日本コンクリート工学会

ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2020年11月号

2020年11月号

「有害廃棄物・放射性廃棄物処分へのセメント・コンクリート技術の適用研究委員会(JCI-TC-181A)」活動概要


はじめに

近年,様々な課題に対して研究領域をまたいだ学際的な研究が盛んに行われています。コンクリート工学は建設分野だけではなく,有害廃棄物・放射性廃棄物の処分にも深く関わっています。海外ではNanocemと呼ばれる大規模な研究グループが2004年から活動をしており1),物理化学的,あるいは材料科学的な種々の知見と手法が取り入れられ,従来の研究領域が広がることで研究レベルが飛躍的に高まり,放射性廃棄物処分への応用もなされてきています。しかしながら,日本ではセメント化学やコンクリート工学に関する最新の技術や知見が、当該分野に十分に反映されていないのも事実です。

有害廃棄物・放射性廃棄物処分へのセメント・コンクリート技術の適用研究委員会(委員長:国立環境研究所・山田一夫)では,以上の背景を踏まえて,セメント化学やコンクリート工学の分野だけではなく,会員の枠を超えて地盤工学・原子力工学・環境工学・材料科学など有害廃棄物・放射性廃棄物の処分に深く関わる様々な分野の有識者に参画していただき,当該分野におけるニーズとセメント化学・コンクリート工学が有する技術や知見の照合,ならびに将来的に当該分野で適用が見込まれる技術や知見の抽出を目的として活動を行いました。放射性廃棄物処分に関しては複数の機関がそれぞれに膨大な研究を実施してきましたが,外部からは簡単に知りえなかったその構造や内容をまとめています。さらに,海外での放射性廃棄物に関する研究動向や,今後は標準的ツールになるであろう相平衡物質移動モデル(Reaction Transfer Model)の相平衡モデルによる代表的放射性核種の取り扱いも総括しています。

本稿では,2017年度のFS委員会を経て,2018年度から2年間にわたる本研究委員会の活動成果の概要を紹介するとともに,本年12月に開催する報告会についてご案内いたします。

※会員専用ページには「増刊コンクリート技術2020年11月号」として,本記事のより詳細な内容
(一部報告書の内容含む)が掲載されています。そちらもご覧ください。
ログインページはこちら https://www.jci-net.or.jp/j/member/only/auth.php


活動の流れと得られた成果

有害廃棄物・放射性廃棄物ともに廃棄物の種類は非常に多岐にわたっており,それぞれ処分に関連する多くの技術開発が行われています。有害廃棄物としては,主に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」によって規定される特別管理廃棄物が対象となりますが,これらの廃棄物の処分において,セメント固型化による溶出抑制は無害化という観点で重要な要素技術です。したがって,本研究委員会では固型化・不溶化におけるセメント・コンクリート技術の適用の現状について,セメント固型化WG(WG1)において調査整理することとしました。

一方,放射性廃棄物については,社会動向や法整備,処分事業の推移に従って,実施主体と呼ばれる処分を担う組織(日本原燃(株),原子力発電環境整備機構(NUMO)など),資源エネルギー庁や規制庁からの委託を受けた研究機関が継続的に膨大な研究を実施しています。そこで,放射性廃棄物処分WG(WG2)の活動では,放射性廃棄物処分に関係する社会動向を示す年表を作成し,それに即した時間軸で各機関の研究成果を整理することとしました。

このような本研究委員会の活動体制と検討テーマを図-1にまとめます。

図-1 本研究委員会における活動体制と検討テーマの概要 img
図-1 本研究委員会における活動体制と検討テーマの概要

設置されたWGの活動概要

本委員会では,有害廃棄物・放射性廃棄物処分の関連分野に対して,セメント・コンクリート分野が貢献し得る技術を発信することを目標に,それぞれの技術項目について具体的な適用性の評価を行うため,セメント固型化WG(WG1),放射性廃棄物処分WG(WG2)の2つのWGを組織して研究活動を行いました。

■セメント固型化WG(WG1)の調査内容

◆有害廃棄物の処分に関わるセメント・コンクリート技術
セメント固型化WGは,コンクリート工学,地盤工学,環境工学など幅広い分野の研究者で組織化し,有害廃棄物の埋立処分等に先立って行われるセメントを用いた中間処理の現状と課題について文献調査を行うとともに,抽出されたいくつかの課題に関する近年の研究状況をまとめました。
一口に「有害廃棄物」といっても処理の対象となる廃棄物が多岐に及ぶため,その性状や有害性によって処理の考え方,設計・施工のベースとなる関連法令や基準の内容も大きく異なります2),3)。このことは,有害物質の移動抑制を目的として対象廃棄物とセメントを混合する処理を,「セメント固型化」「セメント固化」「固化・不溶化」など様々な呼び方をすることからも伺えます。本WGでは,はじめにセメント・コンクリート分野の技術者に燃え殻,煤じん,石炭灰,汚泥・底質,指定廃棄物,低レベル放射性廃棄物といった様々な有害廃棄物を対象としたセメント・コンクリート技術の適用状況を広く知っていただくことを目的に,処理対象となる廃棄物毎に基本的な処理の考え方,関連法令や基準,配合をはじめとする処理の事例と技術的課題を概観しました。

■放射性廃棄物処分WG(WG2)の調査内容

◆放射性廃棄物処分に関わるセメント・コンクリート技術
放射性廃棄物処分WGでは,まず,放射性廃棄物処分に関わる具体的な事業や技術開発の推移を年表形式で整理することで,時間軸上での知見の体系化を図りました。そのうえで,年表上の重要なイベントに関して解説記事を加えました。これは,放射性廃棄物処分の情報の多くは公開されているものの情報量が膨大で,コンクリート工学分野の研究者や技術者が全体像を理解して必要な資料にアクセスすることが困難と考えたためです。作成した図表資料は,低レベル~高レベル放射性廃棄物に関するセメント・コンクリート研究の推移を俯瞰的にご理解いただくとともに,重要イベントとの関係性を確認いただくことができます。今後,放射性廃棄物処分分野への貢献を考えるコンクリート工学分野の研究者や技術者の手引きになるものと考えております。
一方で,未来の議論のためには最新の研究開発の動向に注視する必要があります。放射性廃棄物処分におけるセメント・コンクリートの研究は,原子力や廃棄物処分・地球化学など,土木・建築分野のセメント・コンクリートとは異なる分野の国際会議や学術雑誌にて発表されることも多いので,WGでは,関連する国際会議や海外の学術雑誌の概要と各国の当該研究の動向を整理しました。関連研究をするための文献の入手先,あるいは成果の発表先をご理解いただけます。
さらに,特にC-S-H(ケイ酸カルシウム水和物)などに関する研究は放射性廃棄物処分分野でも注目されていることから,その最新動向を紹介しました。放射性廃棄物処分を考えた場合,放射性物質の半減期等を考慮すると処分施設の耐用年数は一般的な土木構造物と比較しても非常に長くなります。セメント・コンクリートの基礎研究の重要性と将来展開の可能性をご理解いただけることと思います。


委員会報告会(基調講演含む)

本研究委員会の報告会を以下の日程で開催いたします。本稿でご紹介した活動内容の詳細報告とともに,有害廃棄物処分や放射性廃棄物処分の有識者2名を招いた基調講演も行います。皆様奮ってご参加ください。

■「有害廃棄物・放射性廃棄物処分へのセメント・コンクリート技術の適用研究委員会」報告会
日時:2020年12月23日(水)13:00~15:50(予定)
形式:オンライン(ライブ配信,Zoomウェビナー使用予定)
プログラム(予定):司会進行 蔵重勲(電力中央研究所)

13:00~13:10 開会挨拶および全体概要について 山田一夫(国立環境研究所)
13:10~13:25 委員会報告1:第1章「有害廃棄物・放射性廃棄物処分の概要」 芳賀和子(太平洋コンサルタント)
13:25~13:45 委員会報告2:第2章「有害廃棄物処分のセメント固型化技術」 乾徹(大阪大学)
13:45~14:05 委員会報告3:第3章「放射性廃棄物処分に関わるセメント・コンクリート技術」 半井健一郎(広島大学),庭瀬一仁(八戸工業高等専門学校)
14:05~14:15 委員会報告に関する質疑応答  
14:15~14:25 <休憩>  
14:25~14:55 基調講演1「有害廃棄物を対象とした固型化・不溶化技術について」 高岡昌輝(京都大学)
14:55~15:05 基調講演1に関する質疑応答  
15:05~15:35 基調講演2「低レベル放射性廃棄物埋設のさらなる安心に向けて」 佐々木泰(日本原燃)
15:35~15:45 基調講演2に関する質疑応答  
15:45~15:50 総括および閉会挨拶 芳賀和子(前掲)
(内容および時間は,都合により変更することがありますので,あらかじめご了承ください。)

※プログラム・申込方法等の詳細は,下記をご覧ください。
https://www.jci-net.or.jp/j/events/symposium/20201223.html

[参考文献]
1)Nanocem, https://www.nanocem.org/about-us
2)酒井伸一:有害廃棄物の定義とその管理体系,廃棄物学会誌,Vol.3,No.3,pp.202-216, 1992
3)USEPA Website:Defining Hazardous Waste: Listed, Characteristic and Mixed Radiological Wastes (2020年10月6日閲覧)

執筆者:山田 一夫((国研)国立環境研究所)※1
芳賀 和子 ((株)太平洋コンサルタント)※2
蔵重 勲((一財)電力中央研究所)※3
乾 徹(京都大学大学院)※4
庭瀬 一仁(八戸工業高等専門学校)※4
半井 健一郎(広島大学大学院)※4
宮本 慎太郎(東北大学大学院)※5

※1 有害廃棄物・放射性廃棄物処分へのセメント・コンクリート技術の適用研究委員会 委員長
※2 同上 副委員長
※3 同上 幹事長
※4 同上 幹事
※5 同上 委員,情報コミュニケーション委員会 委員

Copyright © Japan Concrete Institute All Rights Reserved.

トップに戻る