ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2022年7月号(3)
アンボンドプレストレストコンクリート(以降,アンボンドPC)構造の一つとして,土木分野では,PC鋼材の防錆と効率的な維持管理を目的に,外ケーブル工法が1990年代から使用されてきました。また,建築分野では,アンボンドPC構造の使用は,従来,スラブ等の2次部材に限られていましたが,2007年の建築基準法の告示改正により,構造部材にもその使用が認められるようになりました。PC鋼材のアンボンド化は,施工の合理化に留まらず,損傷制御を可能にするなど,興味深い構造性能を生み出すことが1990年代のPRESSSプロジェクト1)以降,明らかとなってきています。
そこで,アンボンドプレストレストコンクリート構造部材の曲げ挙動に関する研究委員会では,アンボンドPC構造の抵抗機構,適用部材,施工法,構造物の設計法,既存の曲げ挙動骨格曲線予測法の精度,高精度な骨格曲線予測法の検討,適用構造物の事例など,アンボンドPC構造の特性を理解し,普及を図る上で必要となる幅広い情報を報告書にまとめました。本稿では,2020年度からの2年間にわたる本研究委員会の活動成果の概要を紹介するとともに,本年9月に開催するオンライン成果報告会についてご案内いたします。
■アンボンドPC構造
鉄筋コンクリート(RC)構造は,コンクリートが圧縮応力,鉄筋が引張応力を負担する,材料の特性を活かした優れた構造です。一方で,近年の地震被害を振り返ると,被災RC構造の大規模な修復もしくは解体が必要となる例が多くあります。また,中小地震時であってもコンクリートにひび割れが生じれば,耐久性の低下を避けるために補修を行う必要があります。構造物の補修の際には,使用制限が必要になる他,仕上げ材等の除去を伴う場合には多大な労力と費用が必要となります。こうした地震後の損傷や,損傷に伴う補修も回避できる無損傷構造を比較的経済的に実現できる構造が,予めコンクリートに圧縮力(プレストレス)を与え,ひび割れの発生・拡大を抑制する図-1のようなプレストレストコンクリート(PC)構造です。本研究委員会では,PC構造において,PC鋼材とコンクリートの間の付着を除去したアンボンドPC構造を対象に検討しました。
図-1 ポストテンション方式のプレストレストコンクリート構造の概念図 |
■国内外におけるアンボンドPC構造の適用構造部材の現状
アンボンドPC構造について,鋼材にグリースを塗布して,ポリエチレンで被覆したPC鋼より線が土木分野では使用されています。施工現場でシース管にPC鋼材を挿入する必要がなく,グラウト充填作業も不要なため,PC鋼材−コンクリート間に付着を有するPC構造に比べて,施工の省力化が期待できます。建築分野では,アンボンドPC構造は,スラブや小梁への適用が大半であり,大梁や基礎梁等の構造部材への国内での適用事例は限られています。これは,法律上,2次部材にのみ使用が許されていた歴史的経緯やアンボンドPC柱の実験報告が少ないこと,アンボンドPC構造を構造部材で使用する場合には,限界耐力計算が義務付けられており,計算の煩雑さを避けるために2次部材に使用されるケースが多いことなどが理由に挙げられます。一方,海外では,たわみやひび割れを防止するためにスラブ・プレキャスト壁に利用する例や,残留変形を抑制することを目的として使用するなど,国内よりも適用範囲が広くなっています。こうした海外の事例も踏まえると,アンボンドPC構造の利点を積極的に活かすことで,より合理的で経済的な設計・施工・維持管理が可能になることが期待されます。
■規準類におけるアンボンドPC構造部材の構造性能算定法
アンボンドPC鋼材や外ケーブルを用いた部材の曲げ耐力を評価する際には,付着のある内ケーブルとは異なり,平面保持の仮定が適用できません。また,外ケーブルの偏向部の間の自由長部における外ケーブルの有効高さは,部材の変形の増加に伴って相対的に減少するため,その影響を適切に考慮できる方法により算定する必要があります。土木学会コンクリート標準示方書2)では,こうした影響を適切に評価するように,緊張材の張力変化を対象とする構造物の種類,もしくは構造条件や荷重の作用条件および破壊状態における部材の非線形性の影響等を考慮して,安全側かつ合理的に部材の曲げ耐力を算定できる方法を選定することが規定されています。
アンボンドPC構造を建築物の耐震部材として用いる場合には,非線形領域を含めた復元力特性が必要となります。日本建築学会のPC性能評価指針3)や,長寿命建築システム普及推進協議会のガイドライン4)を参考にした場合,柱・梁部材の非線形復元力特性は,模式的に図-2のように表せます。曲げ強度点のモーメントは,PC鋼材の張力増分の扱いが課題であり,様々な手法による精度検証がなされています。限界変形点の変形は,等価塑性ヒンジ長さを考慮した曲率分布を材軸方向に積分して部材変形角に換算する方法が用いられています。曲げ降伏点については,強度は曲げ強度点の90%として,剛性はRC部材で用いられる降伏点剛性低下率を準用・拡張して求めています。
図-2 アンボンドPC部材のモーメント−変形角関係のモデル化 |
■アンボンドPC構造部材の構造性能評価手法に関する研究事例
一般のコンクリート系部材の曲げ挙動特性の詳細な評価法としては,断面におけるモーメント−曲率関係評価法,部材全長にわたる非線形性を表現するために部材軸方向にも要素分割するマルチスプリングモデルによる荷重−変形関係評価法,これらの中間的なモデル化として材端に非線形ばねを集約する材端バネモデル法などがあります。アンボンドPC部材でも,PC鋼材の張力変化や,部材全長における変形の適合条件を考慮することで,こうした従来の評価手法を拡張して用いることができ,各種の研究がなされています。報告書では,梁,壁部材(図-3),柱梁接合部の力学挙動の評価に関する最新の研究動向についてまとめるとともに,PC鋼材の周囲にグラウトやコンクリートが存在しないアンボンドPC構造部材の劣化状況や耐久性に関する知見についてもまとめています。
図-3 PC壁部材の載荷実験および限界状態評価のための解析モデル5) |
■アンボンドPC構造部材の適用事例・研究事例
付着を有する緊張材を使用した場合には,ひずみが局所化する他,緊張材の点検が困難ですが,アンボンドPC構造部材を用いることで,施工の合理化や,損傷制御が可能な他,緊張材の点検が容易になるなど,各種利点があり,各種構造物の設計・施工に活かされています。報告書には,スタジアムの通路部PC段床,タンク構造(図-4は,農業用水の需給調整のためのファームポンド),原子力発電所の格納容器など各種構造物への適用事例や研究事例をまとめています。
図-4 ファームポンドにおける円周方向のPC鋼材の定着部であるピラスターの断面図の例 |
本研究委員会の2年間にわたる調査研究の総括として,下記の日時において成果報告会をオンライン形式で開催することとなりました。アンボンドPC構造は,構造物の損傷制御,機能維持,施工の合理化などを図ることのできる部材であり,その利点と特性をご理解頂き,より広く活用されるよう,調査研究の成果を報告しますので,ふるってご参加下さい。
■アンボンドプレストレストコンクリート構造部材の曲げ挙動に関する研究委員会報告会(オンライン形式)
開催日時:2022年9月30日(金) 13:00~18:05
配信方式:ライブ配信
※翌営業日から1週間の録画の見逃し配信(オンデマンド)も用意します。
プログラム(予定): | |||
13:00-13:05 | 委員長挨拶 | 河野委員長 | |
【委員会成果報告】 | |||
13:05-13:15 | アンボンドプレストレストコンクリート部材とは | 津田幹事 | |
13:15-13:35 | 施工法(概要及び部材の特徴) | 大迫委員 | |
13:35-13:55 | 適用部材 | 橋本委員 | |
13:55-14:15 | 構造物の設計 1)日本 | 谷委員 | |
14:15-14:35 | 構造物の設計 2)海外 | 高津委員 | |
14:35-15:05 | 現在使用されている構造性能算定法 | 武田委員 | |
-----休憩(15分)----- | |||
構造性能評価法の紹介 | |||
15:20-15:40 | 1)ファイバーモデル,FEM解析 | 杉本幹事 | |
15:40-16:00 | 2)梁の復元力特性算定法1 | 晋委員 | |
16:00-16:20 | 3)梁の復元力特性算定法2 | 津田幹事 | |
16:20-16:40 | 4)壁の復元力特性算定法 | 小原委員 | |
16:40-17:00 | 5)防錆性能に関する研究 | 近藤委員 | |
17:00-17:20 | 6)UBRC柱に関する研究 | 高橋委員 | |
17:20-17:30 | 7)柱の残留変形に着目した研究 | 秋山委員 | |
17:30-18:00 | 適用事例の紹介 | 竹内・河村委員 | |
18:00-18:05 | 閉会挨拶 | 松﨑幹事 |
(内容および時間は,都合により変更することがありますので,あらかじめご了承ください。)
※プログラム・申込方法などの詳細はこちらをご覧ください。
https://www.jci-net.or.jp/j/events/symposium/index.html
※1 アンボンドプレストレストコンクリート構造部材の曲げ挙動に関する研究委員会 委員長
※2 同上 幹事
※3 同上 幹事 ・ 情報コミュニケーション委員会 委員