ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2022年6月号
我が国での非線形地震応答解析の実務への活用は,1960年代より独自の発展を遂げて来ましたが,最近では米国との違いが顕在化してきています。建築分野では民間各社で非線形地震応答解析技術に関する知見が蓄積されているものの,それらを活用する技術者によるオープンな議論が少なく,どのように非線形地震応答解析が実務に適用されているか,公開されている資料が極めて少ないのが現状です。また,建築・土木分野を通じた議論もほとんど行われていません。
(a)超高層RC造建物 |
(b)アーチ橋 |
(c)水道施設 |
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図-1 非線形地震応答解析を用いた設計の事例 |
このような現状に鑑み,性能評価型耐震設計に用いるコンクリート構造物の非線形モデル研究委員会では我が国の将来の耐震設計技術の向上と国際協調に資することを目的として非線形地震応答解析を耐震設計に適用する実務の現状を調査しました。既に非線形地震応答解析を用いた耐震設計を行っている経験豊富な技術者の方には,我が国の構造物の耐震安全性がどの程度の信頼性で確保されているかを俯瞰的に理解するのに役立つ資料が得られたと考えています。本稿では,2020年度から2年間にわたる本研究委員会の活動成果の概要を紹介するとともに,本年9月に開催するオンライン成果報告会についてご案内いたします。
■非線形地震応答解析を耐震設計に適用する実務の現状について
本委員会では,米国ACI 318-付録A(非線形地震応答解析を用いた設計検証法)1)に記載された項目にならって,国内の非線形地震応答解析を用いた設計における現状の方法について体系的に整理しました。建築WGおよび土木WGを設けて非線形地震応答解析を用いた設計方針を決定する根拠とされている技術基準の内容を精査するとともに,実務者へのヒアリングから設計における慣行とその根拠についても取りまとめています。参照した主な設計規準と技術基準を表-1に示します。
建築分野 | 土木分野 | 米国基準 |
New RC構造設計ガイドライン(案)2) | コンクリート標準示方書7) | ACI 3181) |
時刻歴応答解析建築物性能評価業務方法書3) | 土木構造物共通示方書Ⅰ8) | ASCE7-1612) |
鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説4) | 道路橋示方書9) | LATBSDC13) |
2020年版 構造関係技術基準解説書5) | 鉄道構造物等設計標準・同解説10) | TBI14) |
性能評価を踏まえた超高層建築物の構造設計実務6) | 原子力発電所屋外重要土木構造物の耐震性能照査指針・マニュアル・照査例11) | NIST GCR 17-917-4515) |
以下に報告書各節の概要について示します。
第1部では非線形地震応答解析の耐震設計の実務の現状についてまとめました。
1.2節~1.5節までは非線形地震応答解析における適用範囲・設計のクライテリア・設計外力についてまとめました。非線形地震応答解析を利用することを前提としている構造物や,適用できる構造物の範囲を,それを適用する目標性能とモデル化の方法ごとに分類し整理するとともに,耐震設計基準の中で限界状態を定義するために指定されているクライテリアと非線形地震応答解析で入力とする入力地震動波形の選定方法に関して,実務で使われる基準やガイドラインについて分類整理をしています。
1.6節~1.9節までは構造物のモデル化の方法についてまとめました。非線形地震応答解析における構造物のモデル設定における慣行を示すとともに,規則的な形状を有する構造物を対象とした多質点モデル,三次元フルモデルにおける解析と部材の設計への反映の方法,複雑な形状を有する構造物を対象とした三次元有限要素による地震応答解析を用いる耐震設計の方法についてまとめています。
1.10,1.12,1.13節では国内の各基準やガイドラインにおける部材レベルでのモデル化方法や評価式を比較するとともに,各基準において設計で許容する部材の靭性および強度限界についてまとめました。また,望ましくない破壊挙動として設計者の選択の判断基準に関する基準・標準・ガイドラインおよび設計慣行や,応答の不確定性を考慮する余裕度の取り方について分類しています。
1.11節では非線形地震応答解析における各種の入力データを規定する設計因子の地震応答解析結果に対するセンシティビティーとそれにより生じるリスクへの配慮が,耐震設計の基準やガイドラインにどのように規定されているかについて分類整理しました。
1.14節では非線形地震応答解析の設計の妥当性を確かめるプロセスである第三者構造設計評価の実施方法に関する基準・標準・ガイドラインを調査し,規定された審査のためのパネルの参加者の資格・構成・審査方法・実施期間・実施機関の要件・作成文書・責任に関する要件がどのように定められているかについて調査分類しています。
1.15節では実務における解析プログラムの利用規範として,ブラックボックスである解析プログラムを適切に運用・利用したということを客観的に示すエビデンスとしてどのような意思決定のプロセスや根拠を明文化しなければならないのかについて調査しました。
第2部では非線形地震応答解析による耐震設計に関する最近の動向について紹介しています。
2.1節では2015年に「大阪府域内陸直下型地震に対する建築設計用地震動および設計法に関する研究会」より発刊された「大阪府域内陸直下型地震に対する建築設計用地震動および耐震設計指針」16)の中から非線形地震応答解析により耐震安全性を検討する必要がある建築物を対象として,大阪府域に影響を及ぼす内陸直下型地震に対する建築物の設計用入力地震動および耐震設計法について紹介しています。
2.2節では「原子力発電所屋外重要土木構造物の耐震性能照査指針・マニュアル・照査例」11)に示されている耐震性能照査方法や考え方について紹介しています。
2.3節では米国において耐震性能設計および評価を行う際に用いる非線形地震応答解析に関して,推奨されるRC造架構の履歴特性,耐震性能設計を行う上での非線形解析の手順およびRC造架構の解析モデル,非線形解析の手順等について概要を記載しています。
2.4節では米国において一般的に用いられている構造解析プログラムの機能と適用範囲について記述するとともに設計例を示しています。
■非線形地震応答解析を用いた耐震設計における課題
本委員会では非線形地震応答解析を耐震設計に適用する実務の現状を調査した上で,以下の5つの論点に基づいて現行設計における課題と到った経緯と背景について分析しました。報告会では本委員会における議論で集約した見解をお示しした上で,参加者と積極的な意見交換ができればと考えております。
1)耐震設計において技術者の果たす役割と責任について
2)耐震設計のための構造解析法の発展
3)耐震設計への非線形地震応答解析の適用のメリット
4)非線形地震応答解析の適用の課題
5)日本の非線形地震応答解析を用いた耐震設計への適用の現状
本研究委員会の2年間にわたる調査研究の総括として,下記の日時において成果報告会をオンライン形式で開催することとなりました。将来の非線形地震応答解析を用いた設計のあるべき姿について情報交換・議論もできる場としたいと考えています。ふるってご参加ください。
■性能評価型耐震設計に用いるコンクリート構造物の非線形モデル研究委員会報告会(オンライン形式)
開催日時:2022年9月12日(月)13:30~17:30
配信方式:ライブ配信(Zoomウェビナー使用予定)
※翌日から1週間の録画の見逃し配信(オンデマンド)も用意します。
プログラム(予定): | ||
13:30-13:35:開会挨拶 | ||
【研究委員会報告】 | ||
13:35-14:05:塩原委員長 | 「総論」 | |
14:05-14:35:中村・楠・三木 幹事 | 「適用範囲・設計のクライテリア・設計外力」 | |
14:35-15:15:伊藤・小室・鍋島・山谷 委員 | 「構造物のモデル化方法」 | |
15:15-15:25:真田委員 | 「振動モードと崩壊機構の不確定性」 | |
15:25-15:40:壁谷澤幹事 | 「部材の変位制御作用」 | |
15:40-15:50:谷委員 | 「部材の強度制御作用」 | |
15:50-16:00:伊佐・楠原 委員 | 「第三者構造設計評価」 | |
16:00-16:10:川口委員 | 「プログラムの利用規範」 | |
-----休憩(10分)----- | ||
16:20-16:35:谷委員 | 「大震研ガイドラインについて」 | |
16:35-16:50:山谷委員 | 「原子力マニュアルについて」 | |
16:50-17:05:池田委員 | 「米国の性能評価型耐震設計について」 | |
17:05-17:20:藤倉幹事 | 「米国の非線形プログラムの機能と適用範囲」 | |
17:20-17:25:全体質疑 | ||
17:25-17:30:閉会挨拶 |
(内容および時間は,都合により変更することがありますので,あらかじめご了承ください。)
※プログラム・申込方法などの詳細はこちらをご覧ください。
https://www.jci-net.or.jp/j/events/symposium/index.html
※1 性能評価型耐震設計に用いるコンクリート構造物の非線形モデル研究委員会 委員長
※2 同上 幹事
※3 同上 幹事 ・ 情報コミュニケーション委員会 委員