.6g/cm3程度となっており,他の骨材と比べて大きいことが最大の特徴です。区分Hの電気炉酸化スラグ粗骨材を用いた場合,単位容積質量を2.6〜2.8t/m3程度まで容易に増加させることが可能であり,消波ブロックなどへの活用が有効であるほか,放射線遮蔽コンクリートなどへの適用にも有利となります。また,粗骨材粒の硬さを利用して,舗装コンクリートへの利用も有効とされています。
電気炉酸化スラグ骨材中に遊離石灰分が多く含まれる電気炉還元スラグが混入すると,コンクリートの膨張・ポップアウトを引き起こす恐れがあるため,還元スラグの混入に対する対策・管理が徹底されている必要があります。電気炉酸化スラグ骨材も,他のスラグ骨材と同様に,使用条件によって単位容積質量の増大とともにブリーディングが生じやすくなることから,ワーカビリティや耐凍害性に対する配慮が必要となります。
写真-4 電気炉酸化スラグ粗骨材(左)・電気炉酸化スラグ細骨材(右)3) |
(5)石炭ガス化スラグ骨材
石炭ガス化スラグ細骨材は,クリーンコール技術として開発された石炭ガス化複合発電(IGCC)の副生スラグから成る新しいスラグ細骨材です。表面が平滑で吸水率が低いことに加え,摩砕等によって粒度・粒形が調整されるため,これを用いたコンクリートは,同等のコンシステンシーを得るための単位水量を低減できる場合があります。化学組成は,同じく石炭灰を由来とするフライアッシュと類似し,細骨材とセメントペーストとの界面の緻密化によって物質移動抵抗性の向上が期待されています。
まだ十分な流通がないことから,スラグ骨材の化学組成の影響や長期挙動の把握など,各種の調査・研究が続けられています。
写真-5 石炭ガス化スラグ細骨材4) |
(6)溶融スラグ骨材
全国から発生する一般廃棄物,下水汚泥の減容化・無害化の観点でも溶融スラグ骨材の利用は極めて有用と言えます。溶融スラグ骨材の品質や環境影響,溶融スラグを用いたコンクリートの諸性質は溶融施設や産出地域等によって異なりますが,絶乾密度は2.7g/cm3程度のものが多くなっています。
溶融スラグを用いたコンクリートの圧縮強度は,同じ水セメント比の普通骨材コンクリートと比べてやや低下する傾向にあります。また,溶融スラグ粗骨材中に潜在する生石灰や金属アルミニウムが起点となり,ポップアウトを生じた報告例もあり,長期挙動の把握が課題となっています。
なお,JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)では,溶融スラグ骨材の使用が認められていないため,JISマーク表示認証のレディーミクストコンクリートとして出荷することはできませんが,プレキャストコンクリート製品等リサイクル建設資材としての利用や性能規定のもとで適用範囲を限定して利用することが可能な場合もあります。
写真-6 溶融スラグ5) |
産業由来のコンクリート用スラグ骨材は,既往の研究成果や利用実績をもとに土木学会及び日本建築学会から設計・施工の標準を示す指針6)〜13)が刊行されており(石炭ガス化スラグ骨材は現在作成中),また,グリーン購入法の特定調達品目に指定されています。溶融スラグ骨材も各行政において有効利用ガイドラインが示されるなど,標準化といった観点で公共工事における利用推進の環境は整っていると言えます。しかしながら,コンクリート用骨材としての利用実態は,スラグの発生元である製鉄・製錬・発電・焼却溶融施設それぞれが立地する地域に限られ,運搬費などの経済的理由や骨材サイロの確保など供給面の課題によって,その利用量は表-2に示す程度に留まっています。
種類 | コンクリート用 骨材利用量 |
スラグ生産量 | 調査年度 | 備考 |
(1)高炉スラグ骨材 | 1,298 | 19,015 | 2020 | 鐵鋼スラグ協会公開資料14) |
(2)フェロニッケスラグ骨材 | 22 | 1,808 | 2021 | 日本鉱業協会聞取り |
(3)銅スラグ骨材 | 176 | 3,537 | 2021 | 日本鉱業協会聞取り |
(4)電気炉酸化スラグ骨材 | 81 | 2,445 | 2020 | 鐵鋼スラグ協会公開資料14) |
(5)石炭ガス化スラグ骨材 | 0.1 | 34 | 2021 | IGCC各所聞取り |
(6)溶融スラグ骨材 | 111 | 802 | 2016 | 文献15) |
産業副産物から成る再生資源であることを理由に環境安全性に対する不安が先行するなど,スラグ骨材の品質への理解が発注者・施工者(購入者)・使用者に正しく浸透していないことも利用定着に至らないひとつの要因と考えられます。過去には,規格外品の流通や不法混入によって構造物の劣化が顕在した事例もありますが,適切な方法で使用すれば,普通骨材を用いたコンクリートと同様な取り扱いを行えるだけでなく,特徴を活かした効果によって構造物の品質・性能を向上させることも可能であることを広く浸透させることが必要と言えます。
昨今,SDGsやカーボンニュートラル社会の実現に向けて,環境負荷低減の機運がさらに高まっています。コンクリートを構成する材料も例外ではなく,今後より一層の再生資源の利用が求められることは間違いありません。ここで紹介したスラグは,いずれも社会を支える重要な産業から副生されるものであり,持続的かつ広範囲に有効利用されることが望まれます。そのため,短期的な経済性に捉われず,発注者・施工者・使用者,あるいは社会全体が,環境負荷低減に貢献するというマインドチェンジをもってコンクリート用スラグ骨材やその他再生資源の利用を推進し,これが定着することを期待したいと思います。