ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2018年2月号
繊維で補強されたセメント系材料は使用される材料や特性に基づいて様々なものがあります。ひび割れ抵抗性を持たせるために普通コンクリートに繊維を加えたものもあれば,引張終局ひずみが5%以上もある高靱性繊維補強セメント複合材料もあります。このうち,今回は,150MPa以上の高い圧縮強度と高い引張靱性をあわせ持つ,超高性能繊維補強コンクリートを紹介します。
超高性能繊維補強コンクリートは,国によって様々な名称で呼ばれています。わが国ではUFC(Ultra High Strength Fiber Reinforced Concrete)と呼ばれていますが,世界に目を向ければ,UHPFRC(Ultra High Performance Fiber Reinforced Concrete)と呼ばれることが一般的なようです。アメリカではUHPC(Ultra-High Performance Concrete)と呼ばれているようですが2),ここではより一般的で,かつ“超高性能繊維補強コンクリート”に正しく対応したUHPFRCという名称を使用し,その概要や実構造物への適用の状況を紹介します。
世界共通のUHPFRCの明確な定義はありませんが,一般に圧縮強度は150MPa以上,引張強度は5MPa以上1)とされることが多いようです。また,非常に緻密な構造を有するため,透気性・透水性が極めて小さく耐久性に優れたセメント系材料であるということができます。
UHPFRCは1980年代からヨーロッパで技術開発が進められ,2000年頃に日本に入ってきました。その後日本でも技術開発が続けられ,現在では国内でいくつかの製品が販売されています。UHPFRCを構成する材料やその配合比率は製品によって差があるものの,基本的にはセメント,シリカフューム等の反応性粉体,細骨材,高性能減水剤および繊維から構成されています(写真-1)。これらの材料を練り混ぜた硬化前のUHPFRCは高い流動性を持ちつつ適度な粘性もあるため,混入された繊維を保持したまま自己充填性を発揮します(写真-2)。
UHPFRCは一般に粗骨材を用いず,また補強用の鉄筋と一緒に用いないことが多いため,UHPFRCを用いた構造物は通常の鉄筋コンクリート構造物に比べて部材を非常に薄くできます。
写真-1 UHPFRCの構成材料 |
写真-2 UHPFRCの流動性 |
UHPFRCは,建築でも土木でも使われていて,近年その利用が拡大しています。建築物では,ファサード(建築物の正面部分)など意匠に使われていることが多く,土木構造物では構造部材として使われることが多いようです。写真-3は沖縄IT津梁パークのファサード,写真-4はフランス南部の都市モンペリエにあるTGVの新駅の屋根です。高強度で薄い部材を作ることができるUHPFRCの特性を生かし,複雑な形状からなる美しい部材をプレキャストで製作しています。
写真-3 沖縄IT津梁パーク |
写真-4 モンペリエTGVの新駅 |
UHPFRCの強度の高さを構造の面で最大限生かして設計された構造物も多くあります。写真-5はフランスのモンペリエの橋梁ですが,高強度なUHPFRCによって非常にスレンダーな部材で構成されています。
写真-5 モンペリエ レピュブリック橋 |
わが国で有名なものは,2002年に完成した山形県酒田市の酒田みらい橋(写真-6)ではないでしょうか。UHPFRCでプレキャスト箱桁を製作し,外ケーブルでプレストレスを導入することによりスパン50mの歩道橋をウェブの厚さ80mm,スラブ厚さわずか50mmで形成しています。
近年では,新設構造物だけでなく,補強にもUHPFRCが採用される事例が増えてきました。写真-7はスイスのレマン湖の畔にあるシヨン高架橋です。シヨン高架橋は1960年代後半に建設されたプレキャストセグメントPC箱桁橋で,点検の結果,スラブの曲げ,せん断および疲労耐久性を向上させる必要があると判断されたほか,初期のアルカリシリカ反応の兆候が見られたため,厚さ45mmのUHPFRCによる床版増厚が行われました。シヨン高架橋の補強事業は,米国コンクリート工学会のWinners of the 2017 Excellence in Concrete Construction Awardsで2位となりました3)。
写真-6 酒田みらい橋 |
写真-7 シヨン高架橋 |
2010年に完成した羽田空港D滑走路の桟橋部の外周部の床版にUHPFRCが全面的に使われるなど,近年その使用実績が多くなってきてはいるというものの,UHPFRCはまだまだ新しい材料で,普通コンクリートに比べてわずかな量しか使用されていません。そのため値段が高いのが玉にキズですが,例えばアメリカでは,特定の企業の材料に依存しない安価なUHPFRCが開発され使われ始めています4)。また,マレーシアでも,現地の材料を使って安価に製造できるUHPFRCが開発され,UHPFRCのプレキャスト部材を用いた軽量・長スパンの橋梁が70橋以上も建設され供用されています5)。このマレーシアの例ではUHPFRCの1m3あたりの価格がUS$700程度とのことですので,日本で現在使われているUHPFRCの1/3~1/4の価格ということになります。
今後,日本でも使用量が増えれば更に技術開発が進むでしょうし,値段も安くなってくると考えられます。今後のUHPFRCの発展に期待したいと思います。