日本コンクリート工学会

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2015年12月号

コンクリート中の気泡の役割・制御に関する研究委員会
(中間報告会実施報告 (2015/6/26 実施))

 コンクリート中の気泡は,ワーカビリティーの改善,硬化コンクリートの凍結融解抵抗性に影響を及ぼすことが一般的に知られています。特に,凍結融解作用を受けるコンクリートの凍害を抑制するためには,写真1に示すような微細な気泡をコンクリート中に連行し,氷晶の生成にともなう不凍結水の移動圧を緩和する機構を形成することが極めて重要となります。一方で,最近の研究において,ダムコンクリートとして一般的に使われている中庸熱フライアッシュセメントを用いたコンクリートでは,連行された気泡が合泡・破泡して凍結融解抵抗性が低下すること1),2),収縮低減剤を用いる場合に適切な空気量の確保が困難になる3),4)という問題が指摘されており,コンクリート中の気泡の挙動を制御・管理する技術の必要性が再認識されています。本稿では,コンクリート中の気泡の役割や効果について紹介します。

(執筆者:橋本学 鹿島建設)

写真1 硬化コンクリート中の気泡分布 img
写真1 硬化コンクリート中の気泡分布

コンクリート中の気泡の役割や効果

①フレッシュコンクリート中の空気量

 Kamal H. Khayatら3)は,スランプフローが600mm程度の高流動コンクリートを対象として,練上がり後90分経過まで10分ごとに3分間のアジテートを行った際の気泡特性について検討を行っています。これによると,各アジテート時間経過後のフレッシュ時の空気量は,アジテート時間に伴い約2%程度減少することが示されています。また,初期のスランプフローが大きい配合では,アジテートに伴う空気量の減少量がやや大きくなる傾向にあるとされています。

 スランプ8cmのコンクリートを対象に振動締固めの影響を検討した研究4)では,振動締固め後の空気量は,練上がり直後の空気量よりも低下するが,練上がり直後の空気量が多いほど,振動後の空気量の減少が少なく,また,単位セメント量が多いものほど,振動締固め後の空気量の減少は少なくなる傾向にあることが示されています。

②硬化コンクリートの気泡組織

 セメントの種類と凍結融解抵抗性の関係については,セメント協会の「各種セメントを用いたコンクリートの耐久性に関する研究」5)で示されるように,所定の空気量が連行されていれば,セメントの種類によらず十分な凍結融解抵抗性を確保できることが知られています。しかしながら,セメント種類が硬化コンクリートの気泡組織に及ぼす影響については,セメント種類ごとに総合的に比較検討されているデータは少なく,現時点では必ずしも明確でありません。

 坂田ら6)は,硬化したコンクリートの気泡組織と凍結融解抵抗性に関するデータを分析した結果,図1に示されるように,凝結過程においてコンクリートの空気量は減少し,この傾向は普通ポルトランドセメント(OPC)よりもダムコンクリートで一般的に使用される中庸熱フライアッシュセメント(MF30)を用いた場合が顕著であることを示しています。

図1 フレッシュコンクリートの空気量とフレッシュ時から硬化後の空気量の増減の関係 img
図1 フレッシュコンクリートの空気量とフレッシュ時から硬化後の空気量の増減の関係6)
(フレッシュコンクリートの空気量 4.0~5.5%の範囲)


 また,阿波ら7)は,フェロニッケルスラグ細骨材および粗骨材を用いた普通コンクリートによる検討において,図2に示されるように,ブリーディングの影響により気泡が粗大化し,気泡間隔係数が増大することを示しています。加えて,山﨑ら8)は,高炉スラグ微粉末(BFS)の置換率の増加に従い,凍結融解抵抗性が低下する理由として,ブリーディング速度が増大して,気泡間隔係数が大きくなることを示しています。このように,硬化コンクリートに適切な気泡組織を形成するためには,フレッシュコンクリートのブリーディングが過大とならないように制御することが必要となります。

図2 気泡間隔係数とブリーディング量の関係 img
図2 気泡間隔係数とブリーディング量の関係7)

③混和剤
 AE剤は多くの微細な気泡をコンクリートに導入し,凍結融解抵抗性を改善させるとの報告が多く見られますが,その一方で,多量に連行された空気量を調節するために用いる消泡剤について,気泡径分布および気泡間隔係数に悪影響を及ぼすという報告9),10)があります。また,消泡剤は,図3に示すように,凍結融解抵抗性に寄与しない粗大径の気泡を消失させるよりも,AE剤で連行されるような微細な気泡の発生を抑える抑泡効果の方が卓越しているとの報告11)もあるので,その使用には十分な検討が必要です。

図3 消泡剤使用による気泡径分布の変化 img
図3 消泡剤使用による気泡径分布の変化11)
(X,Zは高性能AE減水剤の種類,Rは消泡剤,数値は使用量)

おわりに

 本稿では,気泡委員会による中間報告の一部の内容を紹介しました。本委員会の活動は2015年度末まで行われ,その後には研究成果を広く周知するための報告会を開催する(2016/6/29(水))予定です。本委員会の活動によって,今後,コンクリート中における気泡の役割や効果,制御・管理技術に関する知見が整理され,気泡に起因して凍結融解抵抗性が課題となるフライアッシュなどの産業副産物や収縮低減剤の利用促進,気泡制御技術の活用が期待される新たなコンクリート(高強度コンクリートや二次製品など)の研究開発の推進に寄与できれば幸いです。

〔参考文献〕
1)坂田 昇・菅俣 匠・林 大介・橋本 学:中庸熱フライアッシュセメントを用いたコンクリートの耐凍害性に及ぼす凝結過程の空気量変化の影響,コンクリート工学論文集,Vol.22,No.3,pp.47-57,2011
2)坂田 昇・菅俣 匠・林 大介・橋本 学:コンクリートの気泡組織と耐凍害性の関係に関する考察,コンクリート工学論文集,Vol.23,No.1,pp.35-47,2012
3)Kamal H. Khayat and Joseph Assaad : Air-Void Stability in Self- Consolidating Concrete, ACI Materials Journal,V.99,No.4,pp.408-416,2002
4)坂ノ上宏・牛島 栄・笠井英志・清水正弘:コンクリート製品の空気量および凍結融解抵抗性に及ぼす影響(その2)硬化後の空気量測定および凍結融解試験,土木学会第58回年次学術講演会,pp.409-410,2003
5)(社)セメント協会:各種セメントを用いたコンクリートの耐久性に関する研究,コンクリート専門委員会報告F-55,pp.14-16,2008
6)坂田 昇・橋本 学・菅俣 匠・緒方英彦:中庸熱フライアッシュセメントを用いたコンクリートの耐凍害性に関する研究,コンクリート工学年次論文集,Vol.35,No.1,pp.895-900,2013
7)阿波 稔・迫井裕樹・庄谷征美・月永洋一・長瀧重義:フェロニッケルスラグを粗骨材として用いたコンクリートの基礎的性質,コンクリート工学論文集,第21巻,第3号,pp.63-75,2010
8)山﨑 舞・千歩 修・長谷川拓哉:高炉スラグ細骨材を用いたコンクリートの耐凍害性におよぼすブリーディングの影響,コンクリート工学年次論文集,Vol.34,No.1,pp.898-903,2012
9)児島孝之・高木宣章・栗栖一之:フェロニッケルスラグ細骨材の微粒分がコンクリートの物性に及ぼす影響に関する研究,セメント・コンクリート論文集,第51巻,pp.772-777,1997
10)児島孝之・高木宣章・栗栖一之・抜木幸次:フェロニッケルスラグ細骨材コンクリートの耐凍害性に及ぼす微粒分の影響,セメント・コンクリート論文集,第52巻,pp.468-473,1998
11)濱 幸雄・平野彰彦・田畑雅幸・新 大軌:コンクリートの気泡組織に影響する要因と耐凍害性に関する研究,日本建築学会構造系論文集,第73巻,第634号,pp.2061-2067,2008

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