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2019年12月号

コンクリート分野における3Dプリンタ

近年,3Dプリンタが世界的に注目を集めています。3Dプリンタとは,3次元CADデータなどの立体物を表すデータをもとにして,スライスされた2次元の断面形状をコンピュータで計算し,この結果をもとに材料を積層造形して立体形状を作製する装置を指します。
3Dプリンタの方式としては,流動性のある材料をノズルから押し出して積層造形する「材料押出し」方式,液状の結合剤を粉末に噴射して選択的に固化させる「結合剤噴射」方式,材料を供給しつつ熱により材料を選択的に溶解・結合する「指向性エネルギー堆積」方式などが存在し,製造する製品の目的に応じて装置や材料の選択が可能となっています1)
コンクリート分野では材料押出し方式や結合剤噴射方式が試行されており,本記事では,コンクリート分野における3Dプリンタの概要と3Dプリンタに使用する材料の検討事例を紹介します。

執筆者:情報コミュニケーション委員会委員
依田 侑也(清水建設株式会社)


コンクリート分野における3Dプリンタ

コンクリート分野における3Dプリンタとしては,小型の模型を作製する装置(石こうや樹脂などを使用するもの)がまず挙げられますが,それらとは別に実大部材の施工を目的とした装置も存在します。後者の装置は,セメント系材料などの建設材料を使用して,実大の歩道橋を構成する部材や簡単な住居等を施工した事例が既に海外を中心に多く報告されています2)。造形できるサイズが1mを超えており,製造業向けの3Dプリンタとは造形スケールの観点で一線を画しているのが特徴となります。さらに技術が発展すれば,自由な形状のコンクリート構造物の実現だけでなく,型枠工なしでのコンクリート構造物の施工,さらには極限環境(たとえば月面)での無人化施工などへの展開が見込まれ,様々な可能性が期待できます。


3Dプリンタに使用する材料の検討事例

3Dプリンタを用いた施工においては,補強のための鉄筋を配筋することが難しいため,従来の鉄筋補強の代替となりうる補強法が必要となります。また,材料を押し出し,積層構造を作る必要があるため,材料の自重で変形することに対する抵抗性が必要となります。今回は短繊維を使用したひずみ硬化型セメント複合材料をプリント材料に適用した検討3)について紹介します。
図-1に,使用した3Dプリンタを示します。本装置は,フレッシュ状態のセメント系材料をノズルから押し出して,積層造形できる3Dプリンタです。先端のノズルにポンプが直結し,ポンプには材料投入用のバケットが接続された構造となっています。
まずは,材料のフレッシュ性状を,既往の研究4)により提案されている3点の指標を評価ポイントとし,適切な材料を選定しました。

  • 押出し性:供給システムで材料をノズル先端まで圧送するときの容易さ
  • 積層性:押出し装置で材料を積層するときの容易さ
  • 形状安定性:積層された硬化前の材料が自重で変形することに対しての抵抗性
図-1 使用した3Dプリンタ img
図-1 使用した3Dプリンタ3)

次に,選定した材料を3Dプリンタで積層造形をして,図-2に示すような壁形状の試験体を作製しました。材料は,ポンプで閉塞することなく,連続してノズルから押し出され,適切にプリントできることを確認しました。プリントされた材料は,材料分離することなく,表面に欠陥などは認められませんでした。この結果から,本材料は押出し性や積層性を満足する材料であることがわかります。また,7層のプリントを行った後も,下層が大きく変形することなく形状は保持され,試験体が倒壊することはありませんでした。

図-2 壁試験体(図-1)の拡大図 img
図-2 壁試験体(図-1)の拡大図3)

最後に,同一の材料を使用して,プリント試験体と型枠に打ち込んだ試験体の力学試験の結果を示します。一軸引張試験には,図-3のように試験区間の断面が24×40mmである試験体を用いました。載荷は,容量100kNの試験機を用いて,試験速度0.05mm/secの変位制御で行いました。一軸引張試験に供した試験体は,打込み試験体の場合,図-3(a)のダンベル形状を用い,プリント試験体の場合,図-4のように壁試験体から切り出し,図-3(b)のように整形した試験体を用いました。試験は材齢28日に行いました。
表-1に,プリント試験体と打込み試験体のひび割れ発生強度,引張強度および圧縮強度を示します。ひび割れ発生強度は,一軸引張試験から得られた引張応力−ひずみ関係において,線形性が失われたときの応力から算出しています。切り出し・積層等による試験体のバラつきも考えられたため,各強度の変動係数も示しています。この結果より,プリント試験体が引張応力下で複数微細ひび割れ特性とひずみ硬化特性を呈すること,型枠に打ち込んで作製した試験体よりも終局ひずみが大きくなることがわかりました。

図-3 一軸引張試験の概略図:(a)打込み試験体;(b)プリント試験体 img
図-3 一軸引張試験の概略図:(a)打込み試験体;(b)プリント試験体3)
図-4 壁試験体から切り出した試験体の概要図 img
図-4 壁試験体から切り出した試験体の概要図3)
表-1 力学試験の結果3)
図-3 一軸引張試験の概略図:(a)打込み試験体;(b)プリント試験体 img

おわりに

本技術はいくつかの課題を有しているものの,様々な可能性や将来性を秘めた技術といえます。今後,より一層の生産性・安全性向上のためにデジタル技術・自動化技術の活用がさらに促進されると予想される中で,3Dプリンタを使用した技術についても適用検討が進んでいくと考えられます。本技術が新たなコンクリート施工技術の一つとして実用化される日が期待されます。

[参考文献]
1)新野俊樹:金属の付加製造技術の最新動向と期待(特集3次元プリンタによる金型づくりの実際),型技術,Vol.29,No.2,pp.18-23,2014
2)小倉大季:建設スケールの3Dプリンティング技術に関する海外の研究動向,コンクリート工学, Vol.56,No.2,pp.174-180,2018.2
3)小倉大季・Venkatesh N. Nerella・Viktor Mechtcherine:3Dプリンティングに適したひずみ硬化型セメント複合材料の開発,コンクリート工学年次論文集,Vol.40, No.1,pp.1923-1928,2018
4)Le, T. T., Austin, S. A., Lim, S., Buswell, R. A., Gibb, A. G. F. and Thorpe, T.:Mix design and fresh properties for high-performance printing concrete, Materials and Structures, Vol.45, No.8, pp.1221-1232, 2012

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