ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2018年6月号
鉄筋コンクリート造の構造物の設計においては,各部材の曲げ強度,せん断強度あるいは付着強度などの終局強度の評価法が不可欠です。この中で曲げ強度に関しては理論的なアプローチが可能で,断面の平面保持解析やそれに基づく略算的な手法などにより,従来から十分な精度で評価ができていると考えられてきました。しかしながら,近年では,これらの手法では曲げ強度の評価の精度が低い場合があることが認識され始めました。特に,面部材である壁の場合にその傾向が高くなるようです。一方,壁部材には開口が設けられることがあります。この場合も曲げ強度の評価が難しくなります。
図-1は既往の曲げ終局強度の算定式の推定精度の検証例になります。横軸(曲げ終局強度の計算値に対するせん断終局強度の計算値の比)1以上が,曲げ破壊型と判定される試験体です。縦軸の強度比(曲げ終局強度およびせん断終局強度の計算値の最小値に対する最大耐力の実験値の比)が0.85を下回った試験体は1体,1.5を上回った試験体も1体であり,横軸1以下に比べてばらつきが大きいことがわかります。
図-1 I型断面壁部材の強度推定精度 |
本研究委員会(委員長:新潟大学加藤大介教授)では,鉄筋コンクリート造の壁部材を対象とし,以上で示したような曲げ終局強度の現状の算定法の問題点を明らかにし,それを解決できる簡略的な評価式の提案を目的として活動してきました。本記事では委員会活動の概要をご紹介するとともに,2018年9月に開催予定の報告会についてもご案内いたします。
※会員専用ページには「増刊コンクリート技術2018年6月号」として,本記事のより詳細な内容(一部結果含む)が掲載されています。そちらもご覧ください。
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無開口壁部材の場合,慣用的な曲げ終局強度評価式では十分に精度よく評価できない理由として考えられるのは以下の3点です。
(1)壁部材では,両側の柱部材等の軸方向筋以外に壁体の軸方向筋も曲げ強度に寄与するため,強度は変形に大きく依存します。また,それぞれの鉄筋の効果は異なり,ある鉄筋についてはひずみ硬化域まで考慮しなければならないこと。
(2)両側の柱が帯筋により十分に拘束されている場合は,曲げ強度に及ぼすその影響が大きくなること。
(3)面材はせん断力の影響が避けられません。その際,柱型の拘束が大きければせん断力による圧縮ストラットが危険断面端部に向かわず見かけ上柱の上部に向かうため,曲げ強度が高くなります。逆に柱型の拘束が少ない場合は,断面の圧縮領域が増えることにより中立軸深さが長くなり,曲げ強度が低くなる可能性があります。
一方,開口を有する壁部材の場合の理由は,以下の2点が考えられます。
(4)開口により軸方向筋がなくなり,その代わりに曲げ強度に対する効果が不明な開口補強筋が存在すること。
(5)開口の存在により危険断面(基部あるいは開口下面)での平面保持仮定が崩れること。
これらの要因を詳細に検討するために以下のような活動を実施してきました。
○平成28年度の活動内容
まず建築および土木分野における壁部材の実験的な既往の研究の調査を行い,慣用的に使われている曲げ終局強度算定式の問題点を抽出しました。さらに,無開口の両側柱付き壁部材を対象として曲げ終局強度算定式が実験結果を推定できていない代表的な試験体を選定し,FEM解析を行いました。これにより実験では把握できない要素の応力度分布などから強度評価精度に及ぼす要因について分析を行いました。
○平成29年度の活動内容
平成29年度は開口のある両側柱付き壁部材を対象として曲げ終局強度算定式が実験結果を推定できていない代表的な試験体を選定しFEM解析をしました。次に前年度に行った無開口のFEM解析結果も含めて両側柱付き壁部材の精度のよい曲げ強度式を提案しました。
さらに,対象を立体壁,袖壁付き柱,橋脚などの土木構造物まで広げ,同様な曲げ強度式の提案を行うとともに,近年の研究動向を含めて性能評価手法およびモデル化手法についてとりまとめました。
以上で述べた委員会活動の成果は,下記の要領にて行う報告会にて発表いたします。皆様奮ってご参加ください。
◆委員会報告会
日時:2018年9月28日(金) 13:00−17:00
場所:早稲田大学 国際会議場(東京都新宿区西早稲田-1-20-14)
プログラム(予定):
※報告会の詳細については,会誌「コンクリート工学」ならびに,JCIホームページのイベント情報で2018年7月以降に告知いたします。
*1 鉄筋コンクリート造壁部材の曲げ終局強度算定法に関する研究委員会 委員長
*2 同上 幹事
*3 同上 幹事,情報コミュニケーション委員会 委員