ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2018年7月号
我々の生活はさまざまな社会インフラの上に成り立っており,今日コンクリート構造物の維持管理の必要性や重要性は改めて強く認識されています。コンクリート構造物の維持管理には、適切な調査・診断・評価を行うことが大切ですが,そのための方法の一つとして,電気化学的手法の活用が多くなっています。
JCIにおいても,古くは1983年の「コンクリート構造物の腐食・防食に関する講習会-JCI「海洋コンクリート構造物の防食指針(案)」をめぐって-」や,1989年の「鉄筋腐食により損傷を受けたコンクリート構造物の補修技術に関するシンポジウム」など,四半世紀以上にわたり断続的に防食や補修に関する委員会が設置され、検討を重ねてきた経緯があります。
JCI-TC162A「電気化学的手法を活用した実効的維持管理手法の確立に関する研究委員会(委員長:鹿児島大学・山口明伸)」では,各種電気化学的手法を効果的かつ持続可能な維持管理手法として活用するために必要となる技術的な情報を整理することを目的に活動を行いました。
本稿では,2016年度から2年度にわたる標記委員会の活動成果の概要をご紹介するとともに,本年9月に開催するシンポジウムについてご案内いたします。
※会員専用ページには「増刊コンクリート技術2018年7月号」として,本記事のより詳細な内容(一部報告書の結果含む)が掲載されています。そちらもご覧ください。
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本委員会は,性能診断WGと劣化対策WGを設け,性能診断WGでは,コンクリートの遮塩性の評価手法や,コンクリート構造物に電気化学的手法を適用するときの留意点について取りまとめました。劣化対策WGでは,各分野(道路,鉄道,港湾,海外プラント)の構造物の特徴と電気防食工法を適用する際の留意事項について整理し,課題を抽出いたしました。また,性能規定型の電気防食工法の設計をめざして検討した結果について取りまとめました。
■コンクリートの遮塩性の評価手法
電気化学的手法を用いたコンクリートの遮塩性評価手法としては,既に土木学会で規準化されているJSCE-G 571:電気泳動によるコンクリート中の塩化物イオンの実効拡散係数試験方法(定常法電気泳動試験に分類される試験方法)があります。そこで,海外での活用事例を収集するとともに,例えばAASHTO T358に規定される遮塩性のグレーディングの決定プロセスに至るまでをレビューし,それらの情報を体系的にまとめました。
また,国内で検討されてきた非定常法電気泳動試験※について,委員会内でラウンドロビン・テスト※※を実施しました。さらに,参加機関から提出された試験結果を分析し,非定常法電気泳動試験による塩化物イオン拡散係数の評価に際しての留意点を抽出し,規準化に向けて検討すべき内容を整理しました。これらの検討結果を基に,電気化学的手法を用いた遮塩性評価試験の活用法の展望について示しました。
※非定常電気泳動試験とは,飽水状態とした供試体に通電を行い(図-1),通電後の供試体を試験面に対して垂直に割裂し,硝酸銀溶液を割裂面に噴霧してその変色領域の位置を塩化物イオンの浸透深さとして求め(図-2),この測定値を用いてコンクリートの塩化物イオン浸透抵抗性を評価する試験方法です。
図-1 電気泳動セルと通電時の状況の例 |
図-2 塩化物イオン浸透速度係数の求め方 |
※※ラウンドロビン・テストは,非定常法電気泳動セル試験の信頼性を検証するために,一機関で同日・同バッチで作製した供試体を6機関に配付して非定常法電気泳動セル試験を行いました。
■コンクリート構造物に電気化学的手法を適用するときの留意点の整理
自然電位,分極抵抗,コンクリート抵抗などの電気化学的指標は,コンクリート構造物の診断時に広く用いられていますが,測定やデータ解釈における熟練者のノウハウは明文化されていないものが多いのが現状です。また,電気化学的手法は,仮に不適切な適用の場合であっても測定すればデータが得られることから,原理を理解した上で用いなければ誤った診断につながる危険があります。この様な現状に鑑み,測定や構造物の診断時の留意点を,実測結果を交え実務的・学術的観点から説明しました。
■電気化学的補修工法
今後,劣化したコンクリート構造物の増加が懸念される中で,電気化学的補修工法の適用が増加すると考えられます。現状の電気化学的補修工法の設計施工指針は,ある程度確立されたものであるものの,仕様規定型の指針であるため,適用される施設や環境によっては適切な管理ができない可能性があります。
そこで,電気化学的補修工法のうち適用実績が最も多く,かつ将来的にも施工実績が増加する可能性の高い電気防食工法に焦点を当て,各分野(道路,鉄道,港湾,海外プラント)の構造物の特徴と電気防食工法を適用する際の留意事項について整理し,課題を抽出しました。また,電気防食工法の課題を踏まえて,将来の電気防食工法設計のあるべき姿として性能照査型の設計手法を提案するとともに,調査,施工,維持管理に関する技術についてまとめました。
本研究委員会の活動報告を兼ねたシンポジウムを下記の日程で開催いたします。本稿でご紹介した活動内容の詳細をこのシンポジウムで報告いたします。また,研究委員会の活動に関連した一般論文の発表もございます。皆様奮ってご参加ください。
【電気化学的手法を活用した実効的維持管理手法の確立に関するシンポジウム】
日時:2018年9月21日(金) 10:00−17:00
場所:千代田区立内幸町ホール (東京都千代田区内幸町1-5-1)
※プログラム・申込方法などの詳細はこちらをご覧ください。