ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2021年8月号
現在,多くのコンクリート構造物の老朽化が進行しており,早期劣化の事例も多数あることから,構造物の維持管理の重要性があらためて認識されるようになっています。そのため,適切な維持管理を目的とした点検・診断の技術向上や点検業務の効率化・高度化が最重要課題となっています。このような状況の下で,コンクリートの状態を中性子線を用いて調査することが試みられています。中性子線はX線よりも強い透過能力があり,これまで,1)コンクリート中の水の経時観察,2)コンクリート内部の欠陥(滞水や空隙)の検出,3)コンクリート中の塩分測定などの利用方法が提案されています。水と塩分はコンクリート構造物の劣化進行に影響を与えることから,中性子線は,コンクリート構造物の健全性に関わる重要な情報を与える手段になる可能性を持っています。
このような背景から,日本コンクリート工学会では2018年度に「中性子線を用いたコンクリートの検査・診断に関するFS委員会」が設置され,中性子線のコンクリート構造物に対する非破壊調査としての活用について,1年間のフィージビリティースタディーが行われました。その成果を受けて,2019,2020年度には「中性子線を用いたコンクリートの検査・診断に関する研究委員会」での活動が行われました。本稿では,標記研究委員会の活動成果の概要をご紹介するとともに,本年9月に開催するシンポジウムに関してご案内します。
※会員専用ページには「増刊コンクリート技術2021年8月号」として,本記事のより詳細な内容が掲載されています。そちらもご覧ください。
ログインページはこちら https://www.jci-net.or.jp/j/member/only/auth.php
本委員会では,構造物WG,室内試験WGという2つのWGで活動しました。構造物WGでは,「現場」という制約条件のもとで,中性子線測定に「求められること」と「実施可能なこと」の双方から適用可能性を検討しました。室内試験WGでは,「現場」という制約条件のない試験室内での,中性子線測定による様々な可能性を探りました。それら2つのWGの成果をもとに,中性子線による構造物の調査,診断のシナリオを検討しました。
■構造物の検査・診断への中性子線活用の検討
コンクリートに関する調査,検査に要求される情報の種類や精度は,その目的に応じて様々です。例えば,コンクリート構造物の建設時の品質管理に関する検査,既設コンクリート構造物の変状の有無を判定する調査,構造物の変状を初期欠陥,損傷,劣化といった種類に分類し,その程度を把握する調査などがあげられます。
そこで,中性子線を用いた構造物の検査・診断への適用に向けて,検査・診断に関する基本事項や現状と課題を,これまでの各種機関での取組みから整理しました。
■中性子線を用いた試験・調査技術の調査
中性子線を用いた各種試験や調査技術に関する調査を,主に文献調査によって実施しました。測定対象分野としては,1)欠陥探査,2)単位水量測定,3)応力測定,4)水分移動測定,5)塩化物イオン,6)セメント材料,7)土壌・ポーラスコンクリート,8)その他,であり様々な目的に中性子線の技術が活用されていることが明らかになりました。
技術の例として,RANS(RIKEN Accelerator-driven compact Neutron Source,理化学研究所と東京工業大学からなる共同チームが開発した小型中性子源システム)を用いた中性子線ラジオグラフィの測定実績を図-1および図-2に示します。コンクリート供試体下部から内部への吸水による水分移動を可視化できることが示されています。
図-1 RANSを用いた中性子ラジオグラフィの構成概要1) |
図-2 水の透過画像の例2) |
このたび,本研究委員会では下記のシンポジウムを開催いたします。委員会活動の成果をご報告するとともに,非破壊・非接触・非侵襲によるコンクリート構造物内部の診断方法に関する一般論文・報告の発表もございます。関係各位お誘いの上,ふるってご参加くださいますよう,よろしくお願いいたします。
【中性子線を用いたコンクリートの検査・診断に関するシンポジウム】
(内容および時間は、都合により変更することがありますので、あらかじめご了承ください。)
プログラム・申し込み方法などの詳細はこちらをご覧ください。
https://www.jci-net.or.jp/j/events/symposium/index.html
※1 中性子線を用いたコンクリートの検査・診断に関する研究委員会 委員長
※2 同上 幹事
※3 同上 委員,情報コミュニケーション委員会 委員