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2016年7月号

海水を利用したコンクリートについて

1. はじめに

 コンクリートの練混ぜ水に海水や未洗浄の海砂を使用することは,塩化物イオンによる鋼材腐食に対する懸念から,特に鉄筋コンクリート,プレストコンクリートの分野では認められていないのが現状です。しかし一方で,この海水練りコンクリートは,淡水や陸砂が入手し難い遠隔離島における工事,地震や水害など大規模災害時の緊急復旧工事への適用など国土保全に大いに貢献できる技術であり,近年,国内のみならず中東や東南アジアなど真水が極めて貴重な国や地域を中心に注目が高まっています。JCIでは,2012年に「コンクリート分野における海水の有効利用に関する研究委員会」が発足し,現在は「海水の有効利用に関する広報普及委員会」として活動を続けています。ところで,過去に建設されたコンクリート構造物のなかには,練混ぜ水に海水を用いた記録が多くあります。たとえば,写真-1に示す長崎県佐世保市宇久島の肥前長崎鼻灯台は,昭和34年に建設された鉄筋コンクリート構造物ですが,50年以上経過した今でも現役の灯台として供用されています。

執筆者:片野啓三郎(大林組)

写真-1 肥前長崎鼻灯台 img
写真-1 肥前長崎鼻灯台(出典:海上保安庁佐世保海上保安部HP

2. 世界の水事情

 資源の有効利用が求められる現代で,水資源に関しては,人口の増大や急激な都市化の進展によって2050年には世界の飲用水が困窮するとも予測されています。地球には約14億km3もの水が存在しますが,海水がそのうちの96.5%を占め,淡水の割合は2.5%程度で,約0.35億km3です。さらに,そのまま利用可能な淡水はそのうちの30%で,地球上の全水量の0.8%(0.1億km3)に過ぎません(図-1)。コンクリート分野においては,練混ぜ水,養生水,清掃水等に利用される水は世界で年間数十億トンにのぼるため,これらの用途に積極的に海水を利用することで,水資源を有効に利用することができると考えられます。

(a)地球の水の種類 img (b)淡水の内訳 img
図-1 地球上の水の種類と内訳

3. 過去の事例から学ぶ

 肥前長崎鼻灯台のほかにも,遠隔離島(沖ノ鳥島)の護岸(写真-2),港湾の堤防(写真-3)など,昭和30~50年代に施工された構造物の中で,淡水の調達が難しい場合に海水を練混ぜ水として使用した記録が残っており,これらは現在でも供用されています。また,長崎県の軍艦島(端島)におけるRC建物および護岸(写真-4)の調査を行った結果,建築学会で練混ぜ水としての海水の使用が規制された昭和8年以前の構造物では,練混ぜ水として海水が使用された可能性が高いとされています。

写真-2 沖ノ鳥島 img
写真-2 沖ノ鳥島(出典:国土交通省関東地方整備局HP
写真-3 田後港 img
写真-3 田後港
写真-4 軍艦島(長崎市提供) img
写真-4 軍艦島(長崎市提供)

 一方,現代の新設構造物において練混ぜ水に海水を用いたコンクリートはほとんどありません。この理由は,海水または未洗浄の海砂を用いたコンクリート構造物が早期に著しく劣化したことを受け,海水や未洗浄の海砂の使用が規制されたためです。しかし,上記のように長期間供用されている構造物があるという事実により,適切な計画,設計,施工を行うことで,問題なく海水を使用できる可能性が示唆されているのです。

4. 最近の動向

 海水練りコンクリートについて,近年になって新たに研究開発が行われています(表-1)。これらの研究の中で,高炉スラグ微粉末やフライアッシュのような副産物および海水練り用特殊混和剤を用いることで,強度の増進や水密性の向上などの品質向上効果が明らかになってきています(図-2~図-3)。このような特長と,水の調達におけるメリットがみとめられ,東日本大震災における港湾施設の復旧工事にも適用されました(写真-5)。

 また,現在では,被覆鉄筋やステンレス鉄筋,炭素繊維ロッドのような防食性の高い補強材が開発されており(図-4),今後は鉄筋コンクリート構造物にも適用が展開できると考えられます。

表-1 新しく開発された海水練りコンクリート
名称 特長 適用事例
(実証試験なども含む)
高耐久海水練りコンクリート 混和材(高炉スラグ微粉末,フライアッシュなど)や特殊混和剤を使用することにより,強度や耐久性を向上させたコンクリート ・消波ブロック
(震災がれきを骨材として使用)
・舗装コンクリート
(製鋼スラグを骨材として使用)
海水・海砂を用いた自己充填型コンクリート 高炉セメントと新たに開発した混和剤を使用した自己充填性を持つコンクリート ・漁場施設ブロック
・防波堤本体ブロック
(いずれも震災がれきを骨材として使用)
スラグ併用石炭灰コンクリート フライアッシュ原粉を多量使用し,銅スラグ,製鋼スラグなどを骨材として使用することで単位容積質量を確保したコンクリート ・大型消波ブロック
(各種スラグを重量骨材として使用)
図-2 高耐久海水練りコンクリートの圧縮強度 img
図-2 高耐久海水練りコンクリートの圧縮強度
(高炉スラグ微粉末50%置換)
図-3 高耐久海水練りコンクリートの透水係数 img
図-3 高耐久海水練りコンクリートの透水係数
写真-5 海水練りコンクリートを適用した港湾用ブロック(相馬港) img
写真-5 海水練りコンクリートを適用した港湾用ブロック
(相馬港)
(a)エポキシ樹脂塗装鉄筋 img
(a)エポキシ樹脂塗装鉄筋
  →腐食無し
(b)炭素繊維ロッド img
(b)炭素繊維ロッド
  →腐食無し
(c)普通鉄筋 img
(c)普通鉄筋
  →腐食
図-4 補強材の腐食促進試験結果
(オートクレーブ試験33サイクル)
[参考文献]
日本コンクリート工学会:コンクリート分野における海水の有効利用に関する研究委員会報告書,2014.9
竹田宣典・大即信明:海水練りコンクリート,コンクリート工学,Vol.54,No.5,pp.525-530,2016.5

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