ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2026年8月号
建設分野において,既設の土木構造物や建築物のコンクリート部材(母材 に新たに部材を接合する場合や,母材に付帯設備や機器を取り付ける場合等に,あと施工アンカー工法が適用されることがあります。あと施工アンカー工法は,硬化したコンクリートの母材に穿孔して,アンカーボルト,鉄筋等のアンカー鋼材を後から埋め込む工法です。本号では,あと施工アンカー工法の基本的な事項について説明します。なお,会誌『コンクリート工学』では,過去に,講座「あと施工アンカー入門」1)〜3)が連載されていますので,そちらも併せて,参照してください。
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あと施工アンカー工法は,硬化したコンクリートの母材にアンカー鋼材を後から埋め込む後付け(後打ち)アンカー工法に属するものであり,ハンマードリル等を用いて母材に穿孔した孔にアンカー鋼材を埋め込みます。後付け(後打ち)アンカー工法のうち,コンクリートの打込み前にアンカー鋼材を埋め込むための孔をあらかじめ箱抜き(型抜き)しておく場合には,箱抜き(型抜き)アンカー工法と呼びます。
あと施工アンカーの種類4),5),6)を図-1に示します。あと施工アンカーには,大きく分けて,接着系アンカー,金属系アンカー,その他のアンカー類があります。接着系アンカーは,有機系あるいは無機系の充填剤でアンカー筋を母材に固着するあと施工アンカーです。接着系アンカーは,充填方法によりカプセル方式と注入方式に,使用する充填剤の種類により有機系と無機系に大別されます。金属系アンカーは,固着部で直接母材に固着させる金属製の部品で構成されるあと施工アンカーで,さらに,金属拡張アンカーと金属拡底アンカーに大別されます。金属拡張アンカーは,施工方法により,打込み方式と締付け方式に大別されます。
あと施工アンカーの固着原理4)を図-2に示します。接着系アンカーは,母材のコンクリートの孔壁とアンカー筋との空隙に接着剤を充填し,コンクリートの孔壁とアンカー筋のそれぞれの接着(付着)力と,接着剤中の骨材等(フィラー)と孔壁のコンクリート面とのかみ合いによって固着するものです。固着力の程度は,母材のコンクリートの強度のほか,孔壁のコンクリート面およびアンカー筋の凹凸度合いや接着剤のせん断抵抗に左右されます。金属拡張アンカーは,あと施工アンカーの一部を打撃あるいは回転させて,アンカー先端の拡張部を開かせることによって孔壁に拡張部を押しつけて摩擦力を高めて固着するものです。固着力の程度は,母材のコンクリートの孔壁から拡張部が受ける支圧力とそれに伴って生じる摩擦力によって決まります。金属拡底アンカーは,先端の拡径部の「くさび作用」によって固着するものです。孔底(孔の先端部)を拡径して,より大きな先端拡径部にすることによって,母材のコンクリートに対して,主に拡径部の支圧力による機械的なかみ合い作用によって固着力を確保します。
![]() 図-1 あと施工アンカーの種類(文献4),文献5),文献6)をもとに作成) |
![]() 図-2 あと施工アンカーの固着原理4) |
あと施工アンカー工法の設計は,適用する基準類に準じて行います。設計方法は,適用する基準類によって異なる場合がありますが,ここでは,あと施工アンカー工法の設計に関する基本的な用語4),5)を説明します。図-3は,あと施工アンカーの埋込み状況を説明する場合に必要な用語を示しています。図-4は,あと施工アンカーが隣接するあと施工アンカーや母材端部と近接している場合に特有の用語を示しています。
・穿孔深さ:母材の表面から穿孔する孔底までの深さ。ただし,孔底の円錐状の部分を含まない。(図-3)
・埋込み長さ(埋込み長):あと施工アンカーを母材に埋め込む長さ。設計では,埋込み長さ(埋込み長)をそのまま用いるのではなく,有効埋込み長さ(設計有効埋込み長)を用いる場合が多い。(図-3)
・アンカー間隔(アンカーピッチ):隣り合うあと施工アンカー間の中心間距離(純間隔)。(図-4)
・へりあき:あと施工アンカーの中心から作用する力(引張力,せん断力)の方向と直角方向に最も近い母材端部までの距離。(図-4)
・はしあき:あと施工アンカーの中心から作用する力(せん断力)の方向に最も近い母材端部までの距離。せん断力が作用する場合に用いる用語である。(図-4)
ここで説明した用語の定義は一般的なものです。あと施工アンカー工法の設計に関する詳細は,適用する基準類4),5),7),8),9)等に記載があります。基準類によっては,適用範囲とする用途と関係して,対象とするあと施工アンカーの種類を限定しているものがあります。例えば,文献5)における後打ちアンカー工法では,主に接着系アンカーを対象としており,金属拡張アンカーは付録に記載されています。文献7)では,金属拡張アンカー(打込み方式)および接着系アンカー(カプセル方式)を対象としています。また,あと施工アンカー工法ではなく,先付けアンカー工法を対象にしている文献10)もあります。
![]() 図-3 穿孔深さと埋込み長さ4) |
![]() 図-4 アンカー間隔(アンカーピッチ),へりあき,はしあき(文献4),9)をもとに作成) |
あと施工アンカー工法の施工は,大きく,穿孔,固着,検査の手順に分けられます。穿孔は,穿孔位置の墨出し,ドリルへの穿孔深さのマーキング,コンクリートの穿孔,孔内清掃および穿孔深さの確認等を行います。固着は,選定したあと施工アンカー工法に応じて行います。例えば,接着系アンカー(注入方式)の場合には,アンカー筋への埋込み長さのマーキング,接着剤の注入,アンカー筋の埋込み,硬化養生等を行います。金属拡張アンカー(打込み方式)の場合には,アンカー挿入,アンカーの打込み等を行います。文献11)では,あと施工アンカーの種類ごとに,施工手順が詳細に解説されています。施工時の品質管理や検査として,目視,触診,打音,加力試験等を必要に応じて実施します。加力試験では,現場で施工されたあと施工アンカーに対する非破壊の試験として,引張試験を実施する場合が多いです。文献4),7),8),9)には,品質管理や検査の方法や頻度の例が記載されています。
あと施工アンカー工法の施工時に参照すべき資料としては,適用する基準類4),7),8),9),12)〜15)等,工事仕様書,使用するあと施工アンカーの施工要領書等があります。
あと施工アンカー(あと施工アンカー部)の破壊形態には,コーン状破壊,アンカー破断,付着破壊,支圧破壊等があります4),5)。
・コーン状破壊:あと施工アンカー部に引張力が作用したときに,母材であるコンクリートが円錐状(コーン状)に破壊する破壊形態。
・アンカー破断:あと施工アンカー部に引張力またはせん断力が作用したとき,あと施工アンカーのアンカー本体やアンカーボルトが破断する破壊形態。
・付着破壊:接着系アンカーにおいて,あと施工アンカー部に引張力が作用したとき,母材のコンクリートと接着剤の界面,または接着剤とアンカー筋の界面で破壊が生じてアンカー筋が抜ける破壊形態。
・支圧破壊:あと施工アンカー部にせん断力が作用したとき,アンカーボルトに支圧されることで母材のコンクリートの表面近傍が破壊する破壊形態。
接着系アンカーの破壊形態
接着系アンカーの代表的な破壊形態を図-5に,破壊状況を図-6〜図-9に示します16)〜18)。あと施工アンカー部に引張力が作用したとき,埋込み長さが短い場合には,コーン状破壊が支配的ですが,埋込み長さが長くなると,付着破壊が見られるようになり,埋込み長さが十分長い場合には,アンカー筋の降伏,破断に至ります。あと施工アンカーとコンクリートの縁端部が近接し,へりあき寸法が小さい場合には,コーン状破壊面がコンクリート側面に達することがあります(図-7)16),18)。この場合,へりあき寸法が十分大きい場合と比較し,コーン状破壊面が小さくなることで,耐力が低下します。あと施工アンカーどうしが近接し,アンカー間隔が小さい場合には,隣接するアンカーのコーン状破壊面の一部が重なりあい,つながった一つのコーン状破壊面が形成されることがあります(図-8)17),18)。この場合,アンカー間隔が十分大きい場合と比較して,アンカー本数分の耐力が得られないことが多く,これを一般に,群効果と呼びます。あと施工アンカー部にせん断力が作用したとき,あと施工アンカーとせん断力作用方向のコンクリートの縁端部が近接し,はしあき寸法が小さい場合には,コンクリートの支圧破壊やアンカー破断ではなく,コンクリートの縁端部でコーン状破壊が生じることがあります(図-9)17)。この場合,はしあき寸法が十分大きい場合と比較して,耐力が低下します。
![]() 図-5 接着系アンカーの破壊形態(破壊形態の名称は文献中での表記)17) |
![]() 図-6 接着系アンカーの破壊状況(引張,単体)17) |
![]() 図-7 接着系アンカーの破壊状況(引張,単体,へりあき)16) |
![]() 図-8 接着系アンカーの破壊状況(引張,群効果)17) |
![]() 図-9 接着系アンカーの破壊状況(せん断)17) |
金属拡張アンカーの破壊形態
金属拡張アンカーは,接着系アンカーと異なり,一般に,埋込み長さが短いため,アンカー降伏,破断による破壊形態となることは稀で,コーン状破壊による破壊形態となる傾向があり,固着方法や埋込み長さによっては,コーン状破壊に至るまでに,アンカー本体の抜出しが生じる場合もあります1),2)。また,あと施工アンカー部にせん断力が作用したとき,あと施工アンカーとせん断力逆方向のコンクリートの縁端部が近接する場合,アンカー奥側の支圧力によって縁端方向にコーン状破壊(プライアウト破壊:図-10(b)の③)が生じることがあるため,注意が必要です2)。
![]() 図-10 金属拡張アンカーのせん断抵抗と破壊モード2) |
あと施工アンカー工法は,製品ごとにカタログや施工要領書があり,施工に必要な機材もハンマードリル等の穿孔機器等のみで,大型な機材,特殊な機材は不要であり,施工も容易です。一見すると,便利で簡易な印象があるかもしれませんが,一旦不具合が発生すると,重大事故19)につながる恐れもあります。以下にあと施工アンカー工法における主な留意事項4),5),7),8),9),20)等を示します。
あと施工アンカーの選定
あと施工アンカーの製品は豊富にありますが,種類によって,特性,適用可能な条件が異なるため,用途,使用箇所,使用条件,施工条件に応じて,あと施工アンカーを適切に選定することが重要です。例えば,接着系アンカーと金属拡張アンカー,また,接着系アンカーの接着剤の種類によって,耐火性や耐振動性が異なります。一般に,有機系接着剤を使用する接着系アンカーは耐火性に劣るため,火災の懸念がある箇所での使用を避けることが多く,また,金属拡張アンカーは,繰返し荷重により拡張部周辺のコンクリートが損傷・粉体化し,固着力が低下する恐れのあることから,列車振動や列車風圧等による繰返し荷重の影響が大きい箇所での使用には適していません9)。接着系アンカーでは,施工可能な条件が異なり,穿孔後,湿潤状態で接着剤の注入ができるものとできないもの,上向き施工ができるものとできないものがあり,また,硬化に要する時間も数時間〜1日程度と異なります。
あと施工アンカーの設計
あと施工アンカーのカタログに耐力が記載されている場合もありますが,「あと施工アンカーの破壊形態」で記述したように,アンカー間隔(群効果),へりあき,はしあきの影響により耐力が低下する場合があるため,実際のあと施工アンカーの配置を考慮して,耐力を適切に評価することが重要です。
また,あと施工アンカー部が破壊したときでも,直ちに付帯設備の崩落等,重大な事象が発生しないような配慮も重要です4)。例えば,あと施工アンカー部が引張力のみではなくせん断力を受ける形式とすること,安全係数を適切に設定し,コーン状破壊等の脆性的な破壊形態を避けて,アンカー降伏等の靭性的な破壊形態となるように設計すること,バックアップシステムを追加すること,供用後にあと施工アンカー部を点検しやすい構造にすること等があげられます。
あと施工アンカーの施工
あと施工アンカーの性能は,施工の品質に大きく依存します。不適切な施工により,設計通りの耐力が発揮されない場合もあり,既往の研究では,穿孔後の清掃不良,接着剤の注入不良により,耐力が約7割〜8割低下する実験結果16)もあります。また,既設の土木構造物や建築物に穿孔を行う場合には,鉄筋探査を実施して,誤って鉄筋を切断することがないように注意します。施工計画を策定して,品質管理を適切に実施することが重要となります。
土木構造物におけるあと施工アンカーの使用例21)を図-11〜図-14に示します。図-11は落橋防止を目的とした落橋防止装置(鋼製ブラケット),図-12は線路直角方向の走行安全性の確保を目的とする移動制限装置と落橋防止を目的とする落橋防止装置を兼ねた装置です。これらの装置は,通常,あと施工アンカーを用いて,既設の橋脚や橋台に設置されます。図-13および図-14は,ラーメン高架橋の柱の鋼板巻立て補強であり,鋼板を建て込んで,固定するためにあと施工アンカーを設置しています。
建築物におけるあと施工アンカーの使用例22)を図-15および図-16に示します。集合住宅のバルコニーの先端に外付けフレームを設置し,その中に制震ブレースを取り付けた事例であり,フレームは,バルコニー先端に設けたあと施工アンカーと,フレームに設けたスタッドの間にグラウトを充填することで既存建物との一体化を図っています。
その他,様々な分野におけるあと施工アンカーの使用例が文献23)で紹介されていますので,参照してください。
![]() 図-11 落橋防止装置 (鋼製ブラケット)21) |
![]() 図-12 移動制限・ 落橋防止兼用装置21) |
![]() 図-13 鋼板固定アンカー設置21) |
![]() 図-14 鋼板建込み21) |
![]() 図-15 バルコニー側外付けフレーム取付部22) |
![]() 図-16 制震ブレース取付工事施工状況22) |
本号では,あと施工アンカー工法の基本的な事項について説明しました。また,本号では説明していませんが,あと施工アンカーを設置した後の維持管理も重要となります。あと施工アンカーは,付帯設備や機器の固定・追加,既設の土木構造物や建築物の耐震補強等,さまざまな活用方法があり,また,設計の柔軟性を高める極めて有意義な工法です。適切な材料選定,設計,施工,維持管理のもと,あと施工アンカーが土木構造物や建築物の安全性や施工性の向上に一層貢献することを期待しています。