ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2022年7月号(1)
コンクリート構造物は使用された材料や施工条件,供用されている構造物の環境条件等により,劣化の程度に差が生じるため,構造物の維持管理では,劣化要因を的確に把握し,必要な精度で劣化進行を予測し,構造物が所定の性能を予定供用期間にわたり満足できるように対策を講じる必要があります。そういった中で,実構造物の劣化進行予測に,複雑な環境作用や複雑な物理化学現象を考慮することでより精緻な予測が期待できる一方で,そのような予測手法は非常に複雑なものとなり,実務での適用が難しい可能性があります。実務のシーンにおいては工学的な予測手法が望まれることから,前述の理論的・現象論的解釈に基づく予測手法との間にはギャップがあると同時に,その解消が非常に重要となります。
このような背景のもと,日本コンクリート工学会では,「コンクリート構造物の劣化予測における学術研究の役割とその成果の活用に関する研究委員会(委員長:加藤佳孝・東京理科大学)」を2020年度に発足しました。本研究委員会では,2019年度に活動した「新設・既設コンクリート構造物の耐久性照査手法における建築と土木の相違と将来展望FS委員会」の成果を踏まえて,維持管理の劣化予測で使用する工学モデルと環境・現象評価の結果を,実構造物の調査結果を用いて結びつける方法を検討することを目的として活動を行いました。
本稿では,2020年度から2年間にわたる本研究委員会の活動成果の概要を紹介するとともに,本年9月に開催するオンライン成果報告会についてご案内いたします。
■構造物の劣化や調査手法に係る学術研究の情報収集および議論
1年目の活動では,構造物の劣化や調査手法に係る学術研究(理論的・現象論的なもの)について,各委員から話題提供を行い情報整理ならびに議論を行いました。これらの議論に基づき,コンクリートの劣化と鋼材腐食には水が大きく関与することに着目し,2年目の活動では「水とコンクリート劣化WG」および「水と鉄筋腐食WG」の二つのWGを設立し,水を中心とした議論を重ねるとともに,これらの議論を踏まえた性能評価方法について整理を行いました。(図-1)
図-1 水を中心としたコンクリート劣化と鉄筋腐食の相関図 (クリックすると拡大版(PDF)が別ウィンドウで開きます) |
■水を中心とした構造物の劣化に関する情報整理および議論
【水とコンクリート劣化WG】
1)作用と物質移動
コンクリート中を移動する物質として,気体・液体・イオンに分割し,それぞれの物質移動に水がどのように作用するのか(例えば駆動力への影響,水と移動物質との反応機構への影響など),情報収集および整理を行いました。
2)水とコンクリート物性
コンクリート物性として,養生や内部養生による水分供給がコンクリート強度や物質透過性などに与える影響,また,これらの物性を計測する手法に対して,水分の存在が与える影響について情報収集および整理を行いました。
3)水とコンクリート劣化
代表的なコンクリート劣化について,乾燥収縮や中性化に伴う収縮,凍害における水の影響,ならびに硫酸塩劣化とASRについて水の存在や水が媒体となるケースを整理しました。さらに,これらの劣化の進行状況を実際に計測できる項目を整理し,劣化予測への適用の可能性を議論しました。
【水と鉄筋腐食WG】
作用と物質移動で考慮した中性化や塩分浸透による不動態皮膜の破壊をきっかけとして,その後の鉄筋腐食の進行について,腐食環境を整理しその律速条件をとりまとめ,律速条件毎に劣化の進行を把握する計測項目を整理し,劣化予測の検討を試みました。
1)鉄筋腐食を対象とした環境の分類
鉄筋コンクリートが曝される腐食環境について,土木学会や日本建築学会およびISO等の指針類を参考に整理・分類を行いました。
2)鉄筋腐食反応を律速する条件
鉄筋腐食反応を律速する条件として酸素拡散律速,電荷移動律速(鉄の溶解律速),コンクリート抵抗律速の3条件に着目し,近年の研究例を取り上げ,コンクリート内の鉄筋の腐食反応における律速条件の整理を行いました。
3)律速条件を考慮した鉄筋腐食の評価
前項での律速条件の議論を基に,素反応(アノード反応またはカソード反応)と全体の腐食反応における速度との関連性を表-1に示す形で整理するとともに,これらを評価する計測方法との関係性も併せて整理を行いました。
律速条件 | 素反応の種類 | 腐食速度の評価方法 | ||||
アノード反応 | カソード反応 | 自然電位 | 分極抵抗 | 分極曲線 | 電気抵抗率 | |
酸素拡散律速 | × | 〇 | — | △ | 〇 | — |
電荷移動律速 | 〇 | 〇 | — | 〇 | 〇 | — |
抵抗律速 (マクロセル) |
— (両者間のコンクリート抵抗) |
— | 〇 | 〇 | 〇 | |
混合律速 | × | 〇 | — | △ | 〇 | — |
■性能評価手法に関する情報整理および議論
構造物の各種性能評価手法について,それらが直接的/間接的指標を用いて,確定論的/確率論的に評価されているのか,という観点で整理し,図-2に示すような四象限で分類しました。また,これらの性能評価方法の考え方に基づき,今後開発・高度化が望まれる計測技術を明確化するために,最新の計測技術に関する知見を整理し,その活用方法に関して考察しました。
図-2 性能評価方法の分類概念と整理 (クリックすると拡大版(PDF)が別ウィンドウで開きます) |
本研究委員会の報告会を以下の日程で開催いたします。本稿でご紹介した活動内容のより詳細な内容を報告するとともに,各WGからの話題提供も行います。皆様奮ってご参加ください。
■コンクリート構造物の劣化予測における学術研究の役割とその成果の活用に関する研究委員会報告会
開催日時:2022年9月22日(木)13:30〜16:30
配信方式:ライブ配信
プログラム案:司会進行 伊代田岳史(芝浦工業大学)
※プログラム・申込方法などの詳細はこちらをご覧ください。
https://www.jci-net.or.jp/j/events/symposium/index.html
※1 コンクリート構造物の劣化予測における学術研究の役割とその成果の活用に関する研究委員会 委員長
※2 同上 副委員長
※3 同上 幹事
※4 同上 委員・情報コミュニケーション委員会 委員