ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2019年7月号(1)
複合劣化が生じた鉄筋コンクリート構造物では,単独劣化と比較して,劣化の進行速度が速くなる場合があります。このような変状は,コンクリート構造物の老朽化が社会問題となっている現代,実構造物においても増加しています(一例を写真-1に示します)。本学会では,2001年に成果報告された「複合劣化コンクリート構造物の評価と維持管理計画研究委員会(1998-2000)」1)以降の知見は,体系的に整理されているとはいえない状況です。
「鉄筋コンクリート構造物の複合劣化機構の解明とその対策に関する研究委員会」(委員長:宮里心一・金沢工業大学教授)では,最新の研究成果も含めて,土木構造物や建築物で生じた複合劣化の実態を踏まえた上で,材料科学的考察も加味してメカニズムを解明し,その劣化を低減させるために有効な予防保全方法ならびに事後保全方法を提案するべく,2017年度から2018年度にかけて,活動を行いました。
本稿では,2017年度から2年間にわたる標記委員会の活動成果の概要をご紹介するとともに,本年9月に開催する報告会についてご案内いたします。
写真-1 実構造物における複合劣化の例(塩害とASRの複合劣化) |
※会員専用ページには「増刊コンクリート技術2019年7月号」として,本記事のより詳細な内容
(一部報告書の内容含む)が掲載されています。そちらもご覧ください。
ログインページはこちら https://www.jci-net.or.jp/j/member/only/auth.php
本委員会の活動の流れを図-1に示します。本委員会ではまず,2002年以降に発表された100件を超える複合劣化関連の研究成果や調査結果の収集・整理を,委員全員で分担して行いました。その結果は,複合劣化の関連性が強い「塩害と中性化」,「塩害と凍害」,「塩害とASR注1」,「凍害とASR」,「ASRとDEF注2」という5つの複合劣化に分けて整理しました。次に,材料科学WGと対策WGに分かれ,材料科学的観点から見た複合劣化メカニズムならびに実構造物における劣化事例や対策に関して,それぞれ考察を加えました。最後に,材料科学WGで明らかにしたメカニズムと対策WGで確認された実構造物における調査結果を比較し,実構造物における複合劣化の進行は,メカニズムに立脚したものであることを確認した上で,複合劣化に対して,有効な保全方法の提案を行いました。
注1 ASR(Alkali Silica Reaction):アルカリシリカ反応。こちらもご参照ください。
注2 DEF(Delayed Ettringite Formation):エトリンガイトの遅延生成。コンクリートが硬化後,数か月~数年の時間を経てコンクリート中に内在する硫酸塩がアルミネート系水和物と反応することによりエトリンガイトが再生成され,コンクリートの膨張劣化を引き起こす現象のこと。2)
図-1 委員会の活動の流れ |
保全方法の提案の一例として,「塩害と中性化」の複合劣化に対する保全方法を表-2に示します。ここで,表中のAは現場において実績のある方法,Bは最近の研究成果において検討された方法です。本研究委員会ではさらにCとして新たな保全方法を提案しました。同様の提案を「塩害と凍害」,「塩害とASR」,「凍害とASR」についても行っています。
No | 区分 | 方法 | A | B | C |
1) | 予防 | カルシウムアルミネートの一種CaO・2Al2O3(CA2)を混入したコンクリートを使用する。 | ✔ | ||
2) | 3成分系コンクリート(FAが15~20%程度)を使用する。 | ✔ | |||
3) | 材料と施工の両面で,防水性の高い部材を建設する。 | ✔ | |||
4) | 事後 | 複数の電気化学的補修工法を組み合わせる。 | ✔ | ✔ | |
5) | 亜硝酸イオンを含む,物質透過性の低い材料により断面修復する。ただし,マクロセルの形成を防ぐ。 | ✔ |
本研究委員会の活動報告会を下記の日程で開催いたします。本稿でご紹介した活動内容の詳細をこのシンポジウムで報告いたします。皆様奮ってご参加ください。
※プログラム・申込方法などの詳細はこちらをご覧ください。
http://www.jci-net.or.jp/j/events/symposium/index.html
※1 鉄筋コンクリート構造物の複合劣化機構の解明とその対策に関する研究委員会 委員,
情報コミュニケーション委員会 委員
※2 鉄筋コンクリート構造物の複合劣化機構の解明とその対策に関する研究委員会 委員長
※3 同上 幹事