日本コンクリート工学会

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2016年12月号

ジオポリマー ~セメントを使わないコンクリート~

コンクリートは,水,セメント,砂,砂利を混ぜ合わせてできています。
少し専門的な話をすると,セメントにはいくつかの種類があって区別されていたり,砂と砂利をそれぞれ細骨材と粗骨材と呼んだり,コンクリートの性質を調整する化学混和剤と呼ばれる薬剤も一緒に混ぜられていたりします。
また,混和材と呼ばれる別の材料を加えたものなど,世の中にはさまざまなコンクリートがあります。
しかし,最近「セメントを使わないコンクリート」という新しい材料が出てきました。
「ジオポリマー」あるいは「ジオポリマーコンクリート」などと呼ばれるものです。
今回の月刊コンクリート技術では,この「ジオポリマー」を紹介します。

写真 ジオポリマーまくらぎ img
写真 ジオポリマーまくらぎ

鉄道のレールを支えるために敷かれる「まくらぎ」を「ジオポリマー」で作製したもの。
まくらぎ(枕木)という名前がピッタリな「木製のまくらぎ」のほか、鉄道ではコンクリート製(プレストレスト・コンクリート)や樹脂製のものなどが使われています。


セメントを使わないコンクリート?

ジオポリマーの話をする前に,「セメントを使わないコンクリート」の意味を考えてみます。
セメントのないコンクリートは,単純に考えると「水」と「砂」と「砂利」になります。
「水」と「砂」と「砂利」だけでは,混ぜ合わせても泥団子のような状態でうまく固まりません。
しかし,そこに「セメント」が加わると,「水」と「セメント」が化学反応を起こして固まります。
これがコンクリートです。
つまり,「セメントを使わないコンクリート」には,セメントの代わりにコンクリートを固めるための「何か」が必要となります。

セメントを使わないコンクリート img

セメントの代わりに使われている“何か”

実は,ジオポリマーを造る材料の組合せはひとつだけではないため,簡単な説明が難しいのですが,ここではひとつの例をもとにして説明していきます。

ジオポリマーは,水,ケイ酸アルカリ,石炭灰,砂,砂利を混ぜ合わせて造ることができます。
この場合,セメントの代わりに使われている「何か」は,「ケイ酸アルカリ」と「石炭灰」となります。
コンクリートでは「水とセメントの化学反応(水和反応)」が起きていましたが,ジオポリマーでは「水とケイ酸アルカリと石炭灰の化学反応(重合反応)」が起きているのです。

少し専門的な話をすると,石炭灰は「アルカリに活性のある成分を含む非晶質粉体」として使用する材料ですので,ジオポリマーは石炭灰ではない他の材料でも造ることができます。
そのため,いろいろな材料の組合せがあるのです。
また,「ケイ酸アルカリ」はあまりなじみがない材料かもしれませんが,例えばケイ酸アルカリにはケイ酸ナトリウム(ケイ酸ソーダ)があり,石鹸や洗剤,接着剤などの原料となるなど,さまざまな用途で使われている材料です。
ケイ酸ナトリウムの濃い溶液は水あめのような状態となり、「水ガラス」とも呼ばれます。

ここで,石炭灰について考えてみますと,石炭灰はコンクリートに混ぜて使われる混和材と呼ばれる材料のひとつでもあります。
コンクリートに使われる石炭灰の代表例がフライアッシュです。
フライアッシュは火力発電所で石炭を燃焼した際に出る副産物ですが,ゴミとして処分するのではなく資源として有効に活用するため,コンクリートに練り混ぜて使用する混和材に広く用いられています。
つまり,ジオポリマーに用いられる材料として独特であるのは,「ケイ酸アルカリ」だけと考えることもできます。
ただし,ジオポリマーが固まるためには,石炭灰のような「アルカリに活性のある成分を含む非晶質粉体」が欠かせません。

それでは,ジオポリマーが固まる際の化学反応とは,どのようなものなのでしょうか。


「水」と「ケイ酸アルカリ」と「石炭灰」の化学反応

「水」と「ケイ酸アルカリ」と「石炭灰」の化学反応を,「水ガラス(ケイ酸ナトリウム水溶液)」と「石炭灰」を例に説明します。
「水ガラス」は,ケイ酸(SiO2)と酸化ナトリウム(Na2O)と水(H2O)の比率によって性質や用途が異なる液体の材料です。
ここに,「石炭灰」が加わると,石炭灰に含まれるアルミニウム(Al)とケイ素(Si)が溶け出し,それらは高分子化合物(ポリマー)のように重合反応を生じてやがて固まります。
このようにして石炭灰を使ってできあがるジオポリマーの硬化体は,外見的にいわゆる普通のコンクリートとあまり違いがなく,ねずみ色をしています。
コンクリートでは,セメント中のカルシウム(Ca)を含む成分が水と反応してできた細かなカルシウム系の水和物が絡まりあうような形で成長し,硬化体が形作られます。
それに対して石炭灰を使用したジオポリマーでは,アルミニウムやケイ素が重合して岩石のように固まります。
岩石は地球を構成する物質ですので,地球を意味する「ジオ(Geo)」という言葉と,重合体を意味する「ポリマー(Polymer)」を合わせて「ジオポリマー(Geopolymer)」としたのが名称の語源とされています。

水ガラスと石炭灰の化学反応は,ほかの材料を組み合わせることでも引き起こすことができます。
例えば,水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ溶液と,メタカオリンなどのアルミニウム成分とケイ素成分を含む粉末の組合せがあります。
コンクリートの性質が水とセメントの比率で大きく変化するように,ジオポリマーでは水とアルカリ成分とケイ素などの比率が性質に大きく影響します。


未来の(古代の?)材料 「ジオポリマー」

ジオポリマーは,「セメントを使わないコンクリート」と呼ばれるだけあって,コンクリートと同じような用途で使う材料として,土木,建築の分野で研究開発や実用化が進められています1, 2)
「セメントを使わない」という代名詞には,セメント製造時のCO2発生を避けるということ,「環境負荷低減への期待」が込められています。
コンクリートに比べるとジオポリマーの研究の歴史は始まったばかりですので,今後のさらなる進展が望まれます。
またその一方で,ジオポリマーはローマ時代の建設物やエジプトのピラミッドに使われていた技術に近いと考えている研究者もいます3)。ピラミッドの巨大な石はコンクリートのように型枠に材料を流し込んで(詰め込んで)造られた「人造石」である,という説があるそうです。
コンクリート工学だけでなく考古学のような分野でも注目されている(かもしれない)技術の「ジオポリマー」のこと,少しでも興味を持っていただければ何よりです。

未来の(古代の?)材料 「ジオポリマー」 img
参考文献

(執筆者:西尾壮平 鉄道総合技術研究所)

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