ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2017年10月号
コンクリートを構成する主な材料は,セメント,水および骨材(細骨材・粗骨材)です。一般の方には,コンクリートの材料というとセメントのイメージが強いのではないかと思います。セメントはコンクリートの性質(施工性,強度,耐久性など)に大きな影響を及ぼすという点で,前述したイメージは正しいとも言えますが,一般的なコンクリートにおける体積割合の面からは,図-1のようにセメントは1割程度と,意外に小さい値となっています。一方,骨材は7割程度1)と,コンクリートの体積の大きな部分を占めています。したがって,骨材の物性は,コンクリートの性質に大きな影響を及ぼす重要な要素であると言えます。
骨材は主に粒子径5mm未満の細骨材(砂など)と5mm以上の粗骨材(砂利など)に区分されますが,コンクリートの性質を評価する場合に,モルタル部分(図-1参照)と粗骨材の二相に分けて考えることが多いため,ここでは,粗骨材の物性がコンクリートの圧縮強度に及ぼす影響について概説します。
図-1 一般的なコンクリートの材料構成(体積割合)の概要 |
粗骨材には,川などで採取される砂利,岩石を破砕して製造される砕石などが一般的に使用されています。これらの物性は,岩種や産地,さらには採取箇所などによっても異なります。そのため,土木学会のコンクリート標準示方書,日本建築学会のJASS 5,JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)およびJIS A 5005(コンクリート用砕石及び砕砂)では,粗骨材の物性が以下の項目について規定されています。
また,前述した基準・規格では明確に規定されていないものの,粗骨材自体を用いた試験により評価可能な物性として,以下の項目が挙げられます。
さらに,砕石については,破砕される前の岩石(写真-1参照)から作製(写真-2参照)した試験体を用いた試験により評価可能な物性として,以下の項目が挙げられます。なお,破砕により砕石と試験体の間に物性の差異が生じていないかについては,両者の薄片(写真-3参照)を作製して,顕微鏡でその空隙を観察(写真-4参照)するなどの試み2)も行われています。
写真-1 採石場での岩石採取 |
写真-2 コアボーリングによる岩石試験体作製 |
写真-3 砕石(20mm程度)の薄片 |
写真-4 薄片の顕微鏡写真 (範囲:6×4.5mm) ※青色部分は,空隙に充填された樹脂 |
コンクリートの強度といえば,一般には圧縮強度のことを指します。これは,圧縮強度が他の強度に比較して大きく,鉄筋コンクリート部材の設計でもこれが有効に利用されていることなどに起因します1)。コンクリートの圧縮強度は,JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)もしくはJIS A 1107(コンクリートからのコアの採取方法及び圧縮強度試験方法)による試験において,コンクリートが破壊に至るまでの最大荷重をコンクリートの断面積で除した値として求められます。
コンクリートは複数の構成要素からなる複合材料であるため,その破壊のメカニズムは複雑です。前述したモルタル部分と粗骨材の二相に分けて考えた場合,圧縮強度に支配的な影響を与えるひび割れとしては,(1)モルタル部分と粗骨材の界面に生じる付着ひび割れ,(2)モルタル部分に生じるひび割れ,(3)粗骨材内部に生じるひび割れなどが挙げられます3)。例えば,同じ粗骨材を使用した場合でも,モルタル部分が粗骨材よりも低強度となる普通強度のコンクリートでは,前述した(1)もしくは(2)のひび割れが支配的となり,写真-5のように破壊面におけるひび割れは粗骨材を避けて進展しますが,モルタル部分が粗骨材と同等以上の強度となる超高強度コンクリートでは,前述した(3)のひび割れも支配的となり,写真-6のように破壊面におけるひび割れが粗骨材を横切るように進展します。
写真-5 普通強度コンクリートの破壊面 (粗骨材最大寸法 20mm) |
写真-6 超高強度コンクリートの破壊面 (粗骨材最大寸法 20mm) |
粗骨材がコンクリートの圧縮強度に影響を及ぼすメカニズムとしては,モルタル部分と粗骨材の付着に影響を及ぼす場合,モルタルの強度に影響を及ぼす場合,粗骨材の強度が不十分となる場合などが挙げられ,それぞれ前述した3種類のひび割れの発生に影響を及ぼすと考えられます。粗骨材の各物性は,これらのメカニズム全てに影響を及ぼすわけではなく,影響を及ぼしうる主要なひび割れの種類の面から,以下のように分類できます。
以降では,これらの各物性がコンクリートの圧縮強度に及ぼす影響について概説していきます。
(1)粒度・粒形について
粗骨材の粒度(最大寸法,粗粒率)は,JIS A 1102(骨材のふるい分け試験方法)に従って求められます。また,粗骨材の粒形(粒形判定実積率)は,JIS A 5005(コンクリート用砕石及び砕砂)に従って求められます。この試験は,試料の粒度を一定にした場合の実積率を求めることで,粗骨材の粒形の良否を評価するものです。
一般に,砂利と砕石を比較した場合には,砕石のほうが粒形が悪い傾向にあります。これはコンクリトの施工性確保の観点からは望ましくないことですが,逆に圧縮強度の観点からは有利に働く傾向にあります。これは,砕石の角ばった形状や粗な表面形状がモルタル部分と粗骨材の間のずれ変形に抵抗し,界面における付着破壊が生じにくくなる4),5)ためと考えられています。なお,参考文献4)では,砂利を用いた場合には粗骨材の最大寸法が大きいほどコンクリートの圧縮強度が低下し,砕石を用いた場合にはこのような最大寸法の影響が小さいという報告がなされており,最大寸法の影響には粒形も関係すると考えられます。
(2)粘土塊量・微粒分量について
粗骨材の粘土塊量は,JIS A 1137(骨材中に含まれる粘土塊量の試験方法)に従って求められます。この試験は,試料を24時間吸水させることで,軟化して指で砕くことができる粘土塊の量を測定するものです。また,粗骨材の微粒分量は,JIS A 1103(骨材の微粒分量試験方法)に従って求められます。この試験は,0.075mmふるいを用いて,試料中に含まれる微細な粘土やシルトなどの量を測定するものです。
粘土塊は,乾燥状態では一定の強度を有していますが,水を含むと崩壊してしまいます。そのため,コンクリート中で局部的な弱点となりうるとともに,練り混ぜで崩壊した場合にもモルタル部分の強度低下につながります。これは,微粒分として含まれる粘土やシルトなどについても同様です。なお,粘土やシルトは主に砂利に含まれるものであり,砕石には通常含まれないとされており,同じ微粒分でも砕石の表面に付着している砕石粉の混入はコンクリートの圧縮強度にはほとんど影響を及ぼさないとされています6)。
(3)-1 絶乾密度・吸水率について
粗骨材の絶乾密度および吸水率は,JIS A 1110(粗骨材の密度及び吸水率試験方法)に従って求められます。
風化の進んでいない堅硬な岩石と比較すると,軟質の砂岩や凝灰岩は密度が小さい傾向にあります。また,砂利や砕石において,吸水率が大きいということは,内部に毛細空隙が多く,組織が密でないことを意味し,密度の低下にもつながります。このように,密度および吸水率は,粗骨材の風化や内部の毛細空隙,さらには強度を評価するための簡易的な指標になりえます。コンクリートの圧縮強度に対する粗骨材の密度および吸水率の影響については,両者の間に相関が見られるという報告7)がなされています。一方,両者の間には有意な相関が見られないとする報告もあり,この理由としては,塩基性岩は酸性岩に比べて密度は大きいが強度は必ずしも高くないことなどが挙げられています8)。したがって,粗骨材の密度および吸水率に関する規定は,簡易的な評価をもとに品質(強度など)の低い粗骨材を除外するためのものと位置付けられます。
(3)-2 すり減り量について
粗骨材のすり減り量は,JIS A 1121(ロサンゼルス試験機による粗骨材のすりへり試験方法)に従って求められます。この試験は,鋼製のドラム(写真-7参照)の中に一定の粒度の試料と鋼球を入れて回転させ,鋼球と擦りあってすり減った(一部破砕された)量を測定することで,すり減り抵抗性を評価するものです。
粗骨材のすり減り抵抗性自体は,粗骨材の強度とある程度の相関を有する可能性は十分に考えられます。ただし,実際には,粗骨材のすり減り量とコンクリートの圧縮強度の間には明確な傾向は見られないという報告9)もあります。この理由は,すり減り量が強度だけでなく粒形の影響を大きく受けるため,つまり,粒形の悪い粗骨材ではすり減り量が大きくなるのに対して,モルタル部分との付着は良くなり,コンクリートの圧縮強度に関しては有利に働くためではないかと考察されています。
写真-7 ロサンゼルス試験機 |
(3)-3 破砕値について
粗骨材の破砕値(40トン破砕値,10%破砕荷重)は,BS 812-110(Testing aggregates. Methods for determination of aggregate crushing value)およびBS 812-111(Testing aggregates. Methods for determination of ten per cent fines value)に従って求められます。この試験は,鋼製容器に詰めた10~15mmの粗骨材にプランジャーを用いて荷重をかけ(写真-8参照),40トンまで載荷した後の2.5mmふるいを通過する試料の質量割合(40トン破砕値),もしくはその割合が10%となる荷重(10%破砕荷重)をもとに,粗骨材の強度を評価するものです。
破砕値は,粗骨材自体を用いてその強度を評価しうる指標であり,それがコンクリートの圧縮強度に及ぼす影響についても報告7),8),10)がなされています。いずれの報告でも,破砕値はコンクリートの圧縮強度を評価するための指標として比較的有効であるとされていますが,一方で,破砕値試験において粗骨材に加わる力は粗骨材同士の接触部分を伝わっていくため,粒形が悪いものほど破砕されやすいというように,粗骨材の粒形および粒度などの影響を受ける5),8)という課題も明らかになっています。
写真-8 破砕値試験状況 |
(3)-4 点載荷強さについて
粗骨材の点載荷強さは,JGS 3421(岩石の点載荷試験方法)に従って求められます。この試験は,写真-9のように,2点で試料を挟んで載荷し,破断するまでの最大荷重をもとに,粗骨材の強度を評価するものです。
岩石の点載荷強さは,引張強度および圧縮強度との間に相関がある11),12)ことが確認されています。この試験方法には,不整形の試料を用いて行うことができるというメリットがありますが,一方,試験結果のばらつきが大きいというデメリットもあります。ただし,試料の数を十分に多くすれば,それらの試験結果は概ね正規分布することが確認されており,基本的には10個以上の試料を用いて試験を行うのが望ましいとされています11)。
写真-9 点載荷試験状況 |
(3)-5 強度について
粗骨材(砕石)の強度(圧縮・引張)は,破砕される前の岩石から作製した試験体を用いて,JIS M0302(岩石の圧縮強さ試験方法)およびJIS M 0303(岩石の引張強さ試験方法)に従って求められます。この試験は,岩石の一軸圧縮試験(写真-10参照)および圧裂引張試験(写真-11参照)により,粗骨材(砕石)の強度を評価するものです。なお,粗骨材自体から切り出した寸法の小さい(例えば,一辺が10mmの立方体)試験体を用いて圧縮試験を行う方法13)も提案されています。
比較的低品質の粗骨材を用いた場合に,水セメント比を小さくしてもコンクリートの圧縮強度が増加しにくくなる5)と言われていますが,このことは,粗骨材の強度をパラメータとした解析的検討14),15)でも確認されています。
なお,これらの結果は,コンクリートの強度領域が高いほど粗骨材の強度がコンクリートの圧縮強度に及ぼす影響が大きくなる16)ことを意味しており,そのことを利用して,評価対象の粗骨材を用いて作製したコンクリートの圧縮強度試験結果をもとに,粗骨材の強度を間接的に評価する方法17)も提案されています。
写真-10 岩石の一軸圧縮試験状況 |
写真-11 岩石の圧裂引張試験状況 |
(3)-6 ヤング係数について
粗骨材(砕石)のヤング係数は,前述した一軸圧縮試験において載荷時のひずみを測定し,応力とひずみの関係から求められます。
一般的に,砂利および砕石のヤング係数はモルタル部分のヤング係数よりも大きい傾向にあります。
モルタル部分と粗骨材のヤング係数の差が大きいほど両者の界面の近傍に応力集中が生じやすく,局部破壊が生じやすくなると言われています5)。粗骨材のヤング係数を対象とした研究は少ないですが,超高強度コンクリートについて,ヤング係数の大きい粗骨材を用いた場合にコンクリートの圧縮強度が低くなる傾向にあるという報告12),18),19)がなされています。なお,ここでは粗骨材のヤング係数を,(3)主に粗骨材内部に生じるひび割れに影響を及ぼしうる粗骨材の物性に分類しましたが,応力集中は粗骨材だけでなくモルタル部分にも生じ,超高強度コンクリートの場合でも界面の近傍に生じたモルタル部分への応力集中に起因してコンクリートが破壊に至る場合もあることが示唆されている20)ため,場合によっては(2)主にモルタル部分に生じるひび割れに影響を及ぼしうる粗骨材の物性にもなりえると考えられます。
なお,コンクリートのヤング係数の推定方法に関する知見21)を利用して,評価対象の粗骨材を用いて作製したコンクリートのヤング係数試験結果をもとに,粗骨材のヤング係数を間接的に評価する方法13)も提案されています。
一般的に,コンクリートの配(調)合設計では,適切な水セメント比を設定することでコンクリートの圧縮強度を確保するという手法が取られるため,骨材がコンクリートの圧縮強度に及ぼす影響については忘れられがちな気がします。しかし,実際にはその影響は大きく,悪影響を及ぼす骨材が使用されないようなしっかりとした品質管理がなされているからこそコンクリートの圧縮強度が担保されていることを忘れてはいけないと思います。また,執筆者らは,超高強度コンクリートに関して,特殊な方法で粗骨材を厳選することでコンクリートの圧縮強度の変動を小さく抑える品質管理方法を開発・適用しており2),このように特殊なコンクリートに用いる骨材の品質管理方法は,必ずしも通常の方法で十分とは言えない場合もあると考えています。なお,ここではコンクリートの性質の中でも圧縮強度に及ぼす影響を取り上げましたが,骨材の物性は,施工性や耐久性なども含めて,コンクリートの性質全般に大きな影響を及ぼしうるものであり,コンクリートの品質管理において重要な要素であることは言うまでもありません。
健全なコンクリート構造物では,骨材は外観上は見えないため目立たないですが,これを機会に,コンクリートを陰で支えている重要な存在であることを認識いただくことで,骨材に限らずコンクリートを構成する様々な材料に対してより深く関心を持っていただければ幸いです。