ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2017年11月号
コンクリートを型枠内に打込む際,未充填(躯体内部で発生する空洞)や豆板(バイブレータによる締固め不足や材料分離等により発生する不良部分)などの初期欠陥を防ぐためには,充填に必要な流動性を有したコンクリートを使用し,バイブレータ等による締固めを確実に行う必要があります。自己充填性を有する高流動コンクリートを使用していたとしても,高密度配筋部分や不可視部分などの箇所では,施工前に実物大の配筋および型枠を部分的に作製したものに対して選定したコンクリートが充填されるか否かを判断する施工試験を必要とするケースがよく見受けられます。
本記事で紹介するコンクリートの流動シミュレーションは,粒子法の1種であるMPS(Moving Particle Semi-implicit)法という手法によりコンクリートの流動を3次元でシミュレーションするものです1)。簡単にいうと,コンクリートをつぶつぶの粒子で表現して,そのつぶつぶの動きを「流れのルール」を用いて計算する方法であり,近年の数値解析手法および計算機性能の発達により可能となりました。このようなシミュレーションによる情報化施工により,施工試験に頼ることなく充填性が評価され,生産性が向上することを目的としています。
高流動コンクリートを使用した場合の流動シミュレーションについて紹介します。
図-1 高架橋スラブ断面図(増打ち部) |
写真-1 施工試験用型枠 |
図-1は,ある高架橋において既設スラブの下に増し打ちする新設スラブの断面図を示しています2)。この高密度配筋,かつ逆打ち(コンクリートの打継ぎにおいて,既設コンクリートの下側に新たなコンクリートを打ち込むこと)となる部位への充填に高流動コンクリート(材料分離抵抗性を損なうことなく,流動性を著しく高めたコンクリート)を使用しました。高流動コンクリートの充填状況を確認するために実施した施工試験で使用した型枠を写真-1に示します。同写真のコンクリート投入部からスランプフロー(フレッシュコンクリートの流動性の程度を示す指標の1つで,スランプコーン引上げ後の試料の直径の広がりで表されるもの)が60cmの高流動コンクリートを自重で流動させる状態により打込みを行いました。
写真-2 施工試験状況 |
図-2 流動シミュレーション(1)結果 |
写真-2は,施工試験を行った状況を示しています。途中で流動停止が生じるとともに,打込み箇所でオーバーフローが発生しています。図-2は,型枠寸法や配筋状況を施工試験と同条件としたモデルに高流動コンクリートを打ち込む状況を表した流動シミュレーションの結果です1)。流動が同心円状に広がる途中で粒子が停止すると予想される状況(図中の緑色の粒子)や,コンクリート投入部付近でオーバーフローが発生する状況などついて,施工試験の状況と比較的よく一致しました。実施工では,スランプフローの管理基準を70±5cmとした高流動コンクリートを使用し,品質・外観ともに良好な仕上がりを確保しました。
このシミュレーションは,高流動コンクリートを均一な粘性流体としてとらえ,鉄筋などの障害物によって粘性流体を構成する粒子間に生じる流速分布などから流動・流動停止を判断し,未充填箇所を予測します。また,型枠内でのコンクリートの流動状況をシミュレーションするだけでなく,流動が配筋状態や型枠形状によって阻害される程度を判定し,未充填箇所の発生を予測する解析手法となっています。この解析手法は流体力学で用いられる粒子法をベースに構築されたものとなっています。
締固めが必要なコンクリートを使用した場合の流動シミュレーションについて紹介します。
a)コンクリート投入段階(締固めなし) |
b)締固め後 |
図-3 流動シミュレーション結果(2) |
図-3は,締固めが必要なコンクリートの流動シミュレーション結果の一例です3)。赤粒子は流動するコンクリート,青粒子は流動が停止したコンクリートを示したものです。スランプ8cmを想定したコンクリートの投入段階(図-3a)ではコンクリートは鉄筋に阻害され,鉄筋が高密度な部分には流入せず未充填となり,締固め後(バイブレータをかけた後)はコンクリートが隅々まで流入し充填される(図-3b),といったシミュレーション結果を示しています。
このシミュレーションは,バイブレータによりコンクリートが液状化して鉄筋の間を流動する現象をモデル化したものを,上記の高流動コンクリートのシミュレーションに付加したものです。シミュレーション結果は3次元動画として処理され,一目でバイブレータによる締固め効果を確認できるため,コンクリートのスランプ,打込み箇所,バイブレータの挿入位置・時間を任意に変えながらシミュレーションを重ねることで,コンクリートが確実に充填される施工計画の立案が可能になります。
以上のように,流動シミュレーションは,実際の構造物を対象とした高流動コンクリートや一般的なスランプのコンクリートの施工性の評価を行う上で有効な手法であると考えられ,情報化施工により生産性向上が期待できます。今後,導入した算定式の妥当性や,異なる施工条件下での加速度減衰の相違などの検証を行うことにより,多様な配合・施工条件下における充填性および未充填箇所の把握を行うための充填シミュレーション技術として,さらなる発展が期待されます。