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2018年10月号

鉄筋コンクリート(RC)棒部材の破壊について


1.はじめに

コンクリートは圧縮に強く,引張に弱いといった特徴を有しています。鉄筋コンクリート(RC)は,引張に弱いコンクリートを,引張に強い鉄筋と組み合わせることで,優れた耐力と変形性能を発揮させることができます。
本記事では,RC棒部材で発生し得る代表的な破壊について概説します。

執筆者:情報コミュニケ—ション委員会 委員
中田 裕喜((公財)鉄道総合技術研究所)


2.RC棒部材の破壊形式

RC棒部材とは,RC柱脚やRC梁などの棒形状のRC部材であり,設計上区分された部材の種類です。なお,面内力を受けるRC壁のような板形状の部材はRC面部材と称します1),2)
写真-1に,兵庫県南部地震による鉄道ラーメン高架橋の被害写真を示します。写真-1(a)はRC柱が曲げ破壊,写真-1(b)はRC柱がせん断破壊したものです。曲げ破壊の場合には曲げモーメントが最大となる部材端部で損傷が集中し,せん断破壊の場合には一般に部材全体,またはある一定領域で損傷します。また,せん断破壊よりも曲げ降伏が先行する場合には一般に変形性能(じん性)を有しており,せん断破壊はせん断耐力に達した後にぜい性的に破壊(崩壊)するため,安全性を確保する上でせん断破壊は最も避けなければならない破壊形態です。そのため,部材が保有する破壊形態が曲げ破壊形態となるように規定されている設計基準1),2)もあります。
3章以降では,曲げ破壊とせん断破壊の詳細について説明します。

(a)曲げ破壊 img
(a)曲げ破壊
(b)せん断破壊 img
(b)せん断破壊
写真-1 鉄道ラーメン高架橋における地震被害事例

3.曲げ破壊について

図-1に示す単純支持されたRC梁を例に,曲げ破壊について説明します。RC梁が2点集中荷重を受けると,図-1に示すような曲げモーメントとせん断力が作用します。図-2(a)はRC梁の鉄筋配置を模式的に示したものです。RCの基本的な考え方は,圧縮力をコンクリートで,引張力を鉄筋で受け持たせることですが,曲げモーメントに対しては,曲げモーメントによる引張力を軸方向鉄筋(引張鉄筋)に受け持たせます。
一般的な曲げ破壊の場合,梁の下縁(引張縁)に曲げひび割れが発生した後,軸方向鉄筋が引張力を受け持ち,やがて降伏に至ります。軸方向鉄筋降伏後は大幅な荷重増加は見込めないものの急激な荷重低下は生じず,鉄筋の伸びによりたわみが増加していきます。たわみの増加に伴って上縁(圧縮縁)のコンクリートのひずみも増加し,最終的にはコンクリートが圧縮破壊して荷重が低下します(図-2(b))。曲げ破壊では,軸方向鉄筋の降伏後の鉄筋の伸びにより,コンクリートの圧縮破壊に至るまでにたわみが増加するため,エネルギーの吸収量が大きく,じん性的な破壊となるのが特徴です。
ただし,軸方向鉄筋が多量に配置されている場合や,鉛直部材などで軸方向力が大きい場合には,軸方向鉄筋が降伏する前に圧縮縁のコンクリートが圧縮破壊し,破壊に至る場合があります。軸方向鉄筋が降伏する前に生じるため破壊時のたわみも小さく,急激な荷重低下を伴うため好ましい破壊形態ではありません。万が一,想定以上の作用が発生してもこのような破壊形態とならないように,軸方向鉄筋量(引張鉄筋比)に上限が設けられている設計基準もあります1),2)

図-1 断面力分布 img
図-1 断面力分布
図-2 RC梁の曲げ破壊 img
図-2 RC梁の曲げ破壊

上記では,一方向の単調な荷重を受けるRC梁を例に示しました。地震時においては繰り返しの力が発生しますが,土木構造物では柱部材を,建築物では梁部材の曲げ降伏を先行させて,その部材の塑性変形(軸方向鉄筋降伏以降の変形),つまりエネルギー吸収により対応することが一般的となっています。このような場合,部材は繰り返しの塑性変形を受けることになります。写真-2は,曲げ破壊するRC柱に対して繰り返し載荷実験を行ったときの大変形時の損傷状況ですが3),部材端部で損傷が集中するとともに,軸方向鉄筋の座屈が生じていることが確認できます。なお,この部材端部で損傷が集中する領域を,塑性ヒンジ3),4)と称します。
曲げ破壊する場合は変形性能に富むと述べましたが,変形性能には限りがあります。繰り返し載荷を受ける部材の変形性能は,塑性ヒンジの長さや塑性ヒンジの回転能力等に依存しますが,塑性ヒンジの回転能力は,帯鉄筋(せん断補強鉄筋)量等により大きく異なります。これは,例えば,写真-2でわかるように,帯鉄筋が軸方向鉄筋の座屈やコアコンクリートを拘束する効果を表していると考えられます。各種基準では,地震による変形量よりも大きな変形性能を付与するため,塑性ヒンジ部に所定の帯鉄筋量を配置させることになっています。

(a)かぶりコンクリート剥落後 img
(a)かぶりコンクリート剥落後
(b)実験終了後 img
(b)実験終了後
写真-2 RC柱の繰り返し(交番)載荷実験の損傷状況(柱基部)3)

4.せん断破壊について

図-1に示す単純支持されたスレンダーなRC梁を例に,せん断破壊について概説します。図-3に,鉄筋配置およびせん断破壊時の模式図を示します。作用するせん断力に比してせん断耐力が小さい場合,せん断破壊が生じます。破壊に至るまでの挙動は曲げ破壊と異なり,曲げひび割れ発生した後,軸方向鉄筋が降伏する前,あるいは軸方向鉄筋降伏後の圧縮縁コンクリートが圧壊する前に,せん断スパン内に斜めひび割れが発生します。この斜めひび割れは,せん断ひび割れとも称されますが,斜めひび割れの進展に伴ってせん断補強鉄筋が降伏し,最終的には斜めひび割れが圧縮縁に貫通して荷重低下が生じます(図-3(b))。せん断破壊の場合,小さなたわみで破壊に至るため,曲げ破壊に比べてエネルギーの吸収量が少なく,ぜい性的な破壊となるのが特徴であり,好ましい破壊形態ではありません。また,せん断破壊はせん断スパン全長,あるいは広範囲の領域にわたって斜めひび割れが発生するため,断面というより部材としての破壊になります。

図-3 RC梁のせん断破壊 img
図-3 RC梁のせん断破壊

スレンダーなRC棒部材におけるせん断耐荷機構としては,古典的トラス理論および修正トラス理論が有名です5)。古典的トラス理論は,RC棒部材を平行な上弦材,下弦材および腹材にモデル化し,せん断力はすべて仮想トラスの引張腹材(せん断補強鉄筋)により負担され,引張腹材の降伏をせん断耐力としたものです。さらに,多くの実験より,せん断力の一部は,まだひび割れていない圧縮域でのコンクリートの負担や,引張鉄筋のダウエル作用,ひび割れ面での骨材のかみ合い作用などによっても負担されることが分かっています。修正トラス理論は,古典的トラス理論による引張腹材(せん断補強鉄筋)の負担せん断力Vsと,上記のコンクリートによる負担せん断力Vcの累加をせん断耐力Vy(=Vc+Vs)とするものです。なお,土木学会コンクリート標準示方書1)においては,コンクリートによる負担せん断力として,せん断補強鉄筋を用いないRC棒部材のせん断耐力6)が採用されています。

上記では,「単純支持」された「スレンダー」なRC棒部材について示しました。一方,建築物や鉄道の高架橋はラーメン構造が大半ですが,ラーメン構造における柱・梁部材は単純支持ではありません。図-4に,鉄道ラーメン高架橋を示しますが,例えば梁部材では,その両端が固定された支持条件です。図-5に両端固定支持下における破壊状況の例7)を示しておりますが,このような場合においては,両端の圧縮縁を結ぶ斜めひび割れや,軸方向鉄筋に沿ったひび割れが発生することもあり,単純支持の場合と破壊形態やせん断耐力が異なることがわかっています。建築分野における基準では,両端固定支持下が基本となっており,せん断力に関する規定に加え,軸方向鉄筋の付着に関する規定が整備されています。

図-4 ラーメン高架橋における支持条件 img
図-4 ラーメン高架橋における支持条件
図-5 両端固定支持RC梁の破壊状況の例 img
図-5 両端固定支持RC梁の破壊状況の例7)
また,せん断スパンaと有効高さdの比a/dが小さい部材はディープビームと呼ばれ,a/dが大きいスレンダーなRC部材とは異なる破壊形態,せん断耐力を示します8),9)。図-6に,単純支持されたディープビームにおける破壊状況の例9)を示します。ディープビームにおいては斜めひび割れ発生後に,載荷点と支持点間のコンクリートをアーチリブ,引張鉄筋をタイとするタイドアーチ的な耐荷機構5),9)に推移し,最終的にはコンクリートの圧縮破壊により耐荷力を失います。コンクリートの圧縮破壊により耐荷力を失うため,せん断補強鉄筋が降伏しないことも多く,せん断補強鉄筋の効果はスレンダーなRC部材よりも小さくなる傾向にあります。
図-6 単純支持ディープビームの破壊状況の例9) img
図-6 単純支持ディープビームの破壊状況の例9)

なお,土木および建築分野におけるせん断耐力算定法の変遷は,文献10),11)で整理されていますので,ご参照ください。

兵庫県南部地震以降,耐震補強が進められていますが,RC柱脚に対しては鋼板巻立て補強やRC巻立て補強,繊維巻立て補強等が行われています。これは,不足するせん断耐力を外部からの巻立て材に負担させてせん断破壊を防止し,曲げ破壊先行に移行させることをおもな目的としています。


5.おわりに

ここでは,RC棒部材の代表的な破壊形態である曲げ破壊とせん断破壊について示しました。各種基準においては,曲げ耐力や曲げ破壊時の変形性能,せん断耐力の算定法が提示されており,発生する断面力や変形量に対して満足する耐力,変形性能を付与することとなっています。また,特に地震時の場合においては,設計で想定する地震力以上が発生した場合を想定することも重要であり,破壊形態を曲げ破壊先行とすることの有用性はいうまでもありません。
せん断耐力や変形性能に関する研究は古くからおこなわれておりますが,普遍性が高く,理論的根拠に基づいた算定法は必ずしも構築されておりません。安全性の確保のために,今後も合理的な算定法の構築が望まれています。

[参考文献]
1)土木学会:2012年制定 コンクリート標準示方書(設計編),2013.3
2)(財)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物),2004
3)渡邉忠朋・谷村幸裕・瀧口将志・佐藤勉:鉄筋コンクリート部材の損傷状況を考慮した変形性能算定手法,土木学会論文集,No.683/V-52, pp.31-45, 2001.8
4)星隈順一・運上茂樹・川島一彦・長屋和宏:載荷繰返し特性と塑性曲率分布に着目した曲げ破壊型鉄筋コンクリート橋脚の塑性変形性能とその評価法,構造工学論文集,Vol.44A,pp.877-888,1998.3
5)二羽淳一郎:コンクリート構造の基礎,数理工学社,2006.2
6)二羽淳一郎・山田一宇・横沢和夫・岡村甫:せん断補強鉄筋を用いないRCはりのせん断強度式の再評価,土木学会論文集,No.372/V-5,pp.167-176,1986.8
7)渡辺健・田所敏弥・谷村幸裕・黒川浩嗣:逆対称曲げが作用したディープビームの破壊性状に関するせん断スパン比の影響,コンクリート工学年次論文集,Vol.29,No.3,pp.691-696,2007
8)二羽淳一郎:FEM解析に基づくディープビームのせん断耐荷力算定式,第2回RC構造のせん断問題に対する解析的研究に関するコロキウム論文集,pp.119-128,1983.10
9)谷村幸裕・佐藤勉・渡邊忠朋・松岡茂:スターラップを有するディープビームのせん断耐力に関する研究,土木学会論文集,No.760/V-63,pp.29-44,2004.5
10)斉藤成彦:土木分野におけるせん断耐力算定式−岡村甫博士・檜貝勇博士による導入と二羽淳一郎博士による修正−,コンクリート工学,Vol.51,No.9,pp.737-742,2013.9
11)前田匡樹:建築分野におけるせん断耐力算定式の発展−実験式からトラス・アーチ理論式へ−,コンクリート工学,Vol.51,No.9,pp.743-749,2013.9

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