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2021年9月号

3Dプリンティングによるコンクリート構造物構築に関する研究委員会(JCI-TC192A)活動概要


はじめに

3Dプリンティング技術を建設分野に応用し,コンクリート構造物の建設生産システムに革新をもたらす技術開発が精力的に進められています。本技術は型枠不要で様々な形状の部材を直接製作できることから,省力化や工期短縮等の生産性向上のみならず,構造最適化による設計の合理化や軽量化,多様なニーズに応える高付加価値な技術やサービスの提供に発展する可能性を秘めています。しかしながら,施工可能な材料物性の明確化や要求性能実現のための材料開発,耐久性や構造安全性確保のための方法など,本格的な実用化に向けて技術的な課題は数多く残されています。
このような状況に対し,海外ではRILEM(建設材料・構造に関わる国際研究機関・専門家連合),ACI(米国コンクリート工学会)などを中心に研究開発が進められており,すでに実構造物に一部適用した事例も登場しています。一方,我が国の取組みは出遅れが懸念されています。そこで,建築,土木,材料分野の知見を統合し,効率的かつ体系的な技術発展と水平展開を図ることを目的に,2018年度に本研究委員会の前身となる「3Dプリンティングのコンクリート構造物への適用に関するFS委員会(委員長:丸屋剛)」が設置されました1)。同FS委員会では,海外の技術動向を調査し,国際会議にも出席するなど幅広く情報収集を行いました。また,3Dプリンティング技術がもたらす未来像についてワークショップを開催し,社会ニーズの変化と本技術のポテンシャルに基づき概略の技術開発ロードマップを作成しました。
これらのFS委員会での成果を踏まえ,より発展的に活動を展開するために本研究委員会が設置されました。本稿では,2019年度から2年強にわたる本研究委員会の活動成果の概要を紹介するとともに,本年11月に開催するオンライン成果報告会についてご案内いたします。

図-1 セメント系材料の3Dプリンタと造形された構造体(本研究委員会委員提供) img
図-1 セメント系材料の3Dプリンタと造形された構造体(本研究委員会委員提供)

※会員専用ページには「増刊コンクリート技術2021年9月号」として,本記事のより詳細な内容が掲載されています。そちらもご覧ください。
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活動概要

図-2に本研究委員会の活動概要を示しました。多様な委員構成と分野横断的な活動が本研究委員会の特徴であり,各WG活動を中心として実用化の足掛かりとなる技術基盤の整備を進めました。また,従来のコンクリート工学の枠にとらわれない新たな可能性を創造し,次世代コンクリート技術としての情報発信や動機付けを提供することを目的に,外部有識者による講演会やワークショップを積極的に開催して活動を展開しました。無料オンライン開催した「建設用3Dプリンティング技術最前線と将来展望に関するワークショップ」(2021年3月2日開催)では,実に約150名の参加がありました。

図-2 活動概要(活動期間:2019.4~2021.6) img
図-2 活動概要(活動期間:2019.4~2021.6)

本研究委員会での活動を通して,3Dプリンティング技術に関する研究の多くは,未だ手探り状態にあることを認識しました。従来型の設計施工技術と比べて,大きな利点や可能性が指摘されているものの,現時点ではデファクトスタンダードとなり得る有望な技術や手法が絞り切れていません。逆に言えば,画期的かつ革新的な3Dプリンティング技術が,これから新たに生まれる可能性があります。
今後は,具体的なプロジェクトへの適用を通じた技術開発の推進や,スモールスタートやアジャイル開発といったように,まずはリスクを減らしつつ,試行錯誤を繰り返しながら,技術開発に果敢にチャレンジしていくことが求められます。また,建設分野のゲームチェンジを引き起こすような技術を開発するためには,コンクリート工学の領域に留まらず,ロボティクスや情報技術など,他分野との連携が必要不可欠です。情報を広く発信し,様々なバックグラウンドを持つ方々との積極的な議論や共同研究開発をオールジャパンで進めていくことが求められます。


委員会報告会

本研究委員会の2年強にわたる調査研究の総括として,下記の日時において成果報告会をオンライン形式で開催することとなりました。当該技術に関する最前線を報告するのみでなく,他分野の方々との情報交換・議論もできる場としたいと考えています。ふるってご参加ください。

■3Dプリンティングによるコンクリート構造物構築に関する研究委員会報告会
(オンライン形式)

開催日時:2021年11月29日(月) 13:30~17:20
配信方式:ライブ配信(Zoomウェビナー使用予定)
※翌日から1週間の録画の見逃し配信(オンデマンド)も用意します。

プログラム(予定):
13:30-13:35:開会挨拶
13:35-14:35:特別講演:慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 池田靖史教授
(株式会社IKDS代表,建築家)
題目「デジタル・コンストラクションと建築デザイン」
-----休憩(10分)-----
【研究委員会報告】
14:45-14:55:1章−3章「研究委員会および3Dプリンティング技術の概要など」
14:55-15:15:4章「他産業における3Dプリンティングの活用と状況分析」(他産業WG)
15:15-15:35:5章「セメント系プリント材料に関する文献調査と知見の整理」(材料WG)
15:35-15:55:6章「構造設計に関する文献調査と概念検討」(構造WG)
15:55-16:05:7章「技術開発ロードマップ」
-----休憩(10分)-----
16:15-17:00 国内外の事例紹介
17:00-17:15:全体質疑
17:15-17:20:閉会挨拶

(内容および時間は、都合により変更することがありますので、あらかじめご了承ください。)

プログラム・申し込み方法などの詳細はこちらをご覧ください。
https://www.jci-net.or.jp/j/events/symposium/index.html

[参考文献]
1)丸屋剛・石田哲也:3D プリンティングの技術開発の現状と展望,コンクリート工学,Vol.59,No.2,pp.173-180,2021.2

執筆者:石田 哲也(東京大学)※1
木ノ村 幸士(大成建設株式会社)※2
石関 嘉一(株式会社大林組)※3
小川 洋二(太平洋セメント株式会社)※3
齋藤 賢(日本シーカ株式会社)※3
國枝 稔(岐阜大学)※3
大野 元寛(東京大学)※4

※1 3Dプリンティングによるコンクリート構造物構築に関する研究委員会 委員長
※2 同上 幹事長
※3 同上 幹事
※4 同上 委員・情報コミュニケーション委員会 委員

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