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2021年3月号

「既設コンクリート構造物の予防保全を目的とした調査・診断・補修に関する研究委員会(JCI-TC-182A)」活動概要


はじめに

コンクリート構造物の維持管理において,従来の事後保全から予防保全への移行の重要性が広く認識されつつあるものの,現状では,変状が顕在化する前,もしくは変状が軽微な段階で積極的に補修対策を実施するという維持管理方針が採られることは多いとは言えません。その一因として,図-1のアンケート調査結果(本委員会で実施)にも表れていますように,劣化の初期段階における調査,診断技術および補修技術の情報が体系化されておらず,予防保全維持管理を行うための具体的な方針が十分に示されていないことが挙げられます。

一方で,近年,予防保全を視野に入れた調査技術や補修技術が意欲的に開発されており,これらの予防保全的な維持管理への適用性や課題について調査することは意義があると考えられます。また,構造物の管理者においても,予防保全的な維持管理を実施している事例もあり,実施状況の調査と予防保全を行うに当たっての課題について把握することも重要であると考えられます。
このような背景のもと,「既設コンクリート構造物の予防保全を目的とした調査・診断・補修に関する研究委員会」(委員長:竹田宣典・広島工業大学)では,2017年度のFS委員会および2018年度からの2年間を合わせ,3年間の活動を行ってきました。

本稿では,本研究委員会の活動成果の概要を紹介するとともに,2021年3月に発刊された報告書についてご案内いたします。

図-1 アンケート調査結果「予防保全の普及のためには何が必要か?」 img
図-1 アンケート調査結果「予防保全の普及のためには何が必要か?」

※会員専用ページには「増刊コンクリート技術2020年3月号」として,本記事のより詳細な内容(一部報告書の内容含む)が掲載されています。そちらもご覧ください。
ログインページはこちら https://www.jci-net.or.jp/j/member/only/auth.php


設置されたWGの活動概要

本研究委員会では,主として「まだ変状が生じていない」あるいは「既に軽微な変状が局部的に生じている」段階で将来的に劣化が顕在化すると予測される状態のコンクリート構造物を対象としました。また,その変状が顕著にならないようにするための維持管理を対象とし,予防保全を目的とした維持管理に適用される技術に関する情報収集および整理を行うとともに,劣化の初期段階で実施されている調査,診断,補修対策の現状を把握し,予防保全的な維持管理の手順を示すことを目的とし,下記の3つのWGに分かれて調査・検討を行いました。なお,本委員会では予防保全の対象として設定する劣化機構として,中性化,塩害,凍害,化学的侵食,ASRおよび疲労の6つを取り上げています。

【適用性評価WG】
予防保全のために必要な環境外力評価方法,調査診断技術の性能評価方法などについての検討

【体系化WG】
予防保全に適用可能な調査,診断,補修技術に関する情報を収集,整理,分類し,適用範囲,精度,信頼度,留意点などについての検討

【実施手順WG】
劣化要因毎の予防保全の考え方,構造物管理者の予防保全に対する事例調査とライフサイクルコスト試算,予防保全型の維持管理の手順についての検討


委員会報告書・論文集の発刊と発売開始について

本研究委員会では当初,2020年9月15日に東京でシンポジウムを開催し,皆様への活動成果のご報告と,ご投稿いただいた論文の情報交換・議論の場を設けるべく準備をしてまいりました。しかしながら,昨今の新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から,シンポジウム開催断念のやむなきに至りました。そのため,委員会の活動成果とご投稿いただいた論文を,委員会報告書・論文集として1冊にまとめ,2021年3月1日から販売することでご報告に代えさせていただくことといたしました。

報告書では,本稿でご紹介しました内容以外にも、予防保全を目的とした維持管理に適用される技術に関する情報を収集・整理した結果を広くとりまとめております。また,附属資料として,近年維持管理の現場で活用著しいドローンによる調査技術の現状と,コンクリート構造物の予防保全についての意識調査結果も収録いたしました。論文集には,皆様からご投稿いただいた貴重な情報が論文や報告として掲載されております。本報告書でとりまとめた内容は,皆様の研究・実務に資するものと考えておりますので,是非お手に取っていただきたく,よろしくお願い申し上げます。

■既設コンクリート構造物の予防保全を目的とした調査・診断・補修に関する研究委員会報告書・論文集

報告書の構成:
■第1部 委員会報告書
1章 はじめに
2章 予防保全の実態と課題
3章 調査・診断技術の現状
4章 予防保全における補修技術の体系化
5章 予防保全を目的とした維持管理の現状と維持管理手順の提案
6章 まとめ
巻末附属資料:ドローンによる調査技術の現状
附属資料(CD掲載):コンクリート構造物の予防保全についてのアンケート調査
■第2部 論文集
  • 地下鉄箱型トンネルにおける塩害対策システムの構築
  • コンクリート中に生じた損傷領域に対する塩化物イオン実効拡散係数について
  • 劣化要因の面的調査手法による潜伏期からの塩害進行把握手法の提案
  • ダブルチャンバー加圧透水・透気試験機(WAPP)による既存コンクリート構造物の予防保全診断法に関する研究
  • RC部材の背面側の鉄筋を対象としたリハビリカプセル工法による亜硝酸リチウムの浸透範囲に関する研究
  • 上縁定着を有するポストテンション方式T桁橋のシース内漏水に対する予防保全設計事例
図-2 委員会報告書・論文集の表紙 img
図-2 委員会報告書・論文集の表紙

※完売いたしました。

執筆者:竹田 宣典(広島工業大学)※1
江良 和徳(極東興和株式会社)※2
濱崎 仁(芝浦工業大学)※3
山口 明伸(鹿児島大学)※3
田中 博一(清水建設株式会社)※3
十河 茂幸(近未来コンクリート研究会)※4
湯地 輝(東洋建設株式会社)※5

※1 既設コンクリート構造物の予防保全を目的とした調査・診断・補修に関する研究委員会 委員長
※2 同上 幹事長
※3 同上 幹事
※4 同上 顧問
※5 同上 委員 ・ 情報コミュニケーション委員会 委員

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